第772話 トマトソース作り
第772話 トマトソース作り
翌日はナルアディードの案内と、タリア半島にある村。
ハウロンは昨夜のうちに家に送った。ゆっくりしている暇はないらしい宰相業、油断すると自分で仕事増やしてるしね!
仕事を振る住民が足りてないんだから、あれもこれも手を出さなきゃいいのに、早く他に認められる国の形にしたいみたい。
俺も増やしてる自覚はあるけど、農作物の栽培と交易だけだからね? 農作物の栽培に灌漑事業が絡んできたりあれなんだけれども。
「これ全部トマト?」
港で馬を借りてパッカパッカやってきましたトマと栽培現場。
「うん。このリプアっていう地域全体で育ててる。黄金像のある村はその一部だね」
クリスの黄金像のシルエットマークの入った瓶詰めトマト、ドライトマトがブランド化している。
トマトの栽培を許可する代わりに、販売は『青の精霊島』の商会が独占。ちゃんと還元もしてるし、希望者には栽培の指導もしてる。
トマトは連作障害出やすいから、次は別な野菜植えなきゃなんだけど、旱魃をなしにしても、リプアは気温が高くて乾燥してるから何にしようか迷っている。トマトと同じナス科がだめだから、ジャガイモもダメだし。
鉄分を含んだ赤い土は栄養が豊富、乾燥のせいで栄養どころじゃなくなってたけど。たくさん植えてあるオリーブも息を吹き返したようで、土地が回復してきている。
元々栽培していたのはひよこ豆が多かったみたいなんで、ひよこ豆お願いしようか。あ、ニンニクもお願いしよう。小玉ねぎあたりもかな。
旱魃の影響が抜ければもっと色々作れるのかもしれないけど、元がどんな土地だったか知らないからとりあえずで。
俺が知らない地元の野菜も少しずつだけど色々あったんだよ。あく抜きしないと食べられない葉物野菜とか、スピノーというトゲトゲついてる野菜とか。スピノーはカボチャの一種らしく、揚げるとホクホクとして美味しかった。
気候が戻ればその辺りも増えるのかな? いや、元の野菜だけじゃなく、ニンニクもひよこ豆も、流行り出したトマトより単価が下がるので嫌がられるかもしれない。
その辺は説明して、どれを植えるかは自己判断で。
俺の領地になった村はともかく、周辺の土地は他に領主がいるし、強要はできない。周辺地域がトマトを選んだ場合、生産量が下がることになるのはソレイユに相談済み。
「あ、木!」
ティナが叫ぶ。
ここまでオリーブの木とトマト以外はちょっとだけ薪を取るための雑木林があるみたいな、地平線が見える風景だったので気持ちはわかる。
魔の森の風景に慣れた身からすると、ここに生えてる木は頼りない。魔の森は魔の森で、奥に入るとわけわからない木も生えてるけど。
「あの木があるところが村だよ」
雑木林もちゃんと葉っぱが増えたんですよ。頼りなかった枝がいい感じに広がってきてる、このまま太くすくすく育ってほしい。
「こんにちは」
「こんにちは!」
トマト畑で収穫作業中だった村人から、手を止めて次々にこんにちはが飛んでくる。
「お、住民から親しまれてるんだな」
ディノッソが言う。
「そうかな?」
豚の丸焼き効果か、俺の村人受けはいいのである。
「作業中のようね」
シヴァが広場の方を眺めて言う。
広場で村人総出でトマトソース作ってるとこで、たくさん人がいた。
男性は木箱に入れられたトマトをどんどん運んで、水を張った盥にあけ、水に浸かったトマトを他の村人がぐるぐる掻き回して洗っている。
洗われたトマトは今度は大鍋に突っ込まれて、火を入れられている。柔らかくなったトマトは潰され、再び鍋に戻されて塩と乾燥バジルが突っ込まれる。
――ああ、今ならバジルも育てられるのかな?
「大鍋をかき回してるの、魔女?」
「真っ赤!」
エンとバクの感想がちょっとあさっての方向。
「無茶苦茶美味しいトマトソースをつくる、魔法の作り手たちだ」
出来上がったソースは熱々のうちに瓶詰めにされる。
熱いままコルクで蓋がされ、瓶が拭かれ、上の隙間を熱で殺菌するために一回ひっくり返され、蝋で封がされる。
蝋で封がされる時、クリスのシルエットが押されたタグの紐を一緒に封印。種類によって、タグではなくコルク栓の上から包装紙をかけるものもある。これもクリスのシルエット。
なお、ガラス瓶は高い。ナルアディードではよく見るんだけど。
トマトソースのほか、セミドライトマトのオリーブオイル漬けとかもあるんだけど、ドライトマトの袋入りが一番手軽かな。瓶の分安いし。
瓶の返却買取もしてるんだけど、シュルムとか遠くに運ばれてしまうことも多くて、戻ってくる率低いんだよね。
輸送の関係でここでは瓶を使ってるけど、一般的な村の保存食は、樽に塩と肉とか、ポットとか壺に野菜と塩を交互に重ね、綺麗な布かけて板と石で圧をかける感じ。
前者は冬に飼料が足りなくなる分の家畜を潰して作ることが多く、ダメになる前に残った塩漬け肉を一斉に食べる日が決まっている。
後者は2週間ごとくらいにチェックして上がってきた水を捨てたり、世話をする。野菜だけじゃなくゆで卵をポットに入れて酢につけとくとかもしてるみたい。
品種改良してないせいか、鶏が冬に卵をほとんど産まないらしい。