第745話 大気と海と青トカゲ君
第745話 大気と海と青トカゲ君
『ちょっと準備する』
このシュラフ、どうやったら一番風で飛ばないだろうか。白色雁の羽毛で作った上掛けみたいなのを折りたたんで、封筒状にしただけなんだけど。
精霊鉄で生成された内側からも閉められるチャックと、持ち運びの時にくるくる丸めて結べるようにした紐はある。チャックはスライダー2つの両開き。
とりあえずあれです、チャックをちょっと閉めて片側から流れるマント状に首にかけた。ちょっと考えて、紐を片方の手首に結ぶ。両方それぞれ結んじゃうと、帆のように風をはらんで、空気抵抗がひどそう。片方は開けとかなきゃ。
『エクス棒、手伝ってくれるか?』
『おう! どうした!?』
『簡単に言うと、精霊たちとこの寝袋の取り合いする遊び』
『寝袋?』
きょとんとするエクス棒。
『なるべく離さないように着てるけど、これが寝袋です』
『わはは! 新ファッション!』
『この場合、精霊ってどれくらい俺に味方してくれるかな?』
『契約してるんだから命令しちゃえば簡単なんだけど、それじゃ遊びじゃないからな! ルール決めようぜ!』
エクス棒が元気よく言う。
『うふ』
『うむ』
ウフとセイカイが頷く。
そういえばそうでした。
『いつもの大気の膜を切られるのは困るので、ウフの眷属だけど今周りにいる俺の魔力を通している精霊は俺の方でお願い。代わりに【転移】は海の上にしかしない』
『うふ』
ウフが頷き、俺の周囲にいた大気の精霊たちもさわさわとざわめいて俺のそばにより、同意を示す。
【転移】は海の上限定はちょっとズルかったかな? もともと陸地には近づかないつもりだったし。
『【転移】の範囲は訂正、海の上じゃなくってこの内海――セイカイの及ぶ範囲にする』
『うむ』
重々しく頷くイルカと、その上で軽く頷くヒゲマッチョ。
本当にどっちが本体なんだろう?
『ん〜やる気満々が伝わってくるのは大気と海と雨か。性格にもよるけど、この場合は大地とか岩とかの木々の精霊に頼めば張り合ってくれるんじゃね?』
エクス棒がちょっと考えて教えてくれる。
『僕も手伝うよ、この塔はずっと僕がいたからちょっとやそっとじゃ崩れないし。任せられる小さい子達もたくさんいるしね。眷属たちにお知らせはしてきたよ』
青トカゲ君が顔をだし、そのまま小さくなってするすると俺の服の中に潜り込み、襟元からちらっと顔を出して頷く。
『ありがとう。よし、俺に協力してくれる精霊、手伝いお願いします。陸地から離れるから無理のない範囲でね』
頑張って転移しまくるつもりなんで、そう多くなくって大丈夫。
『絶対 寝袋 ( これ ) が俺から離れないように布が切れないようにお願いします』
『俺が指した先にいる精霊は、ご主人が分離させたりくっ付けたりするのはOKってことでいい? ただ逃げ回ったり追っかけ回したりするだけじゃ盛り上がらないだろ!』
俺が協力してくれる精霊たちに頼んでいると、エクス棒がルールを追加。
『うふ』
『うむ』
エクス棒に同意するうふとセイカイ。
と、いうことで第一回海上寝袋争奪戦を開始する!
大気の膜を纏って塔を飛び出す、追いかけてくるのは5秒後。陸から引き離す目的もあるので、最初は【転移】を使わず……すごい風! 飛ぶのすでに大変なんだが。
海から大波。
俺がいるのはもう少し上、風がなければ届かない。
ウフの眷属たちが上に行きたがるセイカイの眷属たちに力を貸す。一緒にくっついて巻き上がる大気と水の精霊、そして生まれる風の精霊。
『大気と水分は分離!』
渦を巻く風をビシッとエクス棒で指して精霊を分ける。
海水が暖められて、水蒸気になる。
水蒸気は上を目指し、上昇気流が発生する。
今ここで吹いている風の原因は真っ黒な積乱雲。
上昇した水蒸気は上空の冷たい空気で水滴になり、雲を作る。強い上昇気流には湿った空気が続々と流れ込み、雲はやがて積乱雲へ。
水蒸気が水滴――雲へ変わる時、たくさんの熱を大気中に放出する。この熱が大気を暖めることで上昇気流が強まり、気圧が下がる。これの繰り返しでどんどん大きくなる。
積乱雲に伴う強い上昇気流、発生する激しい渦巻きは竜巻。積乱雲から吹き降ろす下降気流が地表に衝突、水平に吹き出す激しい空気の流れはダウンバースト。たくさん蒸気を吸い上げ、雲を作り出した熱帯性低気圧の中心の風速が早くなったら台風、ハリケーン、サイクロン。
あんまり考えてる時間がないので、とりあえず分離! 空に上がる前に、雲に成る前に、水滴にして海に落とす。
「ぬえっ」
片流れのマント状寝袋が風で大きくはためいて、体が引っ張られる。
味方してくれている大気の精霊のおかげで、空中でも踏ん張れるんだけど、基礎能力バカ高いはずの体でも、耐えるの難しい!
『えっと、このふわふわ君の体にくっつけとけばいい、かな?』
そう言って青トカゲ君がマントをつたう。
持って行かれていた寝袋が俺の体に巻き付く。
『ありがとう』
俺を追いかけるように海から起こる上昇気流を避けて消して、内海の真ん中あたりまで来た。嵐の本体みたいなでかい渦もこっちに近づいてくる。
とりあえず第一目標の進路を変えることは達成かな? あとは陸地に近づきすぎないよう、逃げ回るしか。嵐の規模がでかいんで、逃げ回れる範囲が広いと嬉しいんだけど、風の勇者のせいで陸との目測がですね……?
近いんだか遠いんだかどっちだよ!!!