第762話 マリナからの返事
第762話 マリナからの返事
マリナからの返事はすぐにこないだろうし、返事が来たとしてもすぐに会えるとかじゃないだろう。
そう思いながら、山の家に戻って粉挽。
レバーを動かして水車小屋への水路を開ける。
水の量や勢いによる角度、それによる石臼の回転速度。
石臼同士の隙間の調整、溝。
小麦を落とすスピード。
小麦の大きさ、今日の気温と湿度。
水車小屋の石臼で粉を均一に綺麗に挽くのはけっこう難しい。
俺の場合は、この水車小屋がもともと整えられていたものだったことと、【生産の才能】で何とかなったんだけど。
あと今は精霊たちに助けてもらっている。小麦を石臼の上に設置された四角いロートみたいなのに入れれば、精霊たちが石臼の上に少しずつ落としてくれる。粉の篩もやってくれるし、とてもありがたい。
俺は時々小麦を補充しつつ、水車小屋に備え付けられてるパン焼き窯でパンを大量に焼いている。
円形のパンから四角い食パンまで。
イースト菌から各種酵母。
レーズン、グリーンレーズン、りんご、お米、うちの山で採取した酵母――それぞれ焼き上がりの硬さ、香、日持ち、作りやすさとか色々違いがある。
作りやすさいついては俺はあんまり関係ないんだけど、うまく発酵しなかったり、それこそその日の天気で調整がいるとか。
外側パリパリにするならこの酵母とか、色々あったんですよ。全部イーストでいいだろうと思ってたんだけどね。発酵は精霊たちが面白がってつつくんで、あっという間だ。
でも焼くのには時間がかかる。欲しい量を確保できるまで、数日かけて焼くつもり。『青の精霊島』の城のパン焼き窯借りた方が数は稼げるかな? でも、ここで精霊と粉挽しながら焼いた方が楽しいんだよね。
粉だらけの精霊が、時々俺に小さな白い手形をつけてゆく。
あ、ついでだから大きな円形のパンを焼いて、シュープリーズを作ろう。パンをくり抜いて、中にサンドイッチを詰めたやつだ。
それ用のパンはでっかいんでたくさんは焼けないけど、アッシュとの遠乗りピクニック用にいくつか作っとこう。
惣菜パンも焼きたいし、のんびりやろう。
パンを焼く合間に、粉挽の様子を見に行き、フスマを回収して家畜に餌として与える。
豚くんはなんでビクビクしてるんだろうか。カヌムの下水の豚とか、凶暴だしあれなのに、うちの豚くんは気が弱い。
食用キノコの場所を教えてくれるので重宝している。りんごもお食べ。
パンを焼いた翌日、マリナからの返事を待つために『青の精霊島』の台所で料理。
【収納】を綺麗にしたから、引き続き色々料理をして詰め込む方向なんでちょうどいい。焼いたパンを半分はサンドイッチに。
サンドイッチつくてる間に、米を炊いておこう。
とりあえず外でも気軽に出せて――ただし、知らない人がいる場所ではダメ――配りやすい、サンドイッチとおにぎりの作り置き。
目玉焼き作って、卵焼き作って、ゆで卵作って、鮭焼いて、鶏肉茹でて、カツ揚げて、コロッケはまだあるから、焼きそば作って、ベーコン焼いて、きゅうり切って、レタスちぎって、アッシュ用に生クリーム作って。
生ハムとチーズ出して、定番のサンドイッチからフルーツサンドまで。
おにぎりは塩結びから、鮭、ツナマヨ、天むす、高菜、昆布、梅――大量に作り置き。シュープリーズも可愛く作ったよ!
他に何かいい具材あるかな?
「我が君」
具材を考えてたらアウロがきた。
「おはよう――いや、もうこんにちは? 適当に料理してるだけだから、手伝いはいらないぞ?」
「いえ、マリナの件で呼びにあがりました」
笑顔で一礼して見せるアウロ。
「日程出たのかな?」
余ったものを【収納】して、道具を流しに放り込む。
うちの流しは流しっぱなしというか水路の一部だから、入れとけば水流である程度は綺麗になる。
精霊もくるくる遊んでくれるし、何か入れると大盛り上がりだ。
ソレイユの執務室、再び。
部屋の中にはソレイユとファラミア、キール、今入って来た俺とアウロ。
ソレイユが最初から机に肘をついて、組んだ手に額をつけてる。
「お疲れ。進展あった?」
「1週間後、ナルアディードに来るわ」
顔を上げずに言うソレイユ。
「下打ち合わせとか?」
「いえ、国王陛下が」
「……来るの? しかも早くない?」
普通、こっちが行くんじゃない?
あと移動距離的に即決行動じゃない?
ナルアディードとマリナの首都ってそれくらい離れてるよね?
「1週間かけてマリナに来て、ナルアディードに1週間滞在してゆくわ」
「観光か!」
ツッコむ俺。