LNCrawler

第722話 船上での戦闘

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第722話 船上での戦闘

話しながらも手早く船を動かす2人。

帆を上げることなく、手漕ぎだけど、潮の流れを知っているのか、すごく速い。家にお邪魔した時も速かったけど、三角波の黒い海の上でも速い。

船の上でも色々聞いたけど、漕ぐ手は休むことなく、背筋がムキムキの主張をしている。俺も牛乳飲んだり、腕立てしたりしてるんだけど、涙ぐましい努力の割に全然筋肉つかない。

ひどくない?

ぐんぐん黒山ちゃんの威容が近づいてきて、近すぎて全体が見えなくなったころ、漕ぐのを止めて、2人が身支度を始める。

「そろそろ黒山の怪物たちの海域に入る。戦闘は我らが」

「だが、船が揺れる。覚悟を」

チェーンメイルを上から被り、船縁につけてあった丸盾を取る。

大型の戦斧を『銀狐のバインズ』が引き寄せ、『鉄槌のボインジ』がその名にある鉄槌を手に取る。

2人で漕いでいたところを、『銀狐のバインズ』1人が漕ぎ手となり、『鉄槌のボインジ』が辺りを警戒する。

魔物が下から突き上げてきたのを、鉄槌で叩く鈍い音。

黒山ちゃんは黒精霊好きじゃないし、黒山の魔物の領域というか、黒山に入れない魔物が溜まってる領域なんじゃなかろうか。

アホみたいに魔物が海から出てくるんですけど!

ああ、このへん、ドラゴンの盟約だかなんだかない場所? うん、魔物がボコボコでてくるね?

「これ船底大丈夫!?」

もちろん船自体にぶつかって突き上げてくるヤツもいる。

「我らが船は竜骨に 呪 ( まじな ) いを。この程度では割れぬ!」

『銀狐のバインズ』が船を操りながら言う。

「これひっくり返らない!?」

直接ぶつかってくるし、魔物が出るたび波がですね! ざっぱんざっぱん入ってくるし!

「我が弟の操船技術を信じよ! 何度も荒れた海を超えてきた!」

『鉄槌のボインジ』が吠えるように言い、鉄槌を振り下ろす。

そこは人依存なのか!

いざとなったら【転移】できるけど、それとこれとは別! 安全だとわかっててもジェットコースターとかスリリングだろう? そんな感じです!

魔物俺が倒しちゃダメ!?

ダメだよね!!!!

わかってます!!!!!!

ああああああああああああ!!!!!

「女神の馬車がいなくなる前に海を越え!」

「女神の馬車がいなくなった時、黒山に!」

「だが、予想より魔物が多いぞ兄者! 他の海域より遥かに!」

「黒山に向かう者が減った、我らの同胞が減った! 間引く者がおらんのだ!」

切羽詰まった会話は不安になるから止めてほしい。

あとなんか、掛け合いが『地の民』っぽいな?

黒精霊や魔物は暗い時間帯を好むから陽が沈むその前に抜ける計画、黒山の中は逆に夜の方が黒山に住まう精霊たちから身を隠しやすいって話だ。

黒山に入り込んだ時点で黒山ちゃんに把握される気がするんだけど、黒山攻略はそういう口伝だそうです。

「おお、あの角! 倒せるか!?」

『銀狐のバインズ』の見る水面に、ねじれた角が突き出ている。

「一角! ここで死闘は避けたい! 躱せるか!?」

「任せろ!」

急に進行方向を変える船。

小回り利くのは何よりだが、胃にくる。ぐえってなる。

俺が倒しちゃったらダメですか?

……2度目です。

知ってます、俺は倒しちゃダメです。

俺が戦闘狂みたいな思考になってるのが我ながらどうなのか。平和って難しい。

しばし部分的に荒れる海を体験、ようやく陸! ……までもう一歩。

「操船技術すごい」

本当によく沈まずここまで……!

船の上で一息ついている現在、着岸は陽が落ちてからってことで浅瀬で浮かんでいる。黒山がここまで近くなれば、海の魔物が姿を表すことは稀のようだ。

でもまったく出現がないわけじゃないから、出発時間を調整した感じ。

お気づきですか?

俺が昼を食っていないことを。

「今のうちに濡れた物があれば着替えを」

「ああ」

色々防水仕様で来てるんだけど、ざっぷんざっぷん水を被ったからね。

服についてる海水を払って、リュックからタオルを取り出してあちこち拭いて――濡れているとどんどん冷えていくから、そこは丁寧に。

もらった 呪 ( まじな ) い付きの服にも限界がある。水分は水分でも蒸気程度の精霊じゃないと流石にダメ。

「腹ごしらえを」

「ああ」

「あ、食事は俺が用意した」

2人が干し肉……いや、干し魚を出しかけたのを押し留める。

「氷を運ぶ皮袋、冷やす魔法じゃなくって、温度を変えない魔法をかけてある。――まだ温かいよ」

皮袋からお茶の入った別の皮袋と、料理を取り出す。

羊のカツ、バターとガーリックで焼いた手長海老――ナルアディードとは違う種類だ――、チーズ。これらを挟んだパンの包みは温かい。

どれも北の大地で手に入る素材におさめた、お茶もハーブティー。熱々のスープを持ってこようと思ったけど、さすがにどうかと思って思いとどまった俺です。

野菜が少ないけど、まあ、2人に食事を振る舞う機会ってあんまりないだろうし良しとした。

イマイチ食べる場所の予想がつかなかったしね。

でも十中八九、干し肉か干し魚が出てくるのは予想してたから阻止した。自分で作ったやつならともかく、こっちの干し肉は塩っからいだけなんだよ! 干し魚はものすごく硬いし!