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第771話 立会人

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第771話 立会人

シヴァが貴族の流行りに詳しい……って思ったけど、そういえば元貴族でした。

平民になって数年経つはずだけど、多分そういう方面を見ちゃうんだろうな。

ローズウォーターやらすみれの砂糖漬けの話は、きっと昨日のナルアディード観光で見つけた知識、引退した今もつい癖で情報収集しちゃうんじゃないかな?

ただの予想だけれど、人間色々あるよなって思いながらサンドイッチをつまむ。

これも今大々的に流行っているモノとこれからの『青の精霊島』発の流行りを取り入れた結果なんだろう。

味で選んでほしい俺がいるけど、ソレイユはそこに商売っ気やお付き合いからくる『意味』が乗ってくるので仕方がない。

無難だって思った葡萄、オレンジ、ザクロ、ドライマンゴーも、葡萄はずっと古くからある広く口にされる果物で人や文化の根幹、オレンジは『青の精霊島』の象徴で、ザクロはナルアディード含む内海沿岸の国でよく食べられてるのでその象徴、ドライマンゴーは名が広まりつつあるカーンの国――今回来てくれたハウロンが宰相をやっている――の象徴。

そんな感じ? あとでソレイユに聞いて答え合わせしてみよう。

しばらくするとテーブルが片付けられ、乱れた椅子が並べ直され、式典が始まる気配。

俺たちがいる場所には建物と日除けのタープで快適なんだけど、直射日光の下で待ってた人たちは色んな意味でジリジリしてたに違いない。

開会が告げられ、楽団の演奏付きで調停書というか本が運ばれてくる。精霊のイタズラ防止で、大事な契約や長期にわたる契約の場合、本という形が取られる。

台座の上、開かれたページ。

お約束の関係者の紹介。

今いる海運ギルド長が最初で、俺の知らない多分偉い人の紹介。

商業ギルド長が口上と、呪言を述べる。話は長くもなく短くもなく。

これから入ってくるマリナの王様とソレイユ、ハウロン、ディノッソの紹介があって、音楽が調子を変え、マリナの王様とソレイユたちが広場の階段の上に入ってくる。

大盛り上がりな群衆。

音楽がぴたりと止まり、群衆も警備に静かにするよう言われたのか、息を潜めて見守る。

静寂の中、ハウロンがマリナと『青の精霊島』との間に結ばれる契約、大賢者と『王狼』の立ち合いの意味を挨拶と共に短く述べる。ディノッソはハウロンからの紹介に頭を軽く下げたというか頷いただけ。

ここにいたのがディーンだったら、なんかこう気持ち悪くなってただろうなっていう格好良さ。炎のドラゴンいいなあ。

ソレイユが短めに『青の精霊島』の『代官』として挨拶と呪言を述べ、マリナの王様に会釈する。

『代官』何度言った? 強調しすぎじゃないでしょうか。

マリナの王様が『王の枝』に願われた願い、誓われた約束を改めて言葉にする。

この辺はハウロンの仕込みかな? ちゃんと麦の穂が言ってたことを正確に伝えようとしてる。この辺の口上って、時代が経つにつれ聞こえの良さが優先されて、変わってっちゃってることが多いんだそうだ。

韻を踏んだり、美しい言葉に置き換えられたり。似た2つの意味がある言葉を採用すると、いつしかニュアンスが違ってゆくから危ない。

音は聞こえないけどさらさらとお互いに署名をする。

そして現れる金貨の精霊ハシム、海神セイカイ――

しんとした広場が、精霊たちが姿を消した次の瞬間爆発的に湧き上がる。かろうじて聞き取れるのは現れた精霊の名前、ナルアディード、栄光、マリナ、国王、『青の精霊島』、繁栄、ソレイユ。

あとは叫びの中に飲み込まれて混ざり、意味がとれない。

ちょっと、セイカイはこっちに向かって親指立てるのやめろ。イルカのウィンクもいらないです!

ハシムも真似しない!

出るだろうなーって思ってたけど、出たね!

ソレイユが死んだ目をしてる気がするけど、気のせいです。

宿屋に戻ったら、ハウロンとディノッソに詰められたんですけど、俺じゃないですよ。俺がサインしたわけじゃないです。

俺がサインしたらカダルもついてきたかもだけど。