第二百九十八話 非常識だった
第二百九十八話 非常識だった
祝・三百部(登場部人物紹介で水増し)!!( *´艸`)
「……いいだろう。だが、評議会の解散だけだ。私は辞任しない」
「ちゃんと言わなければわからないか? あなたが選んだ評議会に落ち度があり、信頼もなくなった。あなたが残っていることを俺たちは容認しない。直接辞任しろと言わないのは最後の優しさと思ってほしいんだが?」
「ふざけるな……! SS級冒険者が一々、評議会に文句をつけ、そのたびに解散していたらSS級冒険者の顔色を窺うことになる! そんな前例は作るわけにはいかない!」
「前例という話なら、他国に舐められた評議会をそのままにしているほうが悪い前例になるだろう。国だろうが、組織だろうが、中立を守れるのは強い力を持つからだ。周りから一目置かれるから誰も、何も、干渉しない。今、それが崩れている。だからこその解散だ。嫌というなら実力行使に出る」
「そうやって手段を選ばないところは冒険者だな! シルバー! 武力に打って出るなら考えがあるぞ!」
「武力など使わん。ただ大陸中の冒険者たちに、SS級冒険者は現ギルド長を支持しないと伝えるだけだ。それだけでギルド長の立場は崩れるぞ? いいのか?」
冒険者のトップであるSS級冒険者が全員、ギルド長を支持しないと伝えたら、いくら任期が残っていようと必ず引きずりおろされる。
俺の言い方にトロシンは眉を顰めた。
「つまり……今回はそれを冒険者に伝える気はないと?」
「俺たちから伝える気はないな。表向きはピットマン監査長が他国から圧力を受けたとでもいえばいい。その責任を取って評議会解散とギルド長辞任。再選したいならすればいい」
「……どういう風の吹き回しだ?」
「SS級冒険者は自由に動く。そんな奴らがギルドのトップまで決めるわけにはいかない。決めるのはすべての冒険者と職員だ。といっても、急な話だ。支部を巻き込むわけにはいかんだろう。本部の冒険者たちだけの簡易選挙だろうな」
今ここでトロシンを完全に脱落させることは容易だ。
しかし、それをすればSS級冒険者が完全に評議会の上に来てしまう。
自由人の集まりがトップに立てば必ず乱れる。
今は俺がいるからいいが、俺がいなくなったときに問題になりかねん。
評議会がSS級冒険者を尊重し、その決定にSS級冒険者も従うという今までの在り方であるべきだ。
だから、トロシンの処遇は冒険者と職員たちにゆだねる。
ピットマンはトロシンの腰巾着。そのピットマンの失態がある以上、トロシンは不利だ。そのうえでトロシンが再度、ギルド長になるなら仕方ない。
「SS級冒険者の総意ということでいいのかな……?」
「問題ないわよ。ふざけた査問を仕掛けられたのはシルバーだもの。その決定には従うわ。生温いとは思うけれど」
「同じくじゃ」
「こいつを追放しないってのが俺には理解できないんだが、まぁいいぜ」
「構いません」
全員の同意を受け、トロシンは顔をしかめながら告げた。
「いいだろう……。ならば評議会は解散し、私はギルド長を辞任する。そして再度、ギルド長選挙を行う。それでいいかね?」
「問題ない。細かいことは新しいギルド長が決めればいい」
そういうと俺は椅子の背もたれに体重を預ける。
そして円卓を指で叩きながらトロシンに訊ねた。
「しかし、ギルド長。今、どんな気持ちだ? まさか自分が辞任することになるとは思わなかっただろ?」
ことさら煽るような言葉を選ぶ。
それに対して、トロシンは鼻で笑った。
「ずいぶんとクライド君を買っているらしいな。次期ギルド長はクライド君だと疑っていない言い方だ」
「もちろんだ」
「甘いな……私がどうやってギルド長になったと思う? 選挙で選ばれたのさ。多くの冒険者と職員の支持によってな。今回も選挙というなら私が勝つ」
「そう上手くいくかな?」
「上手くいくさ。投票権を持つ冒険者や職員。彼らが君のように多くのことを考えていると思っているのか?」
「どういう意味だ?」
聞き返すとトロシンは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
その笑みを見て、横でフィーネが顔をしかめた。
「冒険者など馬鹿ばかりだ。それを支援する多くの職員もな。理想に燃えて、民のためなどという曖昧な大義のために命を懸け、日々の激務に耐える。私から見れば馬鹿としかいいようがない」
「これは驚いた。ギルド長の口からそんな言葉が出るとは、な」
「私は民のために働いたことなどない。しかし、私はギルド長になっている。なぜだと思う? 投票する者に人を見る目がないからだ。耳あたりのいい言葉を並べ、それなりの利益を目の前に垂らしてやれば、彼らは私を支持する。前もそうだった」
「……たしかに冒険者は馬鹿だろうな。日銭を稼ぎ、それを酒や女に溶かして泣きを見る。いつも感情で動き、考えて生きているのか疑問だ。しかし……俺はそんな冒険者が好きだ」
冒険者の多くは冒険者以外にはなれなかった奴らだ。
実力はあっても、騎士にはなれない。規律を守るというのが苦手だからだ。
一歩間違えば彼らは犯罪者だった。それでもその力を民のために使うことを選んだ。
選択肢がなかった奴も多いだろう。心に民のためという大義がある奴がどれほどいるだろう?
生きるために仕方なく冒険者をやっている者もいる。
それでも多くの冒険者は、そんな生き方を楽しんでいる。
自分の好きなように生きて、自分の腕で稼ぐ。
そんな風に生きられたらどんなに幸せか。
「公国で海竜が出現した時……公女の声がすべての支部に届いた。帝都支部の冒険者たちは助けにいけない自分に苛立ちを覚えていた。それがきっと冒険者の在るべき姿だ。助けを求める声に応えようとする。馬鹿でも、考えなしでも、俺は彼らのそんな姿を支持する。あの日、公女の声を聞いて、ヤケ酒に走った大陸中に散る冒険者たちが俺の理想だ。たとえギルド長だろうと、帝国皇帝だろうと――侮辱は許さん」
「立派なことだ! 素晴らしいと誰もが称えるだろう! しかし、人間は理想だけでは生きられないし、素晴らしい人間ばかりではない! 金をちらつかせれば私に投票するし、現実的な成果を望む! 私はギルドを拡大させた! それによって利益を得た冒険者は多い! 私がどれだけ馬鹿にしようと、利益を出している以上は私を支持する! それが冒険者だ! 侮辱して何が悪い!」
「ふむ、悪い奴じゃのぉ」
「まったくね」
呆れたようにエゴールとリナレスが呟く。
ジャックは面倒そうに顔をしかめており、ノーネームは静かに座っている。
自分に言われたと思ったトロシンは高笑いをした。
「好きなように言えばいい! 私はまた再選する! そしたらSS級冒険者は必ず評議会の下に組み込む! 今までのように自由に振る舞えると思うな!? 私は私に逆らう者を許さない!」
「ギルド長……あなたは商会のトップならば素晴らしい人物だったのでしょうな」
クライドがトロシンに向かってそう言った。
その言葉には同意だ。
トロシンは商人気質なのだ。しかし、その気質は冒険者たちとは相性が悪い。
「しかし、冒険者ギルドのギルド長は商人では務まらない。自分の利益を大事にしていては、大陸中に散らばる冒険者たちを導くことはできない。魔王が現れて以来、冒険者の役割は重要になった。どの国にも属さず、モンスターを討伐する。我々は大陸のバランサーなのだ。それを続けるためには大義が必要になる。ギルドのトップこそ、その大義を忘れてはならない」
「偉そうに説教をするな! 君を傍に残していたのは、冒険者たちの信望が厚かったからだ! だが、私に逆らった以上は不要だ! 大義を掲げて選挙に出ればいい! それで勝てると思うな! 所詮は票集め! 金と人脈さえあれば勝てるのだよ!」
トロシンはそう言い切った。
それに対して、フィーネが我慢の限界といった様子で口を開こうとする。
だが、俺はそれを手で制した。
余計なことを言う必要はない。
トロシンに言うべきは一つ。
それをSS級冒険者たちが口をそろえて告げた。
「「「「「冒険者を舐めるな」」」」」
そう言った瞬間、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。
そして勢いよく扉が開かれる。
「ギルド長! 大変です!」
「なんだ!? モンスターでも出たのか!?」
「違います! 本部の冒険者たちがギルド長に会わせろと騒いでおりまして! というか、職員もそれに混ざっていまして……」
「なにぃ? どういうことだ!?」
「それが……先ほどからギルド長の言葉が本部中に響いておりまして……」
きっとトロシンの子飼いの部下なんだろう。
その顔には絶望が浮かんでいた。
そりゃあそうだ。トロシンは自分で自分の未来を断ったのだから。
ゆっくりとトロシンが俺を見つめた。
そんなトロシンを見て、仮面の中でニヤリと笑う。
「……お前の仕業か……?」
「失礼。ワンアクションあれば、声を風で運ぶ魔法くらい発動できるのでな」
そう言って俺は円卓を指で叩く。
わざわざ挑発的なことを言ったのは、トロシン自身で自分の首を絞めてもらうためだ。
面白いほど自爆してくれた。
それにSS級冒険者たちは気づいていた。だからエゴールとリナレスは悪い奴だと呆れたし、ジャックは回りくどい手に面倒さを示した。
「や、約束が違う! これではシルバーが私を支持していないことが本部中に知れ渡った!」
「約束したのは俺たちから伝えないということだ。俺は冒険者愛を語っただけだ。それ以外はギルド長自身の言葉だと思うが?」
「そんな屁理屈が通ると思うのか!?」
「通るさ。自分で言ったはずだが? 素晴らしい人間ばかりではない、と。そのとおりだ。周りの意見を総括すると、俺は常識がないらしいのでな。他人の言葉を拡散するくらいはやってしまう。許せ、ギルド長。非常識だった」
俺がそう言うとトロシンは悔しそうに顔を歪め、SS級冒険者とクライド、そしてフィーネは同時に呆れたため息を吐いたのだった。