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第764話 ハニワの調べ

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第764話 ハニワの調べ

「単に『 青の精霊島 ( ここ ) 』に観光に来たいというだけの可能性もあるわ。ずっと縁談は断っていたから、最近は正式な申し入れではなく、社交辞令のように話題には出すけれど、直ぐ引く相手ばかりよ」

ソレイユが言う。

「正式に申し入れて断られれば恥をかく。断られても冗談と笑って済ませる挨拶程度で、あわよくばを狙ってるんだろう」

苛立たしげにキール。

キールはチェンジリングの中では珍しく感情が顔に出る。顔だけじゃなく態度にも出てるけど。

「城ではなく、宿に泊まりたいという希望だし、観光目的が濃厚ね」

「城に泊まらないんだ?」

ソレイユに聞き返す俺。

なんかこう、移動中の警備の都合とかあれこれで、重要人物って城に泊まるイメージだったけど。

まあ、『精霊の枝』のある広場から、城の敷地まで宿の隣の橋を渡って直ぐだし、命を狙う第三者が島に入り込むってことも難しいと思うけど。

王子御一行に紛れ込んでたら、宿も城も危険は同じ条件になるし。

「先方には城に部屋を用意すると伝えたんだが、『精霊の枝』のある広場に面した宿の部屋がいいとか」

ちょっと面倒そうなキール。

「宿の部屋空いてる?」

「商談用に常に1フロア空けておりますが――両ギルド長は、宿を何度か利用しておりますし、お二人を城に滞在させて、宿にマリナの末の王子を案内することにいたしました」

アウロが言う。

普通逆じゃない? 王族外なの?

「どうしても『精霊の枝』の夜の調べが聞きたいらしいな」

キールが腕を組んで言う。

まさかのハニワコンサート目当て。

「お相手が良いと仰っているのです、よろしいのでは? 城も宿も、他の国の精一杯よりはるかに上の環境ですし」

アウロが言う。

アウロは丁寧ではあるけど、キールよりさらに人間に興味がなさそうな感じ。まあでも、アウロの言う通り、準備は適当でいいと思います。

ソレイユが負担に思ってるのは『王の枝』を持つ、由緒正しい国王陛下との対面ってことでいいのかな?

「えーと。王様くるなら、こっちも立ち会いにカーンを頼んでみる?」

途中、お休みがあったけど、マリナより歴史は古い気がするし、『王の枝』も持ってる王様というか、『王の枝』の王様だけど。

「増やさないで!」

がばっと起きて叫び、また伏せるソレイユ。

「とりあえずハウロンとディノッソ――王狼に日程伝えて、調整をお願いしておくけど、こっちの事前打ち合わせいる?」

「打ち合わせより、大賢者様と叫び合いたい……。何故、国々の存亡がかかった交渉を『王の枝』を持つ国の国王陛下としなくちゃならないのかしら。普通の商売はどこなの」

ぐったりしているソレイユ。

ご面倒おかけいたします。

城を出て、パウロルおじいちゃんのところへ。

元アノマの神官長で、ナルアディードの『精霊の枝』で客人として滞在していた経歴がある。なのでちょっと麦の穂の話をしとこうかなって。

人生経験豊富な頼れる人がたくさんいるので、頼るよ! 意見が割れても自分の利害やメンツのためにグイグイ来るような人たちじゃないから、安心して頼れる。

ソレイユの場合はタダではダメ! ということだけは譲らず押してくるけど、それはそれで理解できるし、落とし所も直ぐに見つかる。

無料はダメっていうのもわかるし。

相手のプライドを「憐れまれた」と傷つけるかもしれないし、逆に無料の善意にあぐらを描いて、自分たちでは何もしなくなることもある。

そして働いてくれる人が無償労働じゃ、長く続かない。

最低限は何か対価を求める、それの支払いが現在ではなく未来になるとしても。そこは俺も賛成なので、その方針で。

人間を信用してないとこもあるけど、信用しすぎてダメになる環境を用意するのもどうかと思う。

孟母三遷じゃないけど、大抵の人は周囲の環境が整っていれば、それなりに真面目に過ごすと思うんです。

以前の俺は、 姉のそば ( いえ ) しか場所がないと思い込んでた。友人関係潰されてたのもあったけど。

全部捨てる覚悟があれば外に出られたかもしれない。でもその覚悟をつけるのって、ものすごく労力がいる。

特に周囲の同じ年代の人が、その労力を必要としてなかったりすると、そもそもそんなことができるって思わない。

俺は知識をつけて、ようやくできることを理解して。

そのタイミングでこっちに飛ばされた。

――で、やっぱり環境というか、そばにいる人ってとても大切だと思った次第。

アリーナはもう『精霊の枝』にいた。

「アリーナには不安定ですが、患者を眠らせる癒しの能力があるようで、『精霊の蕾』候補として引き受けることに決着しました」

オルランド君が、パウロルおじいちゃんの部屋に案内がてら説明してくれる。

そういえばあったね『精霊の蕾』とかなんとかいうの。

『精霊の蕾』は『精霊の枝』や神殿の抱える癒しの魔法の使い手のこと。特に神殿が抱えてる人のこと。要するに権力のある組織の抱えてる能力持ち。

『精霊の花』は蕾の中でも抜きん出た存在で、高い能力と一つ以上の神殿に推挙されてなれるもの。

大丈夫、レッツェに注意されたんで覚えてます。