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第二百六十九話 光の雨

最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い~帝位に興味ないですが、死ぬのは嫌なので弟を皇帝にしようと思います~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第二百六十九話 光の雨

24時更新分。

肩が凝って仕方ない今日この頃。

出涸らし皇子二巻の早売りが始まったようです(/・ω・)/

お店によって早売りしたりしなかったりするので、確実ではありませんが本屋に行けば置いているかもしれません('ω')

早く欲しいという方は探してみてくださいm(__)m

「陛下、敵軍が迫っています。およそ八千。北部駐屯軍の一部かと」

「ヴィンフリートか。少しは慌てたらどうだ? 奴らはこちらを狙ってくるやもしれんぞ」

皇帝ヨハネスは帝都東門から少し離れたところにいた。

傍にいるのは元々皇帝の護衛についていた近衛騎士隊が五部隊。上位の隊長こそいないものの、それだけでも十分な戦力だった。

さらにヴィンはネルベ・リッターの一部とエルナの指示によって、皇帝の方に向かった二つの近衛騎士隊を引き連れていた。

双方を合わせた全体の数は千を少し超える程度だが、質という点では申し分なかった。

しかし、相手は八倍の敵。明らかに不利な状況といえた。

だが。

「こちらを狙ってくるならありがたいですね。帝都に向かわれるほうが厄介です」

「相変わらずだな。しかし、その通りではある。すまんが少々、無茶をするぞ」

「はい。申し訳ありませんが、敵を釣るには皇帝陛下が必要です」

ヴィンの言葉にヨハネスはうなずくと、自ら剣を抜いて馬を走らせる。

そして近衛騎士の魔法によって声を拡散させる。

「敵を帝都に近づけるな! 騎士たちよ! 皇帝ヨハネスに続けぇぇぇ!!!!」

そう言ってヨハネスは先陣を切って敵にめがけて走り始めた。

近衛騎士やネルベ・リッターもそれに続く。

逃げると思われた皇帝一行が突撃してきた。しかも少数で。

その事実に増援として現れた軍は色めき立つ。

皇帝を討てば最大級の武功であるからだ。

帝都に向かっていた増援部隊は向きを変えて、皇帝たちを迎え撃ちにかかったのだった。

しかし、そのことに苛立ちを覚える者がいた。

「目先の戦果に囚われたか!」

空でレオと戦っていたウィリアムは、増援の足が止まったのを見て舌打ちをする。

そして、レオの相手を部下に任せると、数騎の竜騎士と共に帝都中層のゴードンの下へ向かった。

「はっはっはっ!! こちらの援軍のほうが先に来たようだな!」

「そのようだな。なおさらお前と遊んでいる暇はなくなったぞ。ゴードン」

「ぬかせ!」

戦場の真ん中。そこでゴードンとリーゼが激しい戦いを繰り広げていた。

それを見て、ウィリアムは苦渋の決断を下した。

「すまん! お前たち! 死んでくれ!」

「はっ! ウィリアム様のためならば喜んで!」

「どうか祖国をお願いします!」

そう言って竜騎士たちは、リーゼに向かって突撃していく。

いくら竜騎士とはいえ、相手がリーゼでは勝ち目はない。

それでも彼らは突撃した。

ウィリアムがそう命じたからだ。

その理由は時間稼ぎだった。

「ゴードン! 乗れ!」

「邪魔をするな! 俺が負けるというのか!?」

「いいから乗れ! 乗らないならば連合王国は離反するぞ!」

「なんだと!?」

「早くしろ!!」

ウィリアムはゴードンの腕を掴み、自らのほうに引っ張った。

その強引さにゴードンは舌打ちをしながら従う。

その間に、リーゼに突撃した竜騎士たちはすべて斬り伏せられていた。

地面に転がる部下の死体を見つめ、ウィリアムは顔を歪めながら空へと飛び立つ。

「一体どういうことだ!? 事と次第によってはお前とて許さんぞ!」

「それはこっちのセリフだ!! あの増援の指揮官は一体、何を考えている!? この期に及んで皇帝を狙っているぞ!」

「それの何が悪い!?」

「お前もか! 馬鹿め! 帝都の外に出た時点で皇帝の首は取れん! 周りにいる近衛騎士があの手この手で逃がすに決まっている! 皇帝の首はもう諦めろ! 我々が優先するべきなのは帝都だ! そのための増援だろう!」

「皇帝を討てばすべて終わる!」

「そんな簡単に討てるならば天球など使わん! わざわざ突撃してきたのは自分に注意を向けるためだ! 危なくなれば離脱するに決まっている! その間に帝都での戦いが終わってしまう! リーゼロッテ元帥が帝都に籠ったら、今の戦力では落とせん!! だからお前があの軍を帝都に向かわせろ! 私の言葉では聞くまい!」

そう言ってウィリアムはゴードンを帝都の外へ連れていこうとするが、その前にレオが立ちはだかった。

「あなたの相手は僕だ」

「くっ……もう私の部下を倒したか……!」

ウィリアムは歯ぎしりしながら、状況の悪さを呪った。

帝都さえ確保できれば、皇帝が生きていたとしても互角以上に戦える。

帝都を守り抜けなかったならば皇帝の名誉は失墜する。弱い皇帝にどれほどの貴族がつくか。

そして帝都という戦略的要衝も確保できる。玉座に座った者こそ皇帝と喧伝することもできる。

帝都を確保できればやれることはいくらでもあるのだ。

それなのに増援部隊は皇帝という目の前の武功に気を取られた。その判断ミスを正すために、ウィリアムは大切な部下を大勢失う羽目になった。

それでもウィリアムは諦めなかった。

諦めることが許される立場ではなかったからだ。

「誰でもいい! レオナルト皇子を足止めしろ!」

「戦わずに逃げるのか!? ウィリアム!!」

「個人の戦いなどどうでもいい! 大事なのは戦として勝つことだ!」

そう言ってウィリアムはレオに背を向けて飛んだ。

当然、レオはそれを追うが、ウィリアムの声を聞いた竜騎士がレオの足止めに入る。

その隙にウィリアムはゴードンと共にその場を離脱し、再度、増援のほうを目指す。

だが、そんなウィリアムの耳に絶望的な音が響いた。

「この音は……!」

それは角笛の音だった。

ゴードンの援軍ならば角笛を鳴らす必要はない。

事前に各地の部隊には動きを指示しているからだ。

知らせが必要なのは不測の援軍。

「早すぎる!? もう貴族が動いたのか!?」

そんなウィリアムの眼下。

西側にある森から続々と騎士たちが現れ始めていた。

■■■

「どこの軍だ!?」

ヨハネスは角笛の音を聞いて、そう叫ぶ。

それに対して近衛騎士が目を細めて掲げる旗を確認した。

「蒼と白の旗……翼を閉じた鳥……クライネルト公爵家の軍旗です!!」

「来てくれたか……! 状況が変わったぞ!」

「全員、弓矢と魔法を放て。とにかく相手に陣形を変える隙を与えるな!」

ヴィンは素早く指示を飛ばす。

騎馬隊の突撃は強力だが、弓矢での迎撃を受ければ相当な被害を受ける。

せっかく来た援軍が削られてはかなわない。

そういう判断での指示だったが、元々数が少ないうえに前線で敵とぶつかり合っている者は遠距離攻撃ができない。

そのため、ヨハネスたちのところから放たれた攻撃は敵の動きを一部しか阻害できなかった。

それ以外の敵は陣形を組み替え、弓矢を構える。

迎撃体勢が整えば、騎士の突撃の威力は半減する。

ヴィンは敵の指揮官と思わしき位置に攻撃を集中させるが、それでも敵の動きは止まらない。

「くっ……! 火力が足りないか!」

そう吐き捨てるように叫んだとき、無数の矢が空から降り注いだ。

■■■

「お父様!」

帝都北の城壁。

そこにフィーネとミアはいた。

中層での戦いはリーゼたちに任せて、北部への逃走ルートを塞ごうという考えだったが、そんなフィーネの予想を上回り、敵の増援が現れ、皇帝が突撃し、自らの父が騎士を率いて現れた。

状況の理解に時間が欲しかった。

しかし、目の前では着々と敵の陣形が整っていく。

このままでは大量の矢がクライネルト公爵軍を襲う。全員が死ぬわけではない。騎士の突撃には犠牲が付き物だ。

防ぐために盾も持っている。だが、確実に死者が出る。

そのことにフィーネは体を震わせる。

クライネルト公爵家の騎士たちのことをフィーネはよく知っていた。

知っているから悲しいというわけではない。知らない誰かでも死は悲しい。

だが、知っている人が目の前で危険に晒されるのは言葉にできないほどの恐怖だった。

覚悟はしているつもりだった。

もう何人も命を落としている。自分の領地の騎士だけが死ぬのは嫌だなど我儘にもほどがある。

だからフィーネは何も言わなかった。

しかし。

「お任せですわ!」

「ミアさん……!?」

「奥の手は最後まで取っておくものですが、フィーネ様のお父様たちのためなら惜しくはありませんですわ!!」

そう言ってミアは小さな矢を取り出した。

おもちゃのようなその矢に魔力を流すと、それは細長い矢へと変わった。

それを弓に番えると、ミアは天高くに構えた。

「乾坤一擲! 天を駆け、雨となり大地に還れ! 魔弓奥義! 集束拡散光天雨ですわ!!」

魔弓は本来、詠唱を使用しない。

それに関わらず、ミアは短いながらも詠唱をしたあとに矢を放った。

光を纏った矢は空高くあがると、敵軍に向かって降下を始める。

それと同時に光の矢は拡散を始めた。

まるで光る雨のように拡散した矢は敵軍に降り注ぐ。

一発一発の威力は大したことはない。

しかし、食らえば矢を放つどころではない。

陣形は崩れた。

混乱する敵軍。そこにクライネルト公爵家の騎士たちが勢いよく突撃していき、敵を蹴散らしていく。

「ミアさん!」

「やりましたが……すっからかんですわ……」

「ありがとうございます!」

「フィーネ様は頑張って色んな人を救ってきましたですわ。だからフィーネ様も誰かに助けてと言っていいんですの」

「ミアさん……」

フィーネは感極まってミアの手を両手で握ると何度もブンブンと揺らす。

しかし、そんな二人の耳にありえない音が届いた。

それは低く大きな鳴き声だった。