第739話 アリーナ
第739話 アリーナ
「お邪魔します」
パウロルおじいちゃんのところに再びお邪魔。
長居を察したのか、座布団が寄ってきて尻に敷けと後ろから太ももをつつく。ちょっと待って、パウロルおじいちゃんと挨拶したらね!
「忙しい中時間を取らせて申し訳ない」
「いや、俺が忙しないのは趣味に走ってるだけだから。締切があるわけじゃない」
時間勝負なのは野菜や果物の収穫とかだけだ。
挨拶を交わし、座布団に座る。尻の下で嬉しそうにクルクル回る座布団。人に見られたら、愉快な絵面な気がする。木の座面なのにやたら座り心地が良く感じるけどさ。
さて、パウロルおじいちゃんの話は何だろう?
「私がこちらにお世話になりにきた時、一緒にいたアリーナのことを覚えていますかな?」
「ああ」
パウロルおじいちゃんとオルランド君に会ったのは、ナルアディードの『精霊の枝』。『精霊の枝』には『麦の穂様』と、それに仕えるちょっと様子のおかしいアスモミイ。アスモミイに傾倒しているオルランド君の弟トマス君、そしてアリーナという明るいオレンジ色の髪を持つ少女。
座布団が再会を喜んだパウロルおじいちゃん、ソレイユと一緒に色々苦労してくれそうなオルランド君。この2人を島に招くため、まず『 青の精霊島 ( ここ ) 』に興味がありそうなアリーナの手を取った。
で、島に渡る直前、アリーナはナルアディードの精霊の枝である『麦の穂様』に、「愛が重すぎる」と言わしめたアスモミイの姪と知らされてびっくりしたんだった。アリーナの口から出た、「私の精霊の枝様にも会える?」のセリフはなかなかのインパクト。
真っ白いイタチの精霊憑きでもある。白イタチが何か説明したがってたけど、その白イタチが寝ちゃってそのままになっている。精霊はいつ寝ていつ起きるかわからないから、起きたらなにかしてくるだろうと放置してた。
白イタチが起きるの三十年後とかかもしれないので、気にしてるだけ無駄だからね。
「両親は商会を切り盛りで忙しくて、血縁のアスモミイに預けてるというか、『精霊の枝』に放牧じゃない、通わせてた子だよね?」
結局アスモミイは忙しくって、客分であるパウロルおじいちゃんとオルランド君が一番相手してたように見えたけど。
「間違ってはないですが、アリーナ嬢には精霊が少し見えるようでしたので、そちらの感覚の強化のためでもあったんですよ」
オルランド君のフォロー。
「なるほど」
こっちの世界の教育は、まず精霊の恩恵があるかを見る。経済的問題で、7歳くらいから見習いとして下働きに出てたりもするし、農民の子は物心着いた時から畑や家畜の手伝いがあるけど、それは置いといて。
取るべき進路、向き不向き。男女の違いどころじゃなく、精霊の恩恵でだいぶ変わる。
精霊の恩恵もなく、見えない、聞こえない人より、精霊が見えるというだけでも分かることや、できることが多いので重宝される。この世界は精霊に満ちていて、人はそのことを知っているから。
「アリーナが家から逃げてきましてな。正しくは縁談からですが」
「縁談……」
パウロルおじいちゃんの言葉にええ〜ってなる俺。
縁談と言っても、婚約とかだろうけど。いや、結婚はして、実際に一緒い住むのは成人してからとかもあるって聞く。親やら仕える貴族やらが、子の結婚相手を決めるのも、決める時期が早いのが大多数なことも知ってるんだけど、今まで身近にいなかったんで、どう反応していいかわからない。
人間同士で戦ってるし、魔物の脅威もあるし、平均寿命が短いことも影響あるんだろうけど、考えの元が個人じゃなくって「家」とか「一族」なんだよね。環境が違うからしょうがないとは思うけど、あんまり納得できてなくてですね?
「どうも精霊の枝に仕えたいというのも、縁談から逃げる方便のようです。今回の縁談が持ち上がる前からなのですが……」
相手ではなく、縁談そのものを嫌がる理由を把握してなくって、俺にこれ以上詳しい説明ができいことに、ちょっと申し訳なくも困ってるっぽいパウロルおじいちゃん。
俺もその年で縁談は嫌なんだが。なんだろう、白いイタチが起きてれば何か聞けるかな?
「アスモミイ殿から、アリーナをしばらく預かってほしいと連絡がありました。アスモミイ殿の方で対応しておりますので、こちらに直接迷惑はかからないかと思いますが報告を」
「アリーナのご両親に、アスモミイ様に詰め寄る勇気も、『青の精霊島』、『精霊の枝』のパウロル様に直接意見してくる勇気もないですよ。はい、利害的にもないです」
パウロルおじいちゃんとオルランド君。
ハニワに向ける愛が重いタイプじゃなければ、いいんじゃないでしょうか。