第735話 粛々と
第735話 粛々と
俺が料理している間、城の広間――あの『カルミナ・ブラーナ』が鳴り響いているあそこだ――にテーブルを用意してもらった。
こちらはソレイユ指揮。
規則正しく整然と並ぶ白いクロスの掛かったテーブル、自然光が高い位置にあるゴシック洋式もどきの窓から差し込んでいる。
ガラスではなく、 透石膏 ( セレナイト ) を薄く削ったものが嵌め込まれているため、柔らかな光だ。
精霊灯もいい具合に配置されているので、明るすぎず暗すぎずだ。無駄にムーディー。
「壮大なのよね……。高い天井に響いて」
ソレイユがため息をつく。
食事に向かない音楽だよね!
今この広間には俺とソレイユとファラミアの3人。扉の前ではアウロとキールが従業員を並ばせているはず。
入り口から一番近い場所のテーブルにはお盆とフォークとスプーン、ナイフが並ぶ。他のテーブルに料理を出してゆく俺。
汁物、サラダ、パン、メイン、飲み物――これは島特産のオレンジジュース、デザート。2列に並んだテーブルの、内側を従業員さんに通ってもらい、無くなったら外側から料理を追加する予定だ。
なお、従業員さんイコール俺と契約を交わしているので、内緒事については安心。チェンジリング相手ほど強力な拘束力は発揮しないけど、商業ギルドの一番お高い契約書使ってるからね!
「よし、とりあえず設営完了」
「壮観ね。扉は?」
ソレイユが会場を見渡しながら聞いてくる。
「頼む」
俺が答えるとファラミアが大扉を二度ノックする。
ファラミアが開けるのかと思っていたが、ノックの合図で外から扉が開かれた。アウロとキールだね。
扉の先の廊下には、それぞれのお仕着せを着た従業員たち。町の警備担当もいるから結構な数だよ!
「はい、お待たせ。今から料理を自分で取ってもらうけど、テーブルの島ごとに一品、後戻り禁止の一方通行。まず、お手本をソレイユとファラミアが見せる。料理を選んだ後は、控えの部屋にテーブルと椅子があるからそっちで食べて」
精霊に声を届けてもらってるので、後ろの方でも聞こえないってことはないと思う。理解してるか従業員さんたちを見、やたら真剣な顔をしていることを確認。
軽く殺気すらも感じるんだが、気楽に行けないですか? いけませんね、はい。
ソレイユを見る。
「視線が痛いわ」
なるべく扉の外を見ないように、ソレイユがお盆を手にとって、カトラリーを載せ進む。
ファラミアはソレイユとは別のテーブル列で同じことをする。最初はソレイユのお盆を持って、ソレイユの選んだ料理を運ぶって言ってたんだけど、お手本にならないから却下しました。
ソレイユは、豚汁、チーズ入りのサラダ、テーブルロール、城塞都市産魔物豚の煮込み、チーズケーキ、オレンジジュース。
豚汁が浮きまくってると思うのは俺だけなんだろうな、メニューに入れたのも俺だけど。それはともかく、チーズ好きなのかな?
ファラミアはパンプキンスープ、トマトの載ったバゲット、野菜炒め、巨峰、オレンジジュース。
――チェンジリング的には味がね、断然育成に精霊の関わった野菜なんですよ。おそらくチェンジリング組は野菜炒め一択なんじゃないかな? ソースとか料理中の精霊の手伝いはあるけど、肉や魚はやっぱり味がぼやけてしまうのをみんな知っている。
野菜炒めは山の家の扱いに困った野菜類を、ここぞとばかりにたくさん消費……じゃない、用意したんで大丈夫。なお、デザートのテーブルには扱いに困った果物を大量に並べた。
「こんな感じで頼む。なお、迷うと時間がかかるので、キールが銅鑼を叩いたら、皿が取れなくても次のテーブルの島に強制移動です。では開始!」
事前に言い含めていた通り、慌てず走らず粛々と。でもやっぱり手にする料理に迷い、停滞は出る。
アウロがカウントダウンを始め、慌てて皿を手にとって、キールの鳴らす銅鑼で移動する。
なんかこう、目が血走ってるし、殺伐とした雰囲気というか、厳重に管理監視されてる配給というか……。でもゆるくすると絶対その場で奪い合いが始まるって、アウロとキールが。
料理の減ったテーブルに追加を出す。
すでに皿を選んだ従業員さんが、ばっとこっちを見る。大丈夫、出した料理は同じ種類ですよ、新しいメニューじゃないから。
「ふふふふ、サラダ♪ サラダ♪」
踊り出しそうなマールゥ。
「宿屋で食べたトウモロコシのスープは美味しかった。主が作るものならさらに美味しいに違いない」
金細工師のアウスタニス。
島の菜園産野菜、卸先はお高い観光客向けぼったくり宿なんだけど、お財布大丈夫ですか?
「主、極めて見せます!」
元ソードマスターはなんか他と反応が違う。
お盆持って極める宣言されると何を?って聞き返したくなるけど、まあ、剣の道的なものなんだろうな。
……食の道じゃないよね?