第736話 城内
第736話 城内
「さて、並んでる人いないな?」
視界にいないんだからいないのだが、一応声に出して確認。
なんかこう、ソレイユとファラミアの入った部屋はともかく、他の控えの間にはそこそこ、特に一番入り口に近い部屋には大勢人が入っているはずなのに、物音も声も聞こえない。
不自然に静かなのは何故だ。
いや、なんとなく分かる。何となくなままにしときたいから追求しないけど。
「ええ。出欠をとった上で、時間を区切っています。時間通りに来ることができなかったら、お弁当に変更になることは伝えています」
「弁当は 城 ( ここ ) に2つ、宿屋に3つ、警備に1つプラスだ。余った料理はどうするんだ? 下手に扱うと、血を見るぞ」
アウロの後をキールが継ぐ。
「全員の顔、把握してるのすごいな」
「把握していなければ、暗殺者が紛れた時わからないだろうが」
感心したら、キールが呆れたような顔で物騒なこと言い出した。
「容姿は真似する者もいますからね。姿勢、歩き方、言い回しの癖――なるべく多くを把握するように訓練させていますよ」
にこやかにアウロ。
この島、防衛力高くない?
「今のところ不届者は警備で捌けているがな」
腕を組んでどこか物足りなさそうなキール。
「送られる何者かに使役された精霊も、我が君と枝様に侍る精霊たちのおかげで弾けております」
「あの枝、ノリノリだしな」
ノリノリ。
いかん、夜中に歌って踊って楽器を鳴らしてる姿しか思い浮かばない。あのハニワ、活躍してたのか……。
「2人が選び終えたら、料理は『精霊の枝』に持ってく。パウロルとオルランドくん、子供がいたら人数によっては配るけど、あとは俺が回収かな」
話を料理のほうに戻す俺。
「城内分の弁当は置いてくから頼む。他は『精霊の枝』に行くついでに俺が届けてくる――アウロも食事してくれ」
ついてきそうだったので先に断る。
俺は料理しながら味見もしたけど、2人は何も食べていない。働かせた上に、これ以上食事を遅くするのも気が引ける。
「おう、飯だ!」
「……」
嬉しそうなキール、ちょっと不本意そうなアウロ。
「おっと、ちょっと待って」
すっかり冷めてしまったので、温かい料理と入れ替える。
手伝って、最後になったのだから、これくらいはね。
「ありがとうございます」
「うっ! 温かいならこっちの方がいいか……」
にこやかに礼を言ってくるアウロと、どうやら選択に迷いが生じたキール。
2人が料理を選び始める、銅鑼を叩く係がいないのでゆっくりだ。
料理を選び、2人が盆に載せたところで、残りを回収して、代わりに弁当を出す。初めの予定、プラス2ね。
「じゃ、よろしく」
出した弁当をぽんぽんと叩き、言い残して広間を出る。
さて、俺は何を食べようかな? 今の時間はあちこち混んでるはずなんで、配り終えてからの方が都合がいい。
そう思いながら廊下を歩く。
『……!』
通路の前で八の字に飛び回る精霊。
『いつもはゴンゴンさせるよ! 人間には聞こえないけどね』
別の通路の先で、床を叩く仕草をする精霊。
『こっちは見たら少しゾクゾクさせてあげるの』
『こっちは見たら少しふわふわさせてあげるの』
また別の通路でくるくるしている精霊。
『ここはお外からは見えづらいのよ』
『ここは中からは見やすいのよ』
『見やすいところに友達が動くモノを連れてくるの』
『覗けるのよ』
『内緒で見るの』
『楽しいのよ』
楽しそうな精霊たち。
最初は領主館だったのに、ここも随分城らしくなった。ゴシック建築の教会っぽさと、青味がかった黒い屋根、尖塔――これらは初期の俺のイメージを汲み取ったり、面白がったりした職人たちがいたから。それによって作られた見た目もあるけど、俺が城らしいって思う要素は、やたら防御力が高そうなところ。
うん、攻撃力も高そう。綺麗な装飾があるから無骨な印象はないんだけど、矢を射かけるための小さな窓とか、煮えたぎった油流すんでしょうこれ? みたいな溝と穴とか、こう、ね?
青トカゲくんが夜中に石伝いに自由に動き回って、とてもとても丈夫な外壁になってるようだし。うん、魔法防御もバッチリだね! みたいな。チャールズのデザインした庭もそうだけど、視線誘導とか、進みたくなる通路とか。
ほんの少し、意識して観察しないとわからない程度に色が違う、絨毯の目の細かさ、石壁のおうとつ。見るとはなしに見ているものが、進む方向の選択に影響を及ぼす。
この人の手でつくった、視線誘導とかの物理的な仕掛けには気付けないんだけどね? 精霊が「いつもはこういう仕事してます!」って教えてくれるもんだから、わかっちゃうんですよ。流石に自己主張されてれば見るし、注視したらわかる。
楽しそうだし見た目可愛いし、俺にとってはありがたいんだけど、侵入者にとってはタチが悪いだろうなこれ。精霊が張り切ってるんで、効果爆上がりだよ!
場所によっては案内がないと迷子になるか、同じところをぐるぐるするはめになるね!