第730話 集合
第730話 集合
俺の身じろぐ気配に、リシュが頭をもたげる。
朝日が差し込む眩しさで――と言いたいところだけど、まだ外は暗い。起きたのはリシュとの散歩の習慣から。
こっちの世界、生活サイクルがお天道様と一緒。明るい暗いは自然現象まかせが大半です。
身支度をする足元、リシュが待ちきれない様子でソワソワうろうろ。
氷の性質を持つせいか、リシュは暑がりで、散歩も早朝に行く。最初は陽が登ってからだったんだけど、だんだん早まって今の時間になった。ちょっと空が白み始めたかなってころ。
日本にいた時は考えられなかったけど、早寝早起きの生活に慣れた。魔法や精霊の力をかりた道具を使えば別だけど、ランプを使ってまで夜更かしするくらいなら、日の出とともに動いて、日の入りとともに休んだ方が面倒がない。
この家の薪は勝手に補充されるから、夜は暖炉の火でのんびり過ごすことも多いけど、それでも日本にいた時よりはるかに早寝。
リシュも夜明け前後に散歩が希望みたいだし。
別に繋いでいるわけでも、閉じ込めているわけでもないので、普段から自由に走り回れるはずなんだけど、散歩は別みたいだ。
俺も山の見回りがてらリシュと遊べるし、だいぶ規則正しく生活できてる。リシュは寒いくらいの方が好きみたいだし。
山の様子は変わらないようで、色々変わってる。うちは特に精霊がイタズラするからね、気をつけて見てないと。
たったか先を小走りに進むリシュを眺めつつ、山の様子もチェック。実のなる木は最初に覚えた。
次に覚えたのはインクを作るために虫瘤ならぬ精霊瘤のよくできる精霊のお気に入りの木。しばらくして、農具の柄に使う木なんかも覚えた。
家具を作るような木は、土偶や黒山ちゃんから貰ったものがあるんだけど、この山の中にも向いてる木はある。
今日は火口にできるような草や木の皮を集めながら歩いてる。精霊に頼んだり、魔法ですぐ点けられるんだけどね。カヌム用です。
のんびり流れる時間。
今日は家で読書して過ごそう。で、昼は足湯作り。
結局気になってきちゃった。
座りやすいよう石の高さを調整して、テーブルにできる板を渡せるようにしただけなんだけど。
だって、ここに温泉用の建物作っておくのも誰か通ったらすごく目立つし、お叱りの気配がですね?
脱衣所はロッカーみたいなマス目のある棚を【収納】から出して使えばいいかなって。
ここは、蒸気が出てるから服が湿る、拠点を作りにはちょっと厳しいところなんだよね。
ずっと温泉入ったままとか、【転移】ですぐ移動できるとかならともかく、湿った状態でこの気温の中歩いたら、凍えること間違いなし。
ここに拠点作るなら、温かい状態で移動できる手段を確保しないと。
とりあえず足湯の整備はこれで完了、あとはハウロンの手が空くのを待つだけ。準備万端! これで憂なくだらだらできる。
ソファの肘掛けに行儀悪く足を乗せてごろごろ。そばにいるリシュを撫でて、コーヒーを飲んで。時々暖炉にかけたスープの様子を見て、本を読んで。
暇な時間を満喫してたら、ハウロンからカヌム経由で精霊のお便り。
明後日、拠点の見学、レッツェと執事、ディノッソを確保したって。準備は万全よ! って一言があったけど、いったい何の準備なのか。
明日も干し肉の加工でもしながらのんびり過ごそう。
◇ ◆ ◇
「で、なんでまた俺」
予定通りの待ち合わせがカヌム、納得いっていない顔のレッツェ。
「アタシの精神安定剤!」
半眼のレッツェに答える大賢者。
「ディノッソの旦那だけで十分じゃねぇ?」
「ちゃんと依頼出したじゃない、諦めて」
「大賢者による個人への強制依頼なんて聞いたことがねぇんだよ」
ため息をつくレッツェ。
「完全に巻き込まれでございます」
集まったのはハウロン、レッツェ、ディノッソ、執事、そしてアッシュ。アッシュは俺が呼んだ。
残念ながらクリスとディーンは都合がつかず。
「とりあえず見学の後は足湯の予定だから、気楽に。甘い物も用意してるよ」
「む……」
甘い物に反応して、ちょっと嬉しそうなアッシュ。
「すでに聞きなれない単語が出てるのは何だ?」
腕組みしたディノッソが突っ込んでくる。
「大丈夫です、もともと自然にある物です」
「お前が大丈夫っていう物、大半が大丈夫じゃない実績持ちだからな?」
ディノッソ、ひどくない?