第734話 大量調理
第734話 大量調理
『青の精霊島』の保存食は、そんなに量がない。
塔の1階倉庫には結局メール小麦が詰まっている。ある意味保存食ではあるが、入れ替えの予定はないので、手をつけるのは台所の保存食だけなのだ。
が、配りきれなかった料理はここで全て消費するつもりで最後に回したんですよ。ある程度料理もしようと、日を変えて朝イチできたし。
「キールにもお願いしていいか? いや、キールを呼ぶ前にソレイユにお願いして、ソレイユから頼もう」
キールにダイレクトにお願いすると、お願い事より食欲が上回るが、ソレイユを通すと淡い恋心がちょっとだけ食欲より上回る。
「『食』がらみですか?」
「うん。保存食の入れ替えで、古い方の放出。追加で料理もするんで従業員さんにそれなりに行き渡る量になるけど、種類は揃わないと思う。昼と夜でなるべく全員来られるように手配してほしい。来られない人には持ち帰りで配れるもの出す、ただ梱包面倒だから」
チェジリングのごはんの調整はとてもとても面倒なので、丸投げ方向だ。
「放り出せない仕事の者に言い聞かせましょう」
アウロが笑顔で言う。
……こう、全員仕事を放り出して来る前提な気配がする。俺のお願いと、アウロの答えに微妙なずれがあったよね?
全員集めるより、来ないように止めるほうが大変なのかと思いつつ、話を続ける。
「お盆と食器の用意もお願い。前菜のテーブルと、メインのテーブルを作って、そこから一皿ずつ好きなのを選んで持ってってもらうこと考えてるんで、お盆は一人つで」
「城の食堂から運びます。食べた後は、各自そのまま食堂で食器の洗浄、昼の部の者は洗浄後こちらへ運ぶよう命じましょうか」
「あとは喧嘩にならないように頼む」
「喧嘩とされる範囲によっては難易度が高いですが、仰せの通りに」
アウロが白手袋をはめた手を胸にやって、軽く頭を下げる。
というわけで、俺は保存食使って料理!
ある程度はもう作ってあるけど。豆はチリコンカンとか、ひよこ豆とチキンのスープとか、豆とひき肉のチリカレーとか。
米はおにぎり、小麦粉はバゲットを大量に。小麦はむしろ数年寝かせたほうがいいんだけどね、こっちパンが主食だから持ってきました。
とりあえず大きな寸胴で野菜スープを作る。保存食の消費なら、キューブ状にした野菜スープの元を溶かすだけなんだけど、あんまりなんでキャベツと塩漬け肉足すよ! 粉末のパンプキンスープは……気持ちだけだけど上にパセリ散らすよ!
一旦【収納】!
バゲットを3センチくらいに切る。切る、切る。で、半分は何も塗らずに、半分はニンニクを塗ってオーブンへ突っ込む。
すぐにこんがりするんで、熱々の上に豚脂――豚の背脂にハーブやらニンニクやら塗って塩漬けにしたラルドって呼ばれるやつを、薄く切って載せる。生ハムの脂肪部分だけって感じだ。
じゅわっと溶けたところを食べる。
いや違う、俺が食べてどうする。その上に砕いたナッツと蜂蜜を載せる。バターよりもサラッとしてクセが無いので、蜂蜜ともよく合う。
一旦【収納】!
トマトを細かめの賽の目にしたやつとオリーブオイル、塩胡椒、バジルを載せたやつ。その半分に、生ハム載せたやつ。チーズ載せたやつ。
生ハムも原木を半分入れ替えるので、たくさん使うよ!
一旦【収納】!
ラードで野菜炒めを作り、コロッケを揚げる。とんかつ――城塞都市周辺の魔物肉も揚げる。もっと保つ食材もあるけど、入れ替えられるなら入れ替えちゃいたい俺です。
一旦【収納】!
ここでの料理は精霊たちが飛び回るままにしてやってるので、なかなかファンタジーな光景になっている。
カヌムでもカーンを理由に台所はある程度精霊解禁してるけど、数が違う。窓はあるとはいえ、分厚い石壁に覆われた暗い塔の中のはずなのに、とても明るい。
まあ、俺は見えるから明るく感じるだけなんだけれども。
「我が君、食器をお持ちしました」
「いい匂いさせやがる」
皿を運びながらキール。
先に食べたいが我慢してる顔してる。
「ありがとう。スープ皿並べてくれるか?」
とりあえずスルーしてお願いする。
野菜スープを盛り付け、盛り付けたものを全部一旦【収納】!
「洗浄いたしますか?」
「お願い」
アウロに寸胴洗いをお願いしているうちに、今度はパンプキンスープを盛り付ける。
「くっ、並べるのが間に合わん!」
言葉は少し乱暴だけど、皿の扱いは丁寧なキール。はいはい、追いつくよ! パンプキンスープも盛り終えて、一旦【収納】!
空いた寸胴で、味噌の消費。味噌汁製作、豆腐とわかめ、大根と油揚げ。具材は切って用意済みなんで早い。温めは火トカゲ君が寸胴全体を走り回って、ついでに汁の中も走り回って一瞬です。
「ボウル並べてくれ」
「……っ!」
はいはい、追いつきますよ。