第750話 綱渡り発覚
第750話 綱渡り発覚
普段は聖水やらなんやら仰々しい名前をつけて売っている水が、精霊に捧げられることなく、樽がいっぱいになるとすぐに運ばれてゆく。
場所はナルアディードの『精霊の枝』。
俺は最初のメール小麦とソレイユの書状を持って来た。援助の方は商業ギルドと海運ギルドにはそれぞれファラミアとキールが行っている。『 精霊の枝 ( ここ ) 』には陣中見舞い。
なお、一緒にオルランド君が来ていて、アスモミイの従者になった兄弟と話している。使者は俺じゃなくってオルランド君の方だ。
目立つ被害は裕福な商家のガラスが風や飛来物とかで割れたこと、海からは多少距離がある運河沿の商館一階の小さな倉庫の浸水。ちなみに港付近の倉庫は荷物がついたら、すぐに他の土地に運ばれてゆくような交易品。
小さな倉庫の方は、ナルアディードとその周辺で消費する商品が納められていた。でかい倉庫に食料があればよかったんだけど、旱魃の影響で食糧の需要は大きく、入ってくる前に買い手が決まっていて、倉庫に入れずに船から船への積み替えで運ばれてっちゃってるそう。
高波と雨、そこそこの強風。雨雲も竜巻も内海の真ん中になるべく誘導したので、被害は主に沿岸部にとどまる。今までどうだったのか聞いたら、嵐は来たけど対岸の火事というか、海上で留まってたんだって。
どんなに海が荒れても陸の上は安全、と思い込んでいたそう。一瞬俺が精霊たちを張り切らせちゃったかと思ったけど、そもそも『木々は風を阻めず』『大地は水を飲み込めない』とか上陸する気満々なことを言っていたので、先代勇者との契約が原因だと思う。
で、周辺の島にも被害はあったが、作りが特殊で海抜が低いナルアディードが一番ひどい。
でもね、麦の穂の意見は違う。
『たぶん一番風を使ったからじゃのぅ』
『船があるから?』
ナルアディードでは船があって、知ってかしらずか、勇者と風の精霊の契約を使いまくってる。言い換えるならば、風の精霊たちを消費している。
『そう。あとわしがいるから』
『なんで? 精霊の枝が精霊に狙われるの?』
『精霊をいっぱい集めちゃうのよ、わし。ずっとずっと集めて来たの』
精霊の枝って、精霊を呼び寄せるけど、呼び寄せる精霊たちは『王の枝』に人間が願った願いを叶えるのに必要な精霊たちのはず。
『前に風の精霊を呼び寄せて、人間に使わせてたから恨まれてる?』
『違う違う、 ま だ 恨まれてはない。ただ、今まで通りわしのところによって来ちゃう。わしが呼ぶのはもっと穏やかな精霊じゃけど、クセがついちゃってるんじゃな。嵐の精霊たちはかわっちゃってるけど、わしが今までずっと呼んできた精霊たちじゃね』
『なるほど?』
『『王の枝』に願われた『豊穣』と『商売繁盛』。得意なのは『豊穣』の方なのよ、わし』
『それ、作物で商売繁盛じゃないのか?』
『初めの願いはそうじゃね。でも、交易の方が儲かるからね。微妙な存在なのよ、わし』
そういえば、初めて会った時もそんなことを言ってぼやいてたような……。
精霊の木に願った人は――もしくは時代は、作物が豊かに実って、それを売って金持ちにの方向だったのに、大航海時代きちゃって、富豪といえば船! 航海! 交易! に変わっちゃったとか?
『あれ、今回の嵐が酷くなったのって、勇者と風の精霊の契約が解けかけてるとかじゃなくって、もしかしてマリナの『王の枝』がやばい?』
『酷くなったのは勇者と風の精霊の契約が解けかけてるほうで合っとるよ。でもあれで船が壊れて、商売が止まったら、危なかったね、わし。 ナルアディード ( ここ ) で儲けてるせいか、『王の枝』の周辺でも真面目に作物を作ってくれないの』
怖っ! 綱渡りしてる国あった。
『『精霊の枝』があっても、今回危なかったみたいに精霊で破綻することがある?』
『誓いが壊れかけてるからね。風の精霊や海の精霊の眷属の鬱憤が強かったのもあるけど、ナルアディードの人間より半島にいる人間のほうが多いのよ、大多数が誓いを守っていないの』
『真面目にってことは作ってることは作ってるんだ?』
『うん。でも誓いほど真面目じゃないのよ』
『……俺がマリナで人を雇って農業で儲けたら、麦の穂は元気になる?』
元気っていう表現で合ってるかわからんけど。
『雇った人の帰属意識がマリナなら元気になるよ、わし。でもきっと雇ってくれた人に帰属しちゃうんじゃない?』
――なかなか難しいけど、何かないかな。俺がマリナの人間だと誤解させるとか? いや、誤解してても俺に帰属してることに変わり無いのか。