第727話 温泉幾つ?
第727話 温泉幾つ?
まあ、そんなこんなで無事抜けました。
茶番なんで無事なのは当たり前なんだけど、雰囲気が怖かったよ、雰囲気が! お化け屋敷ってこんな感じか!
いつも出入りする場所とは違う、見慣れない風景。人の町に一番近い出口だって聞いている。
「偉大なる大賢者ハウロンの弟子、賢者ジーン。感謝する」
「大賢者ハウロンの偉大なる弟子、賢者ジーンよ、この恩は忘れぬ」
「あとは我らだけが走る」
「ゆるりと報酬を受け取りに訪れよ。3日後だ!」
休む間もなく、慌ただしく挨拶をして走ってゆく2人。
一応、一番近い町に馬を預けてるはず。俺の分の馬もいるはずなんだけど、どうしたもんかな?
「いったか」
「いったな?」
「いっただろう?」
『地の民』が大岩の影から顔を出す。
黒鉄の竪穴のガムリ、 赤銀 ( しゃくぎん ) の谷のグリド、硫黄谷のモリクの3人だ。小脇に兜を抱えている。
「うん、行った。協力ありがとう、すごい迫力だった」
「よい訓練になった」
「集落の団結が高まった」
「連携がうまくいくと気持ちがいい」
すっきりした顔で笑う3人。
髭に覆われてるんで、あんまり表情わからないんだけど、だいぶ読み取れるようになった。
「それにしても『地の民』ってあんなに大勢いたんだな」
「音と反響を使った」
「倍はいるように見えただろう」
「3倍は気配を感じただろう」
なるほど。
地下の大広間に戻って、大勢の『地の民』に囲まれる。
柱についていた松明は、本当に照らす範囲を絞ってあったらしく、今はさっきより明るい。それでも天井も壁も見えないけどね。
演出好きだったんだな、『地の民』って。改めてお礼を言って、【収納】からありったけの料理と酒を出す。
「おお、料理だ!」
「ジーンの料理!」
「ジーンの酒!」
「ジーンの酒!」
「全員に回るだけあるぞ!」
「慌てるな! 全員に回る!」
「種類が多い」
「一つの数は少ない」
「量はあるが、好みを選び取るのは早い者勝ちだ!」
「早い者勝ちだ!」
「回せ!」
「酒の器!」
「回せ!」
「料理の皿!」
わあわあといつも以上に賑やか。
どんどん出して、どんどん食べてもらう。【収納】から始めて食料が無くなったかもしれない。
「我ら、恩を返せたか?」
「我ら、少しは恩を返せたか?」
「足らぬ、足らぬ」
「足らぬ分は何で埋める?」
「我らが技術で!」
「我らが傑作で!」
「その素材も元は島のソレイユのもの」
「ああ、夢の素材」
「ああ、憧れの素材」
「ああ、手に吸い付く道具の数々」
「さあ、裁断を!」
「さあ、削れ!」
「さあ、叩け!」
「さあ、組み合わせろ!」
「さあ、縫い合わせろ!」
「さあ、かたち作れ!」
「ああ、酒が旨い」
「ああ、友と飲む酒の旨さよ!」
『地の民』が重ねる言葉は、歌のようで心地いい。
ただ素材を持ち込んでただけで、恩と言われるほどのことをしたつもりはないんだけど、大袈裟に喜んでくれている。
『地の民』の声と酒に少し酔った。
怒涛の黒山『地の民』コースのダッシュマラソンを終え、温泉です。バインボインからの報酬? 今度こそ温泉ですよ!
ようやく入れたよ! あー、温泉っていいね。
『青の精霊島』のお風呂も広いんだけど、温泉は広いだけじゃなくってお湯が違う。ポカポカしてます。
表面だけ温まるんじゃなく、芯から温まって、保温効果も長持ちみたいな。他の効果は正直よくわからないんだけど、お肌にいい温泉とかあったらハウロンに教えてあげよう。
バタバタしてたんで時間を気にせずのんびりできるのがいい。空は広いし、開放的だし、寝ながら入れる浅いところも作ったのは正解だった。
……温泉どうしよう。
アッシュのために女湯男湯を作ろうと思ったんだけど、ハウロンはどっち? 3つ目作るべき?
というか、俺も見られるの恥ずかしい。絶対筋肉一番ない!
ハウロンだって絶対ムキムキだし、レッツェだって筋肉あるよね? 執事は――執事は想像が上着を脱いだところまでが限界です。執事のアイデンティティは服装もあると思う。
あれだ、ここは隠し湯として、ちょっと離れたところに足湯を作るか。
うん、そうしよう! 足湯でみんなで並んでアイス食べよう!
今日はゴロゴロするとして、イーズ領の拠点をハウロンに見せる時に、足湯にも連れてこられるくらいの計画で作ろうか。アイス、ソフトクリームのほうがいいかな?
そんなことを考えつつ、真っ赤になるくらい温まって山の家に帰ってごろん。
今日は何もしないよ!