第753話 ナルアディードの造り
第753話 ナルアディードの造り
ナルアディードを歩く。
『運河、無秩序だね。もっと考えて作ればいいのに』
カクカク細かく曲がったり、斜めに伸びてすぐ他の水路に出たり、真っ直ぐ抜けられるところは少ない。
これはこれで味があるけど、もっとこう、排水とか利便性をですね? 排水はほとんど雨が降らないんだから想定してなかったんだろうけど。
『違うよ〜? 土地が後からできたの』
『昔は海だったの』
『昔は干潟でどろんこだったの』
『ああ、杭を打って土地を広げたんだっけ?』
今日の街歩きガイドはナルアディードの古い精霊たち。
『そう』
『ここが一番おっきな島だね』
『他は海からちょっとだけ出てたね』
『他はどろんこからちょっとだけ出てたね』
『ちょっとだけね』
『ちょっとだけよ』
今いる『精霊の枝』と商業と海運の量ギルドがある場所が、一番大きな島で内海に面した端の島、その北側――大陸側にたくさん島があって、干潟があったんだって。
発展とともに人が増え、干潟に岩盤に届くまでトネリコやオークのデカい杭を打って土地を作り家を建てたのだそうだ。岩盤が浅いところにあるからこそできる所業、人力だしね。
『木の杭って水に浸かってるから腐らないんだ?』
『うん』
『新しいところはね』
『古いところは木の杭じゃないよ。僕は石の精霊』
『石で杭作ったの?』
『違うよ、石になったの』
『海の色々精霊と一緒になって石っぽくなったの』
『へえ、木って石になるんだ?』
『ケイカボクって知らない? 木だって石になるよ』
海中で酸素に触れず木材は腐ることなく、海中のミネラルを吸収して石化してるとかなんとか。 珪化木 ( けいかぼく ) ってそういえばあったな。貝やイカの化石もオパールになるしね、木だって石になるか。
コンコン棒に至っては、石や金属より硬いし、色々あるね。
元が島だった場所の家は石造りの家がほとんどだけど、杭の上に建ってる家は重さを減らすために中が空洞のレンガと石灰モルタルできてるそうだ。
で、ミッチミチに家が建ってるんだけど、杭の上には石の土台を設置してるんで、建物と建物の間は水捌けが最悪。
『昔はね、僕みたいな土を練った道だったの』
『次は僕ね、テラコッタっていうの』
『今はほとんど僕だけどね』
道の精霊3人。
『まだ水が引いてないとこあるね』
ここはちゃんと島だけど、石畳と建物に囲まれて、路地から流れ込んで集まった水が、広場に3センチくらい溜まってる。
『いいんじゃない?』
『いつも水がないっていってるし』
『喜ぶよね?』
『いつも雨降ってって言うもんね』
『ああ、飲み水か』
ナルアディードの井戸は、基本雨水を貯める方式。井戸はシスルナとかいう貯水池に繋がってて、貯水池は大体広場の下にある。溝は細いし、広場にも溢れてるけど、水が集まる場所は合ってた。
『僕ら粘土の精霊が海水を入れないの』
『僕ら砂の精霊が粘土の精霊に囲まれてるの』
濾過システムもあるようだ。広場の下は掘られて、周囲を粘土でボウルみたいに覆われ、砂が詰まっている。石畳で蓋をしたその広場の中央に、井戸を設けて、井戸の中に染み出してきた水を使ってるんだって。いろんな井戸があるね。
『青の精霊島』の城の井戸は、井戸の底に水の出るプレート設置してるのがメインだけど、岩盤掘り抜いてその下の水脈まで通してる井戸もある。前者は神々からもらったプレートなんで、ダメになったら怖いからね普通のもある。幸い海水が染み込んでくることもなく機能してる。
水不足が解消されるのなら嵐も悪いことばかりじゃない。それに、海の水が攪拌されて、だいぶ海水温が下がったんじゃないかな? かりんとう饅頭ちゃんが海水温上げて、ずっとそのままだったからね。
それはそれとして被害すごい。海や水路に面したところの方がすごいようだけど、この周辺、商館の中でもお金持ちの部類がひしめいているんで、ガラスがね。競い合って大きいの使ってたんですよ。
道のガラス片は撤去されてる――溶かして使える高級品だからね――けど、建物が痛々しい。瓦も吹っ飛んでる。こっちの家、瓦の下がすぐ屋根裏部屋ですみたいな構造なんで、中見えちゃってる。
俺のカヌムの家も、屋根裏部屋から天井見たら瓦だったもんな。屋根に関しておおらか構造すぎない?
でもまあ、元々お金持ちが住んでるところだから復旧も早そう。商品ダメにしちゃったりしたところは、ナルアディードに店を構えていられなくなるだろうけど、すぐに新しい商人が入ってくる。
とりあえず命の危険に晒されてるとかはなさそうなんで、ちょっと安心。