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第751話 願いと誓いは表裏一体

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第751話 願いと誓いは表裏一体

すごく困る。

俺が守りたいのは俺の大事なモノ、親しいヒト、好きなヒト――そのヒトたちを取り巻く世界。全部を救う気なんて最初からない、そんなものを背負えるほど俺は大きくないし、博愛でもない。

人間か精霊、どちらかにつくとかもない。

『マリナって麦作ってるよね?』

豊穣の意味は穀物が豊かに実ること、またそこから転じて物事が豊かで満ち足りている様子を指す。マリナの気候で穀物は小麦だろう、麦の穂も小麦っぽいし。

【言語】君の翻訳がおおらかならもっと作物全般かもだけど。

『作ってるのよ。ただ売るほど作ってないの、微妙なのよ』

困ったような声で言う麦の穂。

『交易の方が儲かるから?』

『うん。それに枝を求めた者が、弱い立場のひとだったから税が低いの。民の大部分は自分が食べられればいいから、のんびりなのよね。のんびりやっても実るから』

あー。

あー。

南国とか魚もフルーツもすぐとれる環境の場所って、だいたい発展ゆっくりだよね。外部から便利なもの入ってこない限り現状維持というか。

それで税金……この場合は納める小麦が一定で、その分と自分たちが食べる分しか作ってないのね。

王族とか貴族とか商人は儲けも考えそうだけど、そっちはそっちで農民にかける税が上げられないなら、 ナルアディード ( ここ ) の交易で効率よく稼いでるんだろうし。

『豊穣』と『商売繁盛』、作物で商売繁盛だったのが完全に分離。麦の穂も別々なニュアンスで口にするし、元の正確な願い自体忘れられてそう。

願いと誓いは表裏一体、願いを叶えるために行動しなくてはいけない。マリナの場合、『豊穣で商売繁盛』を望むからには、麦は売れるほど『作り』『売る』。

『作った』時点で『豊穣』の願いが叶えられ豊作になるはずで、余剰分を『売る』ことで『商売繁盛』が叶えられる。最初はやってたんだろうけど、商売繁盛しすぎて交易の拠点になっちゃったのか。

『俺、結構麦の穂好きだから、ギリギリは困るなあ。アスモミイに麦作って売れとか言えばなんとかならない? ちょうど旱魃と嵐で食料不足だし』

王族や貴族、大商人は食糧不足につけこんで、ないならないで儲けてそうだけども、一般庶民は真面目に作るんじゃないだろうか。

『誓いを守れとは言えるんだけどね、枝の言葉はやる気がない人間には届かないの。王や影響下にある民が自発的に行動しないとダメなのよ、特に王様ね。民に問いかける役は王なのよ。――ありがとね』

そもそも麦の穂も人にわかる言葉を話してないし、さらに制約があるんじゃハードル高そう。

『アスモミイはやる気あると思うけど』

諦め悪くしつこく聞く俺。

『アスモミイは愛が重いのよ。やる気は誓いを守ることじゃなく、わしのお世話ね。あと、枝が直接語る言葉と一緒で代弁もとどかないのよ。できるとしたら、 麦を植える ( ちかいをまもる ) その 行動 ( すがた ) で民を感化することじゃの。でもそれ、行き着く先は次の王様になることなのよ』

簒奪 ( さんだつ ) コースだった。

いや、『王の枝』からしたら民の中で誓いを守って、民をまとめ上げる力がある人が正当な持ち主になるのか?

『それも自分の血筋が王位につくことを望まれてるから難しいのね。声に出して願う人もいるけど、無意識に願っちゃう人結構多いのよ。その声に出さない願いが一番強いことまであるの。守らないと一個減っちゃうのよ』

人間って複雑、と麦の穂が続ける。

民が王の血筋の移行を求めたら誓いを破ったことになるのか。まあ、じゃなきゃ無茶してるシュルムとか王家が変わっててもおかしくないよね。

俺も硬さやら太さやら長さやら願ったけど、『なんか快適』がついてきたからな。言外の願いを汲み取っときました! は、良し悪しだ。

などと思ってみましたが、そもそも精霊って言葉がコミュニケーション手段じゃないこともあった。

『ん? あれ? 血筋固定って結構危なくない? なんかすぐぽしゃるんじゃ……』

こっちの世界、寿命が短い分サイクル早いし、最初の王になった人が子供を残す前に病気に罹ったら終了、浮気されたら終了とかなんじゃ。

というか俺、コンコン棒を完全に自分専用に願ってるような……? 精霊がやりたくないことはお願いはしてないつもりだけど、魔力目当てに無理してるとかあるだろうか。

自然にそこにあることが、そのまま精霊の性質。自然の流れを歪めれば精霊も歪む。精霊が歪めば自然も歪む。

――結果、昨日の嵐みたいなことが起こる。気をつけよう。

『すぐに精霊を手放せば歪みも少ないのよ』

『……もしかして俺が思ってるより、『王の枝』って持って た ( ・ ) 人多い?』

アッシュの国みたいなもんか。

『昔はね、手を貸す精霊も多かったのよ』

『なるほど』

精霊の木のあるところに今より行きやすかったんだ?

それにしても『王の枝』、私欲をなくして願うのって難しそうだね。願いを叶えるための誓い、いくつかのうちどれかを守ってれば大丈夫なゆるいものではあるけど。

人間の願いって欲深い。――だからやりようはあるね。