第765話 範囲外です
第765話 範囲外です
「お邪魔します。アリーナ、『精霊の蕾』候補だって?」
パウロルおじいちゃんの部屋に入り、話しかける。
「はい。幸い本人に能力がございましたので」
浅いけれど丁寧な礼を返しながらパウロルおじいちゃん。
何故か俺を敬ってくれる。まあ、領主ではあるんだけれども、人間的にパウロルおじいちゃんに敬われる人格してないんでちょっと困る。
「痛みで眠れない方や、精神的に不安定な方を眠らせる能力です。少し前に、中原の神殿にもサラ様という、病んだ者に眠りと治癒を与える『精霊の蕾』がおられました」
……ものすごく聞き覚えがある名前のような気が。
大福、大福の元飼い主じゃないか? ベッドから出ないタイプの3食昼寝おやつ付きのお仕事募集してた。
「サラ様は『精霊の花』となる能力はおありでしたが、1日のほとんどをお眠りにならねばならず、花になることはかないませんでしたが」
とても難しい治癒をこなしてらっしゃいました、とパウロルおじいちゃん。
控えているオルランド君からサラへの尊敬のキラキラが見えるんですが、俺のイメージが布団から出たくないのイメージなんで、どうしていいやら。
ああでも、アリーナのつれてたイタチも白くて眠そうな精霊だったな。
「ここは集う精霊たちが多く、アリーナの能力の向上が期待できる、そういう理由をつけました」
「それ向上しちゃったら本人も眠くならないか?」
大丈夫?
サラは大福の制御がきかなかったというか、大福のほうが優位だったんで、本人も周囲も眠らされてたんだけど。
大福が離れて起きていられるようになったけれど、大分大福の影響を受けてるみたいだったので、暫くは眠りの効果も癒しの効果も、そして眠るの大好きなところも変わらないだろう。
当の大福は、アッシュとレッツェの膝が気に入りつつも、一番は籠なんで今のところカヌムで眠りの被害は出ていない。
「誘発する眠気は弱く、魔力を込める量によって変化があるのは眠りの長さのようです。観察する必要はありますが、おそらく修練を積んでも伸びるのは長さ、支障はありますまい」
パウロルおじいちゃん。
「なるほど、イタチは長いもんね」
納得する俺。
「イタチ……?」
オルランド君が隣で不審そうに呟いたけど、気にしない。
「ニイ様の目にはさまざまな世界が映ってらっしゃるようですね。さて、アリーナは今、他の子供達と護符を作っております。見てゆかれますか?」
「うん。見るだけね」
そういうことになった。
薔薇の陰から様子を見る。
『精霊の枝』は中央の流れのそばはともかく、外周は薔薇だらけなので、こんもりして隠れやすいのが薔薇なんですよ。
別に耽美な絵面を狙ってるわけじゃない。隣に素朴さと善良さを全面に出したような、オルランド君いるしね。
護符作りや、ちょっとしたことから高度なことまで、パウロルおじいちゃんやオルランド君が主に子供達に教える場所は、入りやすいように大分オープンな作り。雨が少ないこともあって、壁は半分以上ないのでよく見える。
日差しが強いんで、ナルアディードとかこの周辺は壁で囲んで昼間は鎧戸閉めて! なんだけど、『青の精霊島』は水路に流れる水が冷たいんで涼しい風がそよいでいる。
アリーナとミール、テスが並んで本を開きながら書取りしている。ミールの隣には精霊のルーン。
大人は仕事中かな? 子供の姿しかない。
「ミールも魔力を上手く扱えるようになれば、『精霊の蕾』候補になれると思うのですが、苦戦しているようです」
オルランド君が教えてくれる。
……『精霊の蕾』って、男はなれないのだろうか? テス、テスは? でもこれ、聞いたら一般常識知らない扱いになるんだよね?
困ります。
『それでね、この子の好きな子はナルアディードを追われちゃったんだ』
『でもね、必ず戻ってくるって』
『だからね、待っていたいんだよ』
『僕もね、その男の子のところにいる茶色い子が好きなの』
そう言ってぽわ〜んとした顔をする白イタチ。
なんで俺、副音声でイタチから恋バナ聴いてるんだろう。いいけど、なんか恋愛情緒面でイタチに負けてる感あるんだが。
幼い頃の恋心なんて、嘘告で近づいたらダメなモノになってた記憶しかないよ!
白イタチのおかげで、アリーナが婚約その他したくない理由はわかった。ベタだけど、初恋の君がいて、それは商いの競争に負けて没落した商家の子供。
ナルアディードに店を構え続けるのは、結構大変で、大きく儲かるけど失敗したら損害も大きい。
特に新しい商館は入れ替わりが激しいく、アリーナの初恋の君の家も一代でナルアディードに商館を構え、そして数年で出て行くことになったらしい。
で、その際に大きくなったら必ず成功して戻ってくるから、待っていてほしいという約束を残していったらしい。