第743話 嵐
第743話 嵐
場所は塔の一番下、海面に一番近い作業部屋。
日が当たると痛むコレクションもあるし、基本ここは窓は少ないし小さい。ちょっと穴蔵感のある場所なんだけど、1箇所だけ大きめの窓をつけた。
作業の休憩するときに開放感を求めて、でもコレクションの棚になるべく日が当たらないようにした結果、床から俺の背丈くらいの窓になりました。
ヴァンの手伝ってくれたガラスはちょっと歪んでいるけど透明度が高くて丈夫。塔でずっと生活するわけじゃないし、周りは海。防犯も兼ねて望遠鏡を向けられた場合は、屈折をむちゃくちゃにしてくれるようこの辺りの光の精霊たちに頼んである。
丈夫なのはわかっているけど、心理的に俺が不安になるので、装飾と支えも兼ねて精霊鉄で四隅から模様入り。
その大きな窓辺に設置してある椅子と小さなテーブルの上にコロッケを出す。
さて、コロッケに合う飲み物はなんだろう? ちょっと量があるし、炭酸かな。千切りキャベツも出すとして、コーラ……いや、ちょっと辛いジンジャーエール、もしくはビール。
ワインでもいいのかもしれない……。
迷った末にご飯と味噌汁、千切りキャベツ、ビールになりました。
俺にマリアージュする能力はない!
皿を置きコロッケを出す。出来立て熱々。ついでに焼き鳥。おかしいな? テーブルを出した途端、普通の夕飯用意になってるこれ。まあいいんだけども。
外を眺めながらご飯を食べる。ソースをかけたコロッケをサクリと一口、二口。口の中のコロッケの味はご飯でリセットするか、千切りキャベツでリセットするか、はたまた味噌汁か。とても普通のメニューだけれど、美味しい。
こっちの世界に飛ばされて、思うように食べられなかった後に食べたせいか、好きと言うのとは微妙に違うんだけど、千切りキャベツに安心する俺です。
――訂正、こっちでは普通の献立じゃなかった。
真っ黒な空は、いつもは綺麗なアクアマリンの海を同じ黒に変え、大粒の雨を降らせている。
『お知らせ』
『お知らせ』
『嵐!』
『風が吹くよ!』
『波が荒れるよ!』
『雲のお知らせ』
『雨のお知らせ』
『嵐!』
『船は帆を畳んで、港で震えて!』
『瓦は吹っ飛び、窓は割れ、全部吹き飛ばすよ!』
『お知らせ』
『お知らせ』
『氷が降るよ!』
『風が渦を巻くよ!』
『お知らせ』
『お知らせ』
『お知らせは大切』
『だからゆっくりきたよ』
『お知らせした分一晩中嵐!』
雨の音と波の音、風の音に混じって精霊たちの声が聞こえる。
その声を聞きながら眺めていると、水面から白いモヤが渦を巻いて登ってゆく。空からも同じものが伸びてきて、大きな竜巻に。
雨が強いと、雨粒が風に抵抗して竜巻になり辛いとかないのか? 積乱雲も雨になって解消されるとかこう。
外の精霊たちが騒いでいる内容からして、お知らせ代わりにあんまり害のないところから始めてるのか。
なんかこう、菜園を含む島の対策、あれだけじゃ足りない気がしてきたぞ? 今から島全体にこの塔と同じ大気の薄い幕を張る?
いや、俺が全部対処しちゃうのはダメな気がする。島の精霊たちの中にも嵐を楽しみにしてたのがいたし、年にいっぺんあるかないかだし、ここは住民に自力で頑張ってもらおう。
お知らせのおかげで、多分死人が出ることはないはず。島の家は丈夫に作ってあるし――これが個々に作った家だったら心配だったかもしれないけど。
うん、任せよう。アウロもキールも嵐は初めてかもしれない。でもソレイユなら知ってると思うし。ジャックとかも菜園の保護には慣れてないだろうけど、この島で何度か嵐にあってるだろうし。
というわけで、何もせずにコロッケ続行。
――波が窓にかかるんですけど。塔は崖に張り付くようにあって、海まではちょっと距離があるんだが、思いっきり届いている。
城用の船着場は無事だろうか。この塔にある隠し通路から下の船着場に抜けられるけど、様子を見てくるべき? いや、さっき住人に任せるって決めたんだから。
『お知らせ終わり』
『お知らせ終わり』
『雨に風に雹』
『雷に竜巻突風』
『海は荒れ』
『木々は風を阻めず』
『大地は水を飲み込めない』
『吹くよ!』
『踊るよ!』
『叫ぶよ!』
『歌うよ!』
『全力!』
『力加減は考えない!』
『楽しく!』
『狂う!』
『だって久しぶり!』
『だって解放!』
『お行儀良さはかなぐり捨てて!』
『お知らせ終わり』
『お知らせ終わり』
『雨に風に雹』
『雷に竜巻突風』
『海は荒れ』
『木々は風を阻めず』
『大地は水を飲み込めない』
――大迫力なんですけど!