第725話 地底へ
第725話 地底へ
洞窟は奥に向かうにつれ、氷が厚く、 氷柱 ( つらら ) や 氷筍 ( ひょうじゅん ) が増えてくる。そのうち細く長く、たくさんの氷筍が先を塞ぐ。
俺と黒山ちゃんしか見えてないだろうけど、氷が精霊たちを透かし、光って綺麗。
氷筍を折ると、上から氷柱が落ちてくるトラップだと事前に2人から説明を受けてるんで、触らないようにしてる。
簡単にパキッといっちゃうしね。
進めないくらい間近に氷筍が混み合っているんで、バインボインの2人は割って進んでいる。『銀狐のバインズ』が斧でパキッと割っては、落ちてくる氷柱を『鉄槌のボインジ』が鉄槌で粉砕してる。
氷柱と共に精霊が落ちてくる。
眠りを邪魔された氷柱の精霊は、2人に吐息を吹きかけ、あるいは軽く撫で、天井に戻ってゆく。
精霊に触れられるたび、2人の血色は悪く、動きがギクシャクしてゆく。途中、幾度か止まって、武器を振るうための指先を温める。
そんな2人の後を、粉砕した氷柱で氷筍を割らないようにするのがコツなんだなって眺めながら着いてく俺。
洞窟の中を通る道筋も決まっているらしく、そこから外れると永遠に出られなくなるという。
帰らなかったものは語れない。
無事に帰ってきた者は、道を外れたら具体的にどうなるか知らず、ただ古い伝承を守っただけ。
どうなるかはっきりわからないのに愚直に守るって、大変だよね。知らないままだと好奇心に負けたり、楽な方に向かいがち。
黒山ちゃんが隣で残念がってるから、道から逸れたら精霊の道に叩き込まれるか、地底の流れに叩き落とされるかなんだろうけど。
ところで、洞窟内で辿る道は図面に残されてるわけじゃなく、2人も来たことないのにどうやって進むんだろう? って思ってたんだけど、俺でもわかった。
氷柱と氷筍が短い。奥の方は氷柱と氷筍がくっついて、上から下まで繋がった柱になってるけど、そこも氷柱と氷筍の場所が一筋ある。
おそらくバインボインの呪いを解くために、数年前に彼らの親が通った跡。
きっと何代も続けて、ずっと守ってきた正しい道。
古いしきたりにがんじがらめって窮屈で嫌なことも多いけど、こういう時はなんかいいなって思ってしまう。
すぐあちこち揺れ動く俺の心です。
到達する最奥、氷の壁。
寒さと闘いながら歩いてきただけといえばだけなんだけど、大変でした。俺は黒山ちゃんのツッコミを聴きつつ、見学してただけだけど。
2人がノミの先みたいな楔を取り出し、氷に槌で打ち込んでゆく。
真っ直ぐに並べて何本か。
浅く打ちつけた最初に戻り、楔をもっと深く。
楔を打ち込むたび、ここでも眠っていた氷の精霊が起き出して、作業する2人にまとわりつく。
また体温を奪っているのかと思って眺めてたら、今度は2人の剥き出しの肌に血が滲み流れ出した。
『我慢強いの』
服で隠れる場所も同じような状態らしく、2人の顔が苦痛に歪む。
『根性なの』
黒山ちゃんがちょっと嬉しそうにくるっと回る。
2人は声をあげずに作業を続け――俺の方を見る。
頷いて、温度を変えない魔法陣をほどこした皮袋を広げる。
かんっと最後の槌が振るわれ、並んだ楔の間の亀裂が伸びて、氷が割れ、皮袋に落ちる。手早くロープをかけて縛り、予備のリュック――折りたためる簡易的なやつで、こっちにも温度不変の魔法陣を念の為につけてる――に入れて、2人を見る。
『銀狐のバインズ』が頷いて背負い、『鉄槌のボインジ』が長いは無用と小走りで洞窟の横道へ。
後を追う俺。
『また遊びにくるの』
黒山ちゃんが見送ってくれる。
『ああ、またね』
帰り道もそれなりにあるんじゃないかなと思いつつ、挨拶。
って、滑り台なんですけど!! 氷の降りトンネル、角度は30度みたいな。
あーっ!!
これどっか凍ってつまてったらアウトじゃない? 気のせい? この勢いで詰まってる2人に激突は大事故じゃない?
なんで2人は迷いなく突っ込んだの!? 口伝を信じすぎじゃない!?
ぐるぐる考えつつ、体もぐるぐるしながら急滑降。
着いた先は地底のどこか。
地底っていってもまだ人の理解できる範囲の地底ね。黒山ちゃんがポイってしてくるとこじゃない。
「もう声を出しても大丈夫だ」
「おかげでここまでは順調」
「お疲れ様」
何もしてないけど、どきどきしました。
「氷を抜けたら、時間との勝負」
「寒いがここで休息を」
とのことなので、休憩。
けっこう強力な魔法陣を発動させてるんでマグマの中でも溶けないと思うけど。あ、いや、マグマは言い過ぎです。魔法陣燃えちゃう。