LNCrawler

第740話 ミニチュア楽器

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第740話 ミニチュア楽器

「俺としては、この島のルールを守ってもらえればいい。預かりの一次滞在も、移住の条件もね」

居住域も食料の生産量も限界がある島なんで、住民が増えればあっという間にキツくなる。

「短期間で解決できるのならば、もうアスモミイ様が解決していらっしゃるのでは……」

オルランド君が言う。

島の滞在期間には日数制限が設けられている。住民が増えた今、移住の条件は厳しく――というか、現在募集は停止している。

「例外を認めたら、ソレイユのところに商業ギルドと海運ギルドのギルド長から、がんがん移住依頼がくるんじゃないかな? ――俺が思いつく、ねじ込んできそうなこの2人だけでも海千山千、絶対『特殊な事情』をでっち上げてくる未来が見えるよ」

特殊な事情を鑑みて〜とかで、一度ルールを崩すとたぶん歯止めが難しくなる。これ以上ソレイユに負担をかけるのは流石に避けたい。

「この島はさまざまな権力者から狙われておりますからな。この機会にあわよくば、という者もいるでしょう」

納得してくれたのか、黙礼してくるパウロルおじいちゃん。

「入島料のサービスとか、城の案内とかは構わないよ」

彼らの知り合いに少しくらい特別扱いを。

「あとは、アリーナが本当に精霊の枝に仕えたがってて、その能力がありそうで、枝と相性が良ければ例外を認めてもいいかな」

前回来た時、チェンジリングたちがいても平気そうだったし。

ソレイユ主体ではなく、『精霊の枝』に仕えているパウロルおじいちゃん主導で、島に入れたみたいな建前を整えられるならば。

「確認してみましょう。些か若い気はしますが、私がいなくなってもオルランドもおりますし」

「パウロル様!」

縁起でもないことを言わないでください! と名前を呼んだオルランド君の顔に書いてある。

「枝は2本……3本あるし、2人いてもいいだろ」

「普通はないんですがね……」

オルランド君がちょっとげんなり呟く。

シャヒラの黒白の枝はおとなしいから、飾りだと思ってもらえれば――いや、そうするとハニワが完全にメインの枝に。

「精霊の枝に仕える者という建前なら、他がしつこくねじ込んできても、最終的にハニワに拒絶の手紙お願いすれば済むし」

うちの枝と相性が良くないってことで、問答無用で却下できる。

「中央の枝様に仕える者は、楽の素養があった方がいいかもしれません。私はこの年で手が出ませんが、枝様と相性がいいようでしたらアリーナに何か楽器を薦めてみましょう」

思いついたように言うパウロルおじいちゃん。

「その辺も任せる。本人のやる気と、ハニワたちとの相性次第だけど。ハニワは嫌だったら手紙送ってくるだろうし」

アリーナに何か事情があるにしても、コミュ障気味な俺より、人生経験豊富なパウロルおじいちゃんやオルランド君が対応したほうが絶対上手くいくからね。

俺は人の面倒をみるつもりもないし、そもそもみることができる自信がない。他人の人生に大幅にかかわることになるのが怖い。ちゃんと自立できる人に、場所を提供するくらいはできるけど。

誰かを支える側にはなれそうもない。

そういえば『青の精霊島』、最近は音楽の島とか芸術の島とか言われることもある。

石工たちが半分趣味で頑張ってたり、寒がりの地の民ワシクがつくる鋳物、金細工師アウスタニスの金化粧、それらが集約された建造物――未だ完成してない――、音楽堂・劇場と、広間のカルミナ・ブラーナの「おお運命の女神よ」を奏でる精霊の石、ハニワのために呼び寄せた楽器職人。夜を淡く照らす『精霊灯』、夜中『精霊の枝』から聞こえてくる精霊たちの調べ。

観光客向けで、公演回数も多くなるから、演奏家や劇団の仕事も途切れないしね。気づいたら島で上演したいという申し込みがたくさん来てて、ソレイユがウハウハだった。

「そういえば、枝様や精霊たちが使ったであろうミニチュア楽器を、高額なお布施をしてくださった方にお譲りしたんですが」

オルランド君。

楽器も精霊の影響を受けて大変良い物と評判で、著名な演奏家が買い求めにくるけど、元々は精霊用にちゃんと弾けるミニチュアを作れることが職人募集の条件だった。

出来が悪いと壊されたり、壊れてないけど全く音が鳴らなくなるらしいけど、最近はそういったこともなくなり、弾いているらしい。だんだん職人のミニチュア作成の腕が上がってるってことだね。

「お譲りしたんですが?」

そのミニチュアに何かあったのか?

「時々音が鳴るそうで、ナルアディードの神殿で見てもらったところ、良き精霊が寄ってくる効果があるそうです」

「へえ。ハニワがいなくても精霊が興味を持つもんなんだな」

自分で弾きたいタイプの精霊ってそれなりの数いるんだろうか。

「――良き精霊を選んで寄せるというのは、なかなか難しいことなのですよ。枝様のようにはいかないのです。たとえ小さな精霊であっても、イタズラ者を弾くのであれば取り合いになります」

俺がピンと来てないことに気づいたのか、パウロルおじいちゃんが説明してくれる。

「あー。神殿で『豊穣の精霊』寄せを買ったら、あちこち花粉だらけで黄色くされたってきいたことあるな。『豊穣』が人間じゃなくって、虫向けだったんじゃないかっていう……」

黒精霊と違って、彼らに害意はないんだけど。

本当にイタズラ好きもいるし、好意からなのに結果的に人間が酷い目に遭うパターンもある。人間にとって『良い精霊』を選ぶのは、難しい。

なるほど、ミニチュア楽器争奪戦。