第767話 優しい味
第767話 優しい味
無塩バターを柔らかく練ってクリーム状に、粉砂糖に塩少々、バニラオイルも少々。溶き卵、薄力粉、アーモンドの粉。
何度かに分けて、タルト生地をせっせと作る。バターをやわらかくするのは途中から精霊が手伝ってくれた。
次々作って、次々焼く。
焼き加減も精霊にお願いという精霊頼り。
いや、全部一回は自分でやってるんですよ? その後も精霊と一緒にいろいろしてるし。俺がやってるとやりたがって、二度目は途中で変わるんだけど。
カスタード、生クリーム、チョコ生クリーム、キャラメル。フルーツは、苺、メロン、マンゴー、オレンジ、皮ごと食べられる巨峰系の葡萄、シャインマスカット、ラズベリー、桃、バナナ。
丸のままだったりカットしたり。ナッツ類とキャラメルのタルトも色々。コーヒー生地と胡桃と糖蜜の組み合わせもいい。チョコレートと栗の組み合わせも作っておこう。
同じものでもアッシュ用に甘めと甘さ控えめの2種類。
精霊たちがせっせと焼いてくれるので、たくさん作る。パイも作ろうと思ってたんだけど、タルト生地作りにノリノリなんでこのまま。
――デザートのバリアーションが思い浮かばなくなってきたので、タルト生地を土台にしたキッシュ。
王道のほうれん草とベーコン、ひき肉とじゃがいも、じゃがいもとキャベツと明太子、きのこ、トマト、サーモン。
急にベーコン炒めたり、玉ねぎ炒めたり忙しいぞ。
キッシュも甘いタルトもサンドイッチやおにぎりと同じく、外ですぐ食べられる感じに半分は切り分けとく。
でっかいチョコレートタルトと、ナッツのタルトをディノッソ家用に箱詰め。タルトの中でも日持ちしそうな2つを選んだのは、子供たちがたべるタイミングをシヴァに選んでもらうため。
ディノッソに甘いもののお土産渡したばっかりだから、続いてもちょっと。生クリームとフルーツのものは、すぐ食べてもらうことになっちゃうからね。
子供って、甘いものが脳の栄養になるんでオヤツはあったほうがいいって聞くけど。
「リシュ、夕食にしようか」
リシュには焼いた肉と水。俺はさっき作ったキッシュからキノコのやつとひき肉とじゃがいも。
他はケンサキイカのマリネ、ベビーリーフのサラダ、マッシュルームのポタージュと、塩ロールパン。
我ながら美味しい。【食糧庫】と【全料理】、そしてこの設備の揃った【家】を願って本当に良かった。
食べても太らないしね、運動して筋肉もつかないけど!
翌朝、ディノッソ家。
「お邪魔します。パンのお届けです」
朝食前のパン配りは、アッシュの家にも、貸し屋にも回ってきた。アッシュの家は勝手口から執事に、貸し屋は一階のテーブルに置いてきた感じ。
貸し屋の3人はともかく、ディノッソ家と執事は朝日より先に起きて、調理用の暖炉に火を起こしている。
「おはよう、ジーン!」
「おはよう」
「おはようだ!」
子供たちが入り口に飛んでくる。
「はい、これ」
パンの配達は今回だけじゃないんで、慣れたもの。
「おかあさーん!」
エンとバクがパンの入った籠を受け取って、シヴァのもとに小走りにゆく。
「こっちもシヴァに渡してね」
タルトの入った箱をティナに渡す。
「ジーン、おはよう。今日は食べてゆく?」
俺が渡したパンの籠を持って、双子を従えシヴァ登場。
「いいの?」
「ベーコンと目玉焼きを焼くだけだもの。城塞都市で、いいベーコンといいバターが手に入ったのよ」
笑顔でシヴァ。
「じゃあ遠慮なく」
そういうわけでディノッソ家で朝ごはん!
実は朝ごはん本日二度目なんだけど、リシュと散歩した後なんで、パンとベーコンエッグくらいなら余裕!
「おう、ジーン。おはよう」
「おはようディノッソ」
ディノッソは以前俺の贈ったランプの手入れをしてた。
子供たちと話しながら待っていると、料理が食卓に並べられた。もちろん俺の分も。
俺の持ち込んだパンはバターで焼かれ――焼いてバターを塗ったんじゃないぞ、フライパンにバターを溶かして焼いてる――ベーコン、目玉焼きとともに出てきた。
それにスープがつく。スープは汁より具が目立つ感じ、えんどう豆が主張してるのがこの辺の特徴かな?
『青の精霊島』でスープや付け合わせなどに入ってくる豆は、ひよこ豆が多い。タリヤで野菜作ってる村で食べたスープもひよこ豆で、あの周辺はひよこ豆が幅を利かせている。
まあ、乾燥させた豆も出回っているんで、カヌムでもひよこ豆は手に入るというか、豆類はカヌムもナルアディードも豊富!
えんどう豆も色が白やら赤やら黒やらあるし、日本とは味が似ているだけで違うかもしれない。原種に近いのか、精霊の影響で色ごとの味や食感がちょっと違うのか、その辺は不明。
シヴァの具沢山スープには、サワークリームみたいな白いチーズが落とされており、腹持ちもいい。
「美味しい」
そして何より美味しい。
「ふふ、ありがとう」
微笑むシヴァ。
なんだろう、特別な材料使っているわけでもなさそうなのに、美味しいし、なにより優しい味。食べるとほっと落ち着いて、健康にもなる気がする。