LNCrawler

第742話 対策

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第742話 対策

「はい、はい、嵐が来ると思うから対策してね。広場のテーブルと椅子、タープ、住宅の窓の外に飾ってある植木鉢、窓の閉め忘れ、港の船の帆、網。戻る時に声かけて」

コロッケをチェンジリングに渡しながら、お願いしておく。

支払いも受け渡しもスムーズ。チェンジリングが流れるような動きで支払い受け取り、店から離れる。ちょっと離れたところでひゃっほーしてる。

こう、並んでいるチェンジリングの圧がすごい。素早く手に入れないと、奪われるんじゃないかと思ってるっぽい。

だから人数の割にスムーズなんだよね。俺が値段を切りよくしてるのもあるけど。正直どんな値段つけていいか見当がつかないので、毎度適当に会計しやすいのをつけてる。

コロッケとか、どうしても日本の感覚で値段つけたくなるしね!

コロッケを受け取ったチェンジリングたちが、狭い広場から去ってゆく。一部は残って、観光客をさばいてくれてるが、客層が入れ替わった感じ。

やっぱり気配が違うね。人間とチェンジリングの気配というわけじゃなくって、チェンジリングが若干殺気立ってるというか、 食べ物 ( コロッケ ) を手にいれることに本気すぎる。

俺も山の中に飛ばされてサバイバルしてた時、コロッケだされたら血眼になってた自信あるんで、食べ物についてはつい甘やかし気味になる。たんとお食べって思ってしまう。面倒くさくならないように、最初に色々取り決めたはずなんだけどね!

まあでも、金払ってくれてるしいいよね。観光客差し置いて、従業員が先に食ってるのも、こっちの世界だったらアリでいいだろう、たぶん。

大量のコロッケをさばき終え、窓口の鎧戸を閉める。終了、終了〜。

手伝ってくれた精霊たちに魔力を薄く流し、労う。ほんのちょっとね、じゃないと俺がここに来た時、作業に興味なんかない精霊まで際限なく寄ってくるようになっちゃうから、ちょっとだけ得した気分になれるくらいの魔力。

軽く掃除をして、お店の主――レストランの一角を借りているというか、一角を残して俺が貸しているというか――に挨拶をして、店を出る。斜面に建っているんで、店のメインの出入り口は広めの路地に面した2階にある、俺の店舗スペースは狭い広場に面した1階。

路地を歩いて菜園に。

「嵐が来るよ」

ただの菜園にしては仰々しい鉄の格子門を開け、菜園で仕事をしている人に声をかける。

ちなみにチェンジリングじゃなく、今いるのは人間5人です。

「ニイ様、嵐ですか?」

空を見上げ、開けた海の方へ目をやる。

この島に元々住んでいた、漁師から転職した男性ジャック。

「空気がね。夕方からかな? 夜からかな。もう少し時間があるよ」

精霊を見てカンニングしてます。

「じゃあ、収穫できるものはしちゃおう! あんた、籠持ってきて籠!」

そして別の元漁師の奥さんが、離れた場所で作業していた旦那さんに怒鳴る。

怒鳴りながら今やっていた作業を切り上げて、奥さんも小走りに作業小屋に向かう。

「他は何をすればいいですか? 船ならわかるが、 菜園 ( ここ ) での嵐は経験なくって」

頭をかくジャック。

「畑が水没しないよう排水溝のチェックと、キャベツとかには根本がぐらつかないよう土をかけて。背の高いのには支柱増やして、結ぶとこも増やして」

ジャックに話しつつ、精霊たちにも嵐が来ることを教える。

『しってる〜』

『匂いするもん〜』

『え〜わかんない〜』

『渦に巻かれるの楽しみ〜』

『いや〜土の中に逃げてる〜』

精霊は嵐を楽しみにしてたり、嫌がってたりとそれぞれ。木のウロに避難しに行く精霊や、一足先に嵐を見に海にゆく精霊。野菜の蕾を心配してくれる精霊、個性豊か。

「我が君」

俺も作業してたらアウロに呼ばれた。

畑の土、ふこふこしてるのによくスーツと革靴で入ってくるな。汚れてたところ、ほとんど見たことないんで、執事と同じく歩き方になんかコツがあるんだろうな。

「大陸にある村と、アミジンにも伝達してきました。あちらは嵐の後は数日井戸も濁りますので、感謝されておりましたよ」

アウロが言う。

「そっち忘れてた。ありがとう」

設置しててよかった精霊伝達。

色々作業を終えて、塔に【転移】する。自分の分のコロッケはもちろん確保済みだが、嵐が来る前に風呂に入ってしまおう。

というか、ポツポツし始めてる? 露天風呂はこういう時困ります。屋根はかけてあるけど、嵐じゃ前後左右吹き込み放題だからね。

塔の薔薇をはじめとする花、飛んじゃうかな? 波もかかるんだよね。花々にも精霊がついてて、丈夫なんだけど。流石に菜園の対処で一杯一杯でした。

仕方ない、こっちはズルして薄く大気の膜を張ろう。

真っ黒い雲が近づいてくるのを眺めながら、風呂に入る。いつもは凪いでいる海が、あっという間に荒れはじめ、島の崖に打ち寄せてくる。その波はだんだん高くなり、飛沫を上げるようになった。

渦巻く風はだんだん強く、海は三角の荒波。よし、風呂から上がって、コロッケ食べながら眺めよう。