第774話 町の噂
第774話 町の噂
ディノッソ一家をカヌムに送り届け、ナルアディードに戻る。
まだちょっとソレイユと王様のやりとりは残ってるみたいなんだけど、一応顔だし。そは言ってもソレイユたちは忙しそうなので、一声かけて早々に退散。
すみませんね、丸投げで。でもたぶん、俺が交渉するとひどいことになる気がするんで諦めてほしい。対人スキル高かったら、姉に何度もはめられてたりしないんです。
ナルアディードで買い物してこうかな? 今回の国王訪問について何か噂してるかもだし。
そういうわけでナルアディードをそぞろ歩く。
被害のあった運河沿い以外はすでに通常営業。周辺の島々に物資を運ぶ小舟で、港の一部は忙しそうだけど、観光客相手に単品で売る小さなお店は普通。
そして俺のお気に入りは以前、ブドウの房を切るためだけのハサミを買った店。台所用品が色々あって面白い。
生地の端をギザギザにするホイールカッター。糸が何本も張ってあって薄く伸ばした生地を乗せて麺棒を転がして押し出すと同じ太さのパスタが作れるやつ。塩胡椒用の銀器、卵たて、ゆで卵用のハサミ、焼き菓子用のケースも全部銀器。
なんかみんな芸術品。
冷静に考えたら、『入れるもの』もバカ高いんだよね。胡椒やら砂糖やら。塩胡椒に限らず、食品を手にいれるハードルが高いので、値段も高い。高いものを盛り付けるのだから、食卓の道具も豪華。
ついでに晩餐やお茶会で財力自慢。銀器を買うような家は、召使がいるんで手入れは丸投げだろうし。
家の中を仕切る執事の部屋の奥に、銀器用の部屋があるみたいな間取りも多いみたい。パスツールの磁器が流行り始めているけど、銀器も人気が続く。戦争とかで持ち出しやすいからという身も蓋も無い理由を言われて困惑したけど。
色々眺めて楽しみつつ、耳を澄ます。店内にいる客は少なめだけど、その少ない客同士、店主と客が調印式で現れた2柱の神の話、『青の精霊島』の話、王の話をしている。
この店に歩いてくる間も、噂話はこれ一色みたいな感じ。王の来島も珍しいことだけど、それ以上に2柱の神々の出現に興奮してる。
「『青の精霊島』の領主、精霊に愛されてるのか?」
「あの2柱に愛されてるなんて……!」
「俺、精霊見たの初めて!」
「神殿いくより『青の精霊島』で領主様の方を向いて祈りを捧げた方が、神々に願いが届きやすいんじゃねぇかな?」
「美人だしな」
なんかソレイユが神格化されそうだけども。
マリナの王様が、枝を受け取った最初に近い感じの――王族の血統とかそのへんはなかったけど――宣誓をしたし、契約の方は、ナルアディードに祀られる2柱が出てきてこんにちはしたから安泰。
今こうしてあちこちで話されている通り、多くの人が見ていたし、その中には商業ギルドと海運ギルドの両ギルド長がいる。交易の方はばっちり。あとは実際に小麦を作るの人たちだけ。
――マリナの本国でやって、農民にあの光景を見せたら一発だったろ、という意見は聞かなかったことにします。
ソレイユとマリナの王様と王子に頑張ってもらおう、プロにお任せで。でも店を出したいというか、もうちょっと食文化を向上させて、俺も外で美味しい飯を食えるようになりたい。
王侯貴族の料理には、俺の知らない美味しいものもあるっぽい。ただ専属料理人なわけですよ、俺が食べられないし、一般に広まったりしない。
ナルアディードは交易の島で、商人か船乗りか? みたいな感じなので、その2つ以外のギルドの影響がほぼないんで、結構料理は自由。
小麦も本国から手に入りやすいんで、粉挽が制限されることもない。パンにソーセージ挟んで、 パン焼き職人 ( ベーカー ) ギルドやソーセージ職人ギルドから文句が出ることもない。
でも狭い島の中でのことで、トマトが流行ればすぐどの店もトマト一色になるし、バリエーション豊かとは言えない。
交易の島だからね、流行りのもの、流行らせたいもの、ようするに売りたいもの中心のメニューになるわけですよ。
実際ナルアディードから各国の貴族の間で流行りになるパターン多いし。俺は料理ばっかり追ってるけど、服のデザインだったり、宝飾品だったり、家具だったりね。
『青の精霊島』の布も無事ブランド化して流行ってます、はい。
マリナ本国も小麦のおかげか、ナルアディードのおかげか、他よりギルドの発言権が小さいというか、おおらかなんで、ぜひ飲食店を展開してほしい俺です。その辺の交渉もソレイユにお任せなんで、頑張ってほしい。
よし、買い物、買い物。