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第737話 町の中

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第737話 町の中

城外に抜け、町の広場へ。

この時間は城側と町の広場の境にある、ロートアイアンの門は開いている。警備さんはいるけどね。

観光で一番人気は、初期の俺と石工たちの悪ノリで作られた、橋の向こうにあるラス・ラハス教会みたいになってる城門、次に 暗渠 ( あんきょ ) から顔を出した水と花の溢れる『精霊の家』、次に真っ黒なロートアイアンに金化粧の入った門や『精霊の家』の仕切りが視界に入るこの広場全体。

ロートアイアンの門や仕切りは、寒がりで音痴な地の民ワシクと、優雅な金細工師アウスタニスの作。町の広場から城への間だけでなく、町の広場に出られる道全てに門がついている。

ついでに路地のあちこちにあるし、民家の窓についてるロートアイアンもワシクの作です。でも、金化粧付きの意匠を凝らした大きなものを見られるのはこの広場。

適度な威圧感と優美さ、無骨さ、繊細さ――人気になるのもわかる。役割としては隔離とか防御なんだけど。夕方、門が閉まることを待ち侘びてる観光客が多いって聞いてる。

この広場、『精霊の家』の無骨な黒鉄の隙間から溢れでる青い薔薇とか、広場を取り囲む建物とか、全部見た目は綺麗なんですよ。薔薇の香りも漂ってるし。ただ歩くとあふんあふん言うだけで。

俺にだけダメージくるの酷くない? あとでハウロン歩かせていい? 執事も見えるし聞こえるだろうけど、俺より上手く避けそうな気がする。

「お疲れ様」

あふんあふん言うブロックや階段を避け、警備さんに挨拶をして中へ。

島全体、精霊多めなんだけど、さすがここは別格。やたらいるというか、場所や物、季節に関係のない精霊もいる。

「お邪魔します。お弁当届けにきたぞ」

関係者に告知はされているはずなので、留守ということはない。

「よくいらした。オルランドも私も楽しみにしておりました」

相変わらず物腰柔らかく、それでいて威厳のあるパウロル老師。

「ありがとうございます」

ほくほくと弁当を受け取るオルランドは、顔にも態度にも感情が出るけど実直で素朴。

「こっちは飴玉、子供たちが来たらあげて。もちろん2人が食べてもいいけど」

飴の入った大きな瓶を渡す。

「ソレイユ様、後でお時間いただけますかな?」

パウロルおじいちゃんに声をかけられた。

改まっての話は珍しい。島の子供たちに何かあったとかだろうか? 基本大人たちの問題は憲兵さんが間に入るはずだしね。

だけどお腹が空いていてですね?

「ああ。お弁配り終えて、昼食べてからでいい?」

「もちろん」

アウロやキールに伝えてないようだし、急ぎではないだろう。昼を食べてからにしてもらった。

で、市場入り口の税務官のところとか、憲兵さんのところとか回って終了! 俺の昼です!

昼の時間からは外れてるけど、青の精霊島は料理目当ての観光者が半分くらいいるんで、店は夜まで開いている。

基本はナルアディードの料理なんだけど、野菜は青の精霊島のほうが断然色々あるんで。調味料も行き渡っているので、どの店に入っても美味しいと評判。

魚介が主で、肉類は鶏肉か加工肉になるんだけど。ソレイユも島の料理推しは進めてるみたいで、加工肉――プロシュートとかベーコンとか――は美味しいのを市場に入れてる。

で、俺が入ったのは、トウモロコシの粉を使った生地に魚介やチーズを載せた前菜が名物の店。

店内は待ちはしないけど、空席が目立つほどではないくらいの混み具合。元々広場に面する店以外は、小さくって席数はそんなにないんだけど。食事時から外れた時間でこれなら、繁盛してる。

店員さんが見せてくれた小さな黒板のメニューから、前菜を選ぶ。メインは本日獲れた魚料理一択。今日はヅィーノというスズキに似た魚と舌平目のどっちかだった。

ちなみに両方香草焼きで、同じ調理法です。舌平目って聞くとムニエルを想像する俺ですが、あるのは香草を塗りたくった塩焼きです。

――舌平目はきっと今日の市場にいっぱいある、買ってって、ムニエル作ろう。だからここではスズキで。

評判の前菜は、ポレンタ――トウモロコシの粉を炊いて粥みたいにしたやつ――みたいなの。ポレンタより固め? 焼いてあるのか。手で持って二口くらいで食べられる大きさ。

ブルスケッタみたいに上に色々載っていて、5、6種類の中から2種類選べる。

溶かしチーズ、小さなイカをチョイスした。うん、トウモロコシの甘みと使われてるチーズの塩気がいい感じ。イカはちゃんと嘴と目は抜いてあるし、掛かってるソースもいい。

メインのスズキの香草焼き、20cmくらいの丸のままが出てきたんでびっくりしたけど、こっちも白い身がふんわりとして美味しかった。

飲み物は島の名物オレンジジュース。レモネードと双璧。でもたぶん、観光客に一番人気があるのは水だ。城に近い場所の水は、鮮烈で冷えてるからね! しかもお腹を壊さないことで有名。

この世界、大抵の場所で生水は腹を壊すから……。まあ、腹を壊しても原因が水って気づいてない地域も多いんだけど。

オレンジジュースもその辺の水路で冷やせばいいのにと思ってる俺ですが、こっちの世界の人、そもそも冷えた飲み物を飲む習慣がないんで、問題ないようです。体を冷やすのは良くないっていうし。

ところで2種類選んだあれは、前菜じゃなくって実は主食だよね?