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第741話 コロッケ

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第741話 コロッケ

一応、タイミングが合えばアリーナの様子を見に来ると言いおいて、『精霊の枝』を出る。

寝ちゃったイタチの精霊も気になるから、運に頼らずタイミングは合わせるつもりだけど。

『精霊の枝』と言っても規模は様々。

無人の小さな『精霊の枝』もあれば、神クラスの精霊を祀る、何人も神官を置く規模の大きな『神殿』もある。

『精霊の枝』と呼ばれる場合は、不特定多数の精霊を寄せていて、『神殿』と呼ばれる場合は特定の精霊――城塞都市の光の精霊とか、ナルアディードの海神とか――を要に信仰を集めている。

村の誰かが管理している『精霊の枝』が一番多いのかな? そこはほぼ同じ村人しか利用しないし、ノーカンで。

人の出入りがある程度許されている自由な町の、一般的な『精霊の枝』は1人か2人の管理人を置く場合が多い。1人の場合は老人、2人の場合は子のいない夫婦が管理を任されているパターン。

屋根のある場所を貸す代わりに管理しろって感じで、きちんと精霊について学んだ人が管理人にいるパターンは少ない。

『精霊の枝』の一般的な収入源は、お布施と集った精霊たちの影響を受けた水の販売。

日常生活で憑く黒い細かな精霊の恨みみたいなのは、『精霊の枝』に詣でて水盆の飛沫を浴びたり、精霊と沢山すれ違えば消えてしまうけど、影響を受けた水を飲んどいた方が安心。

精霊とどれくらいすれ違ったかなんて、普通の人には見えないからカウントできないしね!

で、『青の精霊島』は島のあちこちに流れてる水が、『精霊の枝』で扱う水並みに効果があって、売れないんじゃないか疑惑があったんだけど。

ばしばしお布施が届いている上に、普通に水も売れているようです。観光客、財布の紐が緩すぎじゃないか?

パウロルおじいちゃんという、過去に神殿長まで勤めていた人を勧誘できたので、その人徳のせいかもあって、予想外の大盛況。護符も楽器も売れて、作る人たちがちゃんと生計成り立ってる。

人手を増やしても経営は成り立つ。成り立つけど、今現在護符作りとかで通ってる子もいるし、そちらを差し置いて? ってのもある。子供を見習い採用するなら、できれば元からここに住んでた島民の子のほうがいい気がする。

こっちの世界、村人と町の人と貴族と――考え方に大きな差があるので、元からいるからってだけで行政側に回すのも怖い。考えてる未来が3日後までです、みたいなこう……。

おっと、珍しく風が湿って来た。小さな水の精霊と大気の精霊が絡み合ってダンスを踊っている。

これは年に一度か二度ある嵐の前触れ? いつもは穏やかな内海が、ざっぷんざっぷんして面白いから、今日は塔に泊まって行こう。ナルアディードに停泊してる船は大変だろうけど。

うちの島もオレンジやレモン、桟橋に被害が出るだろうから、明日は見回らなきゃ。俺よりみんなの方が復旧の手際いいだろうけど、参加しよう。

よし、人事はパウロルおじいちゃんとソレイユに丸投げする! 俺はコロッケを揚げる!

小さな広場に面したいつもの店の一角、大量のじゃがいもを茹でる。茹でてる間にブロック肉をミンチに。合挽、合挽。

『くるくる』

『ぐるぐる』

ミンチにする道具を出して、ハンドルを回してたら精霊が寄って来た。興味を持ったようなのでお任せ。

玉ねぎはみじん切り。

『とととととと』

『ととととととん!』

こっちもお任せできそう。

あれ、他にやることなんだ? パン粉は【収納】にあるし、ラードもすぐ溶けるし。

とりあえず刻まれた玉ねぎを炒める。じゃがいもは茹で上がったら、皮の間に水分が溜まらないようさっさと剥く。潰して、じゃがいもが熱いうちに炒めた肉と玉ねぎを混ぜて、ソースをつけるのが面倒くさいので塩胡椒は心持ち強め。

一応、この辺で獲れた白身魚もフライにするよ! 馴染みがあるもの混ぜとく主義です。……白身魚のフライといったら、フライドポテトもつけるよね。

薪の調達とやりくりに苦労はあるみたいだけど、『青の精霊島』は料理系も評価が高い。旅先でも故郷のものを食べたがったり、食事に対して保守的な人たちが多い印象なんだけど、この島ではそういった人たちも寛容になる。

精霊と芸術と美食の島の地位を確立した! 精霊の枝がハニワな割に、イメージ戦略成功しました。

ディーンとクリスが通っていたようなお店を置いてって要望きてるみたいだけど、そっちは断ってることを付け加えておく。近いんだから、ナルアディードに行ってくれ。

よし、準備OK! 精霊たちが追加の下処理やってくれてるし、食べて味を広めて、じゃがいもも広めてくれ! あと、俺の知らないいろんな料理作ってくれ!

――鎧戸を上げて開店したらチェンジリングで狭い広場が埋まっている光景。

貴様ら、さっき食べたろう!? って叫んだりはしない。これに関しては慣れた、想定内。

「はいはい、嵐が来るみたいだから、1人1つ食べたら各所に知らせとか、対策に行ってね!」

大丈夫、観光客にもコロッケは回る。ちょっとだけど。