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第763話 観光だな!?

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第763話 観光だな!?

「『青の精霊島(うち)』から料理を運ぶ、もしくは食材を持ち込んで調理して提供して欲しいそうよ」

観光だな?!

「そこまでするならいっそ来ればいいのに」

とても面倒くさい。

「『王の枝』の持ち主がそばを離れられるわけないでしょう! あと『王の枝』を持ち歩いたりもしないのよ!」

がばっと顔をあげるソレイユ。

「我が君、一般的に『王の枝』を持つ者は、その影響下にある国を離れられません」

いつもの笑顔を崩さず説明してくれるアウロ。

「不便すぎる」

「一般的に国を超えて移動する人間も、それができる人間も少ない」

キール。

そういえばそう。

俺は【転移】があるし、誰かのモノでもない。

この世界、道のほとんどは舗装――アスファルトではないけど――されておらず、踏みならされた小道にすぎない場所があちこちに。

道は雨が降れば泥濘になるし、獣も出る。運が悪ければ、はぐれた魔物も出るかもしれない。というか、人間が危険。

旅人を富を担いできたカモネギとしか思っておらず、村単位で襲ってくる場所が一定数ある。移動は徒歩かロバ、裕福ならば馬。貸し馬屋もあるけど、だいたい国内限定。

それに国の大半が国民の流失を阻むため、移動を制限している。働き手というか、農奴というか。

職人系のギルドに入っていると、制限が緩いんだけどね。あとは関所ごとにたくさんお金を払う商人。

この世界、旅のハードルは高いんですよ。

「完全に観光よ! 心の準備ができる前に来るのよ! ここぞとばかりにナルアディードの商業ギルド長と海運ギルドの長も立ち会うって……! 全員、どう考えても食事目当てよ! 現地見たいし王都に伺いますって言ってるのに来るのよ! しかも来週!」

ソレイユ。

「えーと、資料が揃ってないとか?」

「揃えてあるわよ、資料は。間に合わないのは私の心構え! 普通、外交官か、来たとしても宰相でしょう!? 最後の調印の時に挨拶程度はあるかもしれないけれど! 小国じゃないのよ? 『王の枝』を持つ、歴史ある大国なのよ!? 何で国王が来るの!」

何でと言われても、『青の精霊島』のご飯食べるため?

「けっこう王族とか来てるって言ってなかった?」

慣れてるのかと思ってました。

『王の枝』を持つ国の王族はやっぱり特別なのかな?

「来てるわよ! 純粋な観光なら放っておけるじゃない? 『特別扱いはしません、サービスは宿のランクに応じて。護衛の少ない街歩きをお楽しみください』よ!」

頭を抱えるソレイユ。

「そして契約締結後の実務は末の王子だそうだ。国王陛下と入れ替わりで来るとさ」

嫌そうなキール。

「『青の精霊島』を手にいれるには、縁を結ぶのが早いとお思いなのでしょう。どう考えても縁談相手ですね」

キールと対照的に笑顔のアウロ。

「うっわ、それは面倒くさそう。俺が最初に領主ですって挨拶したほうがいいか? ソレイユを領主だと思ってるんだよね?」

ソレイユと王族との縁談で『青の精霊島』が手に入ると思ってるってことは。

「その場合、来るのが王女になるだけよ」

あなた絶対対処できないでしょう? みたいなソレイユの声が言外に聞こえる。

その通りだけど。

絶対途中で逃げ出すね!

「そこは慣れてるから大丈夫よ、この島に権力者が観光に来るようになってからね。商談以外は面倒臭いって転げたくはなるけれど」

ようやく落ち着いたらしいソレイユ。

「苦労をかけます」

いやもう本当に。

「ああ、そうだ。アスモミイ形式で『精霊の枝』にぞっこんなんで断りますとかは?」

「目的が違うのだもの、それでもいいと言われるのがオチよ」

あっさり却下してくるソレイユ。

「じゃあ、ハニワにたとえばキールと結婚すること、とか葉っぱの手紙出してもらう?」

面倒なことはハニワに押し付ければなんとか。

「な……っ!」

赤くなってこっちを見て固まるキール。

「もういっそそれでもいいかもしれないわね」

机の上に胸から上を伏せてため息をつくソレイユ。

これは脈あり? 脈なし? どっち!?

恋愛偏差値低い俺が持ち出す話題じゃなかった。この微妙に気まずい空気は、かえって二人の距離を遠くする気がする。

「商売から意識を向けさせるチャンスでしたのに。そこで『ぜひ』と言えないメンタル」

小声でファラミアが主語がない言葉を呟く。

キールがソレイユを好きなことは俺でもわかるくらいなんだが、ソレイユ本人は完全に商売一筋で全く気付いていない模様。

いや、もしかしたら気づかないようにしてるのかも?

ソレイユがこの島に逃げて来たのって、商会長の無能な息子と結婚させられそうになって、無料で働かされそうになったとかだったよね?

結婚も恋愛も商売の邪魔とか思ってそう。邪魔というか、商売の方が楽しいのか。本人がそっちの方が幸せならそれでいいと思うけど、キールならソレイユの商売の時間を奪うようなことにはならない気もする。

さっき気まずい空気を作っちゃったんで、もう口出ししないけど!

あとファラミアは、なんかちょっと勝ち誇ってる気配がする。キールがファラミアを見てぐぬぬって顔してるから、相対的にそう見えるんだろうけど。

ファラミアの表情は相変わらず動かないからね!