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第721話 ほんのり物騒

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第721話 ほんのり物騒

そんなこんなで準備万端、待ち合わせ場所へ。

市のはずれにもう2人がいる。同じ種族の他の人たちより、頭半分くらいでっかいんで目立ってる。

「やあ、待たせた」

「いや、時間より早い」

「まだ女神の馬車は姿を見せたばかりだ」

こっちの世界、陽光の精霊が馬車に乗って『こまかいの』や細かくない小さな光の精霊を振り撒いてるんで、太陽も馬車に乗ってるイメージのようです。

なので、『鉄槌のボインジ』が言った「女神の馬車は姿を見せたばかり」というのは、「太陽はまだ昇ったばかり」ということ。

特に北に住む人たちは、精霊を使った言い回しが好きなので、すぐに意味が取れなくてちょっと混乱する。

【言語】さんは、いっそ「女神の馬車」という単語を知らなければ、「まだ早い」って訳してくれるんだけど、知ってると直訳になってしまう。

「キャプテン・山羊」とかね。

もしかして、【言語】をもらった異世界人に酷い目に遭わされた過去とかない? 大丈夫?  【言語】さん対策とかじゃないよね?

ところで、朝早いと思うだろう?

この季節、こっちは日の出が遅いんで実は9時ごろです。

「何事もなければ女神の馬車が隠れる前に、大洞に着く」

『銀狐のバインズ』が言う。

なんかこう、何事もなければ、とかつけられるとフラグみたいに聞こえるからやめてほしい。

「これを。肌につくように着てくれ」

『銀狐のバインズ』が畳まれた服を差し出してくる。

「水の精霊の類を熱の精霊の類に変える 呪 ( まじな ) いが。海も黒山も凍える寒さ、我ら一族の秘密を贈ろう」

『鉄槌のボインジ』が言う。

「ありがとう」

受け取って、着替えのため風除けも兼ねて建物の影に。

どうやらバインボインの2人が半裸でいられるのは、この 呪 ( まじな ) いがあるからのようだ。

目を凝らして『視て』みたけど、何もなし。でも、着る時に裏にも刺繍があることに気づいた、これがきっと 呪 ( まじな ) い。

ここでじっくり確認するのは失礼だし待たせちゃうよね? 後でどうなってるのか見させてもらおう。

着たら、蒸気の精霊がおしくらまんじゅう始めたんですが。この蒸気って俺の体から出てるやつ?

よく『視える』ようにしておくと情報過多になるから困る。

って、そこで熱の精霊が生まれるの? おしくらまんじゅうで? マジか。

体から発散される水分が蒸気になって、肌と生地の間で分子が活発に動くのを繊維が捕まえる。それでも動こうとする水の分子の運動エネルギーが熱に変わって――ヒートテックの吸湿発熱が確かこんな感じだったはず。

呪 ( まじな ) いによるヒートテック強化精霊版! 暖炉のダンちゃんを直接突っ込んだ俺とは繊細さが違う!

いや、暖炉のダンちゃんの方が暖かいんだけどさ。

うん、種族的なものもやっぱりある気がする。この貰った服着てても半裸で歩く気にはならないもん。

「ありがとう、暖かい」

この肌着のいいところは偏りなく暖かいところ。

俺用になのか、長袖で丈も長めなんで尻あたりまで、ほんのりだけど寒さが緩んだ感じがする。

暖炉のダンちゃんは、いるところ中心に暖かい感じで、魔力を送って温度をあげすぎると、全体が温まる前に火傷する。

カーンに贈ったマントみたなの用意すればよかったかな?

いざとなったら空気の層を作ってもらって寒さを遮断しようと、雑な考えでいた俺です。いかん、もっと丁寧な暮らしを心がけないと、いざという時ボロが出る。

海辺に移動し、2人が用意した小舟に乗り込む。

港には小舟と似た形、でも大きな船がいくつも浮かぶ。細長く喫水が浅い船は、船首と船尾が同じ形をしている。

ナルアディードに停泊してる船とはだいぶ違う形だ。

喫水は、船舶が水上にある際に船体が沈む深さ。船体の一番下から水面までの垂直距離のこと。淡水か海水か、暖かいか冷たいかとかでも安全な喫水線って変わるらしい。

こんなに浅い船でひっくり返らないのかな? あと、寝る時どうするんだろ?

船室作れない気がするけど、そんなことないのかな?

「船、すごいな。短距離用?」

「狩りと略奪用だ」

ぶ!

直球の答えすぎるというか、オブラートどこ!?

「前後どちらにでも動けるし、重ねたオークは荒波に割れることもない。浅瀬にも乗り入れることができ、軽く、いざとなれば担いで移動できる。速く、強い船だ」

「今は向こうに停泊する船が人気だが、あれでは戦えん」

『銀狐のバインズ』の言葉に『鉄槌のボインジ』が頷きながら言い、別の方向に視線を向ける。

視線の先には、似てるけどちょっと横幅が広くて、喫水も深そうな船。実際深いから、水深で停泊場所が分かれてるんだろう。

「セイウチの牙、毛皮、生皮、武器、鎧、蜂蜜――昔は木材、小麦も運んでいたらしいが、その2つは今は他から買っている」

俺が生活や文化を知りたいって言ったせいか、『銀狐のバインズ』の説明は詳しい。

鉄が取れるから武器、鎧の輸出になるんだろうけど、鍋に留めてほしい俺がいる。俺も精霊剣とか作ってるし、剣とか鎧とか格好いいって思うんだけど、略奪とかいう単語を聞いたせいか、人間相手の戦闘を想像するんだよね。

北の大地は、魔の森と違って森に入って肉取ってくる! ってならないだろうし、中原みたいに風の精霊との約束だかで、肥沃な大地です! とかでもないし、食料が足りなければ略奪ってことになるのかって。