第752話 おしゃべり
第752話 おしゃべり
「あ、ニイ様!」
『精霊の枝』にいたアリーナが俺を見つけて走り寄ってくる。
そういえば嵐が来ちゃったから、アリーナの引き取りの話も宙に浮いちゃってるな。
「麦の穂様を見てたの?」
「うん。オルランド君がアスモミイと打ち合わせしてる間にね」
小麦、多分量が足りてないんだよね、旱魃で。メール小麦は投入したけど、王族や貴族が溜め込んでいた小麦を吐き出させた状態なので、余剰はないはず。
それでも力のある商館主たちは、さっさと麦を集めるだろうけど。皺寄せはあちこちに行くと思う。それはそのうち偉い人になんとかしてもらう方向で、今は緊急の支援の話。
流石に塔の倉庫に詰めていたメール小麦だけじゃ足りない――空になったところにもう一回足したけど――ので、分配方法は商業ギルドと海運ギルドにお任せ。
こっちで分配すると多分後で酷いことになりそうだし、ナルアディードでの力関係や弱いところが分かっている2つのギルドに振ったほうがいいとソレイユが。この非常時に世知辛い。
いや、非常時だからこそ世知辛いのか。
メール小麦の分配は力のある2つのギルドに振り、ナルアディードの『精霊の枝』へは陣中見舞いのようなもの。怪我の治療や、水を求めて来る住民がいるし、大忙しだろうから。
「私はお水運ぶのは邪魔になりそうだから、治癒師さんに魔力の譲渡をしてきたの。大人の人はフラってするくらい譲渡したのに、子供はダメなんだって。でも休んで、夕方になったらまた少し頂戴って」
「へえ、偉いね」
魔力の譲渡なんてできるんだ?
いや、魔石潰して魔力回復するんだから、できそうではあるけど。魔道具かな? 精霊憑きの能力かな?
俺も行ってこようか――いや、魔力流し込みすぎて騒ぎになるか、壊す予感しかしない。大人しくしておこう。
「麦の穂様は今日も輝いてる!」
とてもとても無邪気に、きらきらした目でアスモミイみたいなことを言い出したアリーナ。
ちょっとアリーナの両親! アスモミイの英才教育完了してそうなんですけど!
『こんにちは』
アリーナのポケットから顔を出す白イタチ。
『こんにちは』
ああ、アリーナも精霊憑きだから魔力は人より多いのか。
『前に会った時は眠っちゃってごめんね』
『いいや。無理に人間のペースに合わせなくていいよ』
精霊と人間では流れている時間が違う。
というか精霊同士でも違う。瞬きする間に一生を終える精霊もいるし、陸地ができたころからずっといる精霊だっている。眠り続ける精霊も、寝ずに飛び回る精霊も。
『ペースは合わせなくていいんだけど、アリーナと両方の話を聞くのはちょっと大変かな。特に真面目な話なら』
どうしてもポケット見ちゃうし。
『うん、わかった。後でまた出て来る』
『うん、後で』
白イタチがアリーナのポケットから顔を出して、引っ込めても麦の穂を讃えているアリーナ。
あれ、これ白イタチの話聞く暇あったな?
『愛されてるな』
あれー? と思いながら麦の穂に話しかける俺。
まあ、なんか長そうな気配だったし、白イタチの話はまた今度落ち着いてる時に。
『違う、違う。好かれているとは思うけど、これはアスモミイの真似なの。わしに向けた言葉じゃないのね』
『そうなの?』
『そうなの』
麦の穂が言うならそうなんだろう。俺より断然人生経験――はともかく、人の心の機微がわかると思うし。
『これは自分の願いに向けた言葉じゃね。わしを見ているわけじゃないよ』
『自分の願い』
『わしに祈りながら自分の願いを思ってる人、たくさんいるのよ。せめて『豊穣』とか『商売繁盛』を願ってくれればいいんじゃけど、わしの力と全く関係ないことを祈る人もいるよ。『王の枝』を持つ者の民以外に効果ないんじゃけど、わし』
『まあほら、周囲の麦の穂に好意的な精霊が手伝ってくれるかもだし』
民でない人が『精霊の枝』に来るのは、だいたい観光目的に比重が傾いてるけど、手助けしてくれるのではというか、運気が上がるのではと期待もしている。
その身に憑いた黒精霊の『細かいの』が、精霊たちに払われて、実際気分や体の調子が上がるし。精霊たちがたくさんいるから、気まぐれで手助けしてくれる精霊に会う確率も他より高い。
「――うん! 今日も1日絶対いい日!」
アリーナがにこりと笑う。
どうやら麦の穂への賞賛ルーティンが終わったようだ。
「ニイ様、お待たせしました」
「お疲れ」
終わったところでオルランド君が戻ってきた。
そしてアリーナとアスモミイと一緒に、アリーナの両親と話に行くことになったそう。
「ちょうど嵐の件で寄進をしにいらしているそうなので行ってきます」
「任せた。俺はナルアディードの中をちょっと歩いて、島に帰るよ」
オルランド君はここに身を寄せていたので、アリーナの両親とも顔見知りなので丸投げ。
俺は何しにきたのかって? 麦の穂としゃべりにですよ! 麦の穂が鎮座してる部屋にはそれなりの寄進しないと入れないんで。
パウロルおじいちゃんやオルランド君がいれば顔パスみたいだけど、ちゃんとメール小麦持ってきたし、正規の入室ですよ!