第761話 協力の申し出
第761話 協力の申し出
翌日、ソレイユの執務室に再びお邪魔。
執務室なんだけど、執務室の隣の部屋だ。背後にでかい窓どん! 地の民作重厚な執務机どん! な部屋は、実は不便なので、本格的に忙しくなってくると書類棚が納まっている部屋で、色々資料を開きっぱなしで散らかしながら執務している。
そういうわけでソレイユは忙しそうだ。
「ジーン、枝の件はまだ顔つなぎをお願いしたばかりで、返事は来ていないわよ? ――ファラミア、マリナの資料をちょうだい」
声をかけられたファラミアが、書類ケースから何枚か抜き出しファラミアに渡す。
「これはマリナの現状を簡単に。小麦の税は軽く、代わりに領土内の食肉などに税をかけているわ。その結果、貴族農民ともに小麦の加工品が主食。味はともかく、パンだけは行き渡っているようよ」
ソレイユから差し出された書類を受け取って目を通す。
町の商人や職人は他の国と似た感じ――マリナの職人にはマットレスを作ってもらっているので、ちょっとだけ付き合いがある。
領主とかはあれです、小麦から税が期待できないせいか、セコく税収を上げようとしてくるんで面倒臭い印象。元々マリナに土地を借りて畑やってたのに、タリア半島のリプアに移したのはそのせい。
小麦だけじゃなく、一応他の作物も作っているし、家畜もいる。けれど、周辺の国に比べてあからさまに少ない。どうせ税でとられるなら、必要なものを最小限に、みたいな感じだろうか?
小麦の次に植えてるのは、薪になる育ちの早いイナゴマメ――これは周辺国でも植えられている。普通はこのイナゴマメのサヤを家畜の餌に回したりするんだけど、マリナは小麦を餌にしてる。
小麦があれば家畜の飼料には困らず、もっとたくさん飼えると思うんだけど、小麦の葉を食べる家畜は避けられ気味。食肉にかけられる税金も関係してるんだろうけど。
他にも色々あるけど、俺の理解はそんな感じ。
「どうも小麦を作っている肝心の農村部で、生産意欲が低いのよね。マリナの上と話すことができれば、小麦を売ってそのお金で何かを買いたくなるような方向づけを相談するつもり」
ソレイユが机に肘をつき、一つため息。
「手始めにオレンジと野菜を売る。先の旱魃で、小麦以外がダメになって欲しがってるから、馴染みのあるものから、そうでない『青の精霊島』の野菜まで入れやすいと思うわ。販路が確定したら、ジーンの入れたいものでいいかしら? 手に入れやすいちょっとした贅沢品で、食べて消えるもの」
ぺらりと書類をめくって言うソレイユ。
すみません、売るものもソレイユに相談すればよかった……っ!
「次に設備と贅沢品。トイレをはじめ、王城、富裕層、都市部、農村へと広げていけたらいいわね」
疲れてそうなのにちょっとウキウキした気配。
「その辺は全面的に任せる。マリナの王様に説明に行くなら、ハウロンがソレイユの後ろで腕組み待機してくれるって。こっちじゃ名前だけで、顔は知られてないだろうけど、いるなら王狼も腕組みに参加OKもらったけど」
影狼こと執事さんは、名乗って顔出しNGなんで欠席。しかも王狼よりさらに面が割れてない。
そういえば執事が、「小麦を作って売らせるだけならば、芥子――」などとブラックジョークを言い出した。
なんというか、酒に 阿片 ( アヘン ) を溶かしたものを、医者が頭痛から重病まで万病に効くって老若男女に推奨してたりするんで、こっちでは悪いことではないんだけど。
常習性は指摘されてて、危ないものだっていうのは知識人は知ってる。そもそも一般人が常用できるほど手に入らないんで、結果的にセーフみたいな。特権階級は知らない。
執事は『王の枝』があって誓いを守っていても、周囲の悪意があれば安泰じゃないことを、俺に教えたんだと思う。
「伝説の二人が後方腕組み……」
遠い目をするソレイユ。
「王狼は姿はともかく、連れている火のドラゴンは有名なんだろ? 王城なら精霊を視られる人はいるだろうし、ドラゴンの精霊自体強いから、頑張ったらみんなに見えるようにできるってよ」
何だったら一時的に精霊を視ることができる魔法陣貸します。
「……」
組んだ手に額を乗せて顔を伏せるソレイユ。
「どうした?」
何か今後の展開を計算してる?
「どうして……そうして私がそんな大物2人を従えなきゃいけないのよ! せめて、大賢者からこういった話を聞きました、って紹介させてよ! 伝説の王狼がこう言ってますでもいいわ! 前面に出て! 大賢者! 王狼!」
勢いよく机に突っ伏して叫び出す寸前、ファラミアが小さなクッションを机とソレイユの顔の間に差し込む。
クッションをむんずと掴んで口に押し付け、くぐもった声で叫んでいるソレイユ。その後ろに元通り控えるファラミア。
お肌にいい ( ・・・・・ ) 果物を差し入れようと思ってたけど、喉にいい果物の方が良かったかなこれ。