第731話 もちろん大賢者の家です
第731話 もちろん大賢者の家です
まあ、ここで言い合っててもしょうがないので【転移】。行き先はもちろんイーズ領にある俺の拠点。
「……増えてる」
着いた途端、目ざとく井戸を発見するレッツェ。
「なかなかいいだろう?」
郷愁を誘うポンプです。使ったことないし、実物みたことなかったけど。
「あれは何……?」
「井戸」
ハウロンに答える俺。
「井戸にあんなのは付いてねぇんだよ」
レッツェに突っ込まれる俺。
「大丈夫、大丈夫、ちゃんと見えないように隠した」
「少し前までは井戸……? 自体ございませんでしたからな」
井戸だということに疑問を持たないでください、執事。井戸です、井戸。
「うう、精霊銅……」
雨樋を見て、ハウロンがうめく。
「隠してる、隠してる」
ちゃんと板貼って隠してます。
建物の横を通って、井戸へ。
「で、どう使うんだ?」
レッツェが諦めたような顔で聞いてくる。
「こう!」
ぎっこんぎっこんポンプを押して、水を出す。魔法陣で水位を上げてるから、そんなに大変じゃないよ!
「ううう、知らない技術ぅ〜〜」
「蓋もしっぱなしにできるから、雨水の侵入がある程度防げるし、カヌムにつける?」
地面に染みる雨水を防ぐには、井戸自体作り替えないとダメだと思うけど、それでも入り込む雨水をだいぶ減らせると思う。
カヌムの井戸、俺の家だけでも作り替えようかな。隙間だらけの石積みで、絶対色々染み込んでるよね。
「目立つでしょう! 何考えてるの!?」
「大賢者ハウロンの名前で売り出すことを考えてます」
「考えないで!? 構造もわからないわよ!」
「そこはそれ、図入りの仕様書を提出します」
「……!」
ハウロンが黙った。
「大賢者が知識欲に負けてるな」
呆れた声のレッツェ。
「便利になるのは良いことではないか?」
アッシュ。
「水汲みがだいぶ楽になりそうではありますな……」
「風呂ができたおかげで、水汲みの回数も増えたんだよな……」
執事とディノッソ、たぶん水汲み担当の2人。
「やってみる?」
「おう」
みんなでぎったんばったんポンプを押して、水を出して遊んだ。ハウロンも呻きながらも何度もやってて楽しそうだった。
やりすぎてみんな結構濡れちゃったけど。
「うう、精霊銅の全体の雨を集める雨樋、ポンプ。――水位がおかしな井戸。もうお腹いっぱい」
「まだ家の中に入ってないぜ?」
愚痴をこぼすハウロンにディノッソが言う。
「家の中は隠れてるところだから、大丈夫だよね?」
「不穏なことを言い出すな」
「見えないからってやりたい放題したわけじゃないでしょうね!?」
レッツェとハウロン。
家の中を案内ツアー。
玄関、居間、寝室、トイレ、台所、貯蔵庫、地下の鍾乳洞へ降りる階段。
「台所の様子のおかしい井戸、家具は全部『地の民』のものに見える……」
ハウロンは家具へのこだわりもすごいよね。
「備蓄の魔石の量、おかしいだろ」
「『精霊灯』が幾つあるのですかな?」
「床が温かい気がするのだが」
暖炉あるけど、アッシュが感じた通り床暖房を採用してる。なお、天井には冷房パネルをくっつけた。
「これ、私の家ってことになるの? 無理でしょ!」
「やりたい放題な大賢者の家ですな」
「いやあ、さすが大賢者!」
「快適そうな住まいだ」
執事とディノッソがハウロンを煽る。アッシュは悪気のない感想。
「外回りだけでも無理!」
「大丈夫、精霊銅だなんて一発でわかる人ってそんなにいないし、ここに人こないから」
「一発でわからなかったら、あの継ぎ目のない薄い管はどうやって作ったかになるわよ!」
そういえばそうだな?
「ちょっと見えないように下からも覆っておきます」
側面からしか考えてなかったけど、軒下通ったら見えるね。
実際それでハウロンが叫んだし。
ポンプは構造の説明をちらつかせたらOK出たんだけど、雨樋だけなんでそんなに嫌がるのか。
「ううう、おかしい絶対おかしい」
うめく大賢者を宥め、温泉へ。
「どこだ?」
「北の大地だ」
「聞いても見当がつかないな」
レッツェとの会話。
「地面から湯気が出ている」
アッシュが周囲を見回す。
「湿気っぽいな、蒸し風呂作ったのか?」
ディノッソ。
「これは自然現象!」
いくらなんでもこんなサウナ作らないよ! サウナにしては温度も蒸気の密閉度も足らないし。
「裸足になって、そこのお湯に足を突っ込んで座って、座って」
石の上にクッションを置いて、全員に促す。
靴下とかを入れる用の籠も出した。タオルとバスタオルも入れて、1人1つずつ。
こう、蒸気の上がる場所にクッションなんて、日本じゃとてもじゃないけどしなかったけど、こっちにきてから、少しだけ意識改革があった。
乾燥してるからすぐ湿気が抜ける!
すぐ乾く!
カビない!
風呂場に絨毯敷いてたり、布張りの椅子を置く話をソレイユから聞いてびっくりした。エスでもやってるしね。
ここで使ったクッションは、『青の精霊島』に持って行って干す。湿気が多いのも夏場に火災が起きにくいとか、喉が潤うとかいい点もあるんだけど、カビが生えやすいのは困る。