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第三百五十二話 畏怖した兄

最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い~帝位に興味ないですが、死ぬのは嫌なので弟を皇帝にしようと思います~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第三百五十二話 畏怖した兄

今日は新章!(・ω・)ノ

「さすがにそう簡単にはいかないわね」

オスター平原の空。

カトリナ率いるグライスナー侯爵家の竜騎士たちは滞空していた。

本隊に先行し、戦場の重要拠点、ハイナ山の確保を命じられたのだが、そこは既に敵軍によって拠点化されていた。

無理なら退けとレオに言い含められていたカトリナは、撤退を命じた。この戦力で拠点化された山を落とすのはほぼ不可能だからだ。

しかし、好き勝手に偵察させるほど連合王国の竜騎士は甘くない。

山から黒い飛竜が続々と上がってきた。

「黒竜騎士隊……」

カトリナは呟きながら彼らに背を向けた。

今は戦う時ではないと分かっていたからだ。

それは向こうも同様。

本気で追撃を仕掛けている様子はなかった。

目障りだから去れ。その程度の出撃だ。

できるなら詳細な偵察をしたいが、諦めざるをえない。

そんなカトリナの目に、猛然と突っ込んでくる黒い竜騎士が映った。

黒い髭が特徴的な中年の男。

竜に乗っていなければ海賊や山賊と言われても信じてしまう容姿だ。

「ここで竜騎士を叩いておくのも悪くない!」

そう言って一騎だけ突っ込んでくる。

周りに合わせる気など皆無なその行動に、カトリナは思わず苦笑した。

特徴的な容姿な黒竜騎士の情報を聞いていたからだ。

「さすがは黒竜騎士隊の隊長のロジャー殿。剛毅ですね」

「その首貰ったぞ! 女竜騎士!」

「ですが、こっちの竜騎士も負けてませんよ?」

カトリナの余裕は自分たち側にも強者がいるからだった。

空から一条の雷が降ってきた。

それは的確にロジャーを狙っていた。

だが、ロジャーは持っていた大剣で弾く。

「やはり来ていたか! フィン・ブロスト!!」

嬉しそうな笑みを浮かべ、ロジャーは降下してくる白い竜騎士、フィンに向かって上昇していく。

「ここであなたを落とすのも悪くない!」

「やれるものならやってみろ!」

フィンの雷撃をことごとく弾き、ロジャーは笑みを浮かべた。

全てが急所に向かって来ている。精度で言えば前よりも上。

強敵がさらに強くなっていた。

普通なら辟易しそうなものだが、ロジャーからすれば喜ばしいことだった。

ロジャーと空で渡り合える者は連合王国でもそうはいなかった。ウィリアムは王族であり、気軽に戦える相手ではない。

王国で戦った鷲獅子騎士たちですら、ロジャーにとっては強敵とは言えなかった。

そんなロジャーにとって、フィンはようやく見つけた好敵手。強くなるならそれに越したことはなかった。

それに強くなっているのはフィンだけではなかった。

「前のように距離を取っていれば安全というわけではないぞ!!」

ロジャーはそう言って背中に背負っていた杖を取り出した。

それは奪った魔導杖だった。

一度、解体されて内部の解析が済んだため、ロジャーに預けられたのだ。

複製を造るには時間が足りなかった。そのため、それは連合王国が抱える唯一の魔導杖。

最強の武具は最強の戦士に。

ロジャーもまた距離を取っての戦いができるようになったのだ。

しかし。

「その程度で!!」

フィンはロジャーが放った火球を避けながらいくつもの雷撃を浴びせていく。

同じ魔導杖を使う隼騎士ならいざ知らず、フィンの魔導杖は六二式。本来、皇族のために作られた特注品だ。

加えてそれを使いこなすだけの魔力を持つ特異性も持ち合わせている。

空での魔導杖戦において、フィンと並ぶ者などいないのだ。

高速で動き回りながらフィンはロジャーの狙いを外していく。そして一撃のお返しを何倍にもして返す。

だが、ロジャーは左手で持った大剣でそれを弾く。

互いに決め手にかける空戦はしばらく続く。

カトリナたちは撤退し続け、他の黒竜騎士たちでもレベルが違いすぎて参戦できなかった。

空を自由に飛び回るのは二騎だけ。

その攻防はいつまでも続く。

だが、唐突に二人は距離を取った。

「ふん! 決着は本戦か」

「そのようですね」

そう言って二人は地上に目を向ける。

そこには二つの騎馬隊がやってきていた。

東からやってきたのはゴードンが率いる騎馬隊。

西からやってきたのはレオが率いる騎馬隊。

互いに歩兵を残し、騎馬隊だけ先行してきたのだ。

その到着を受けて、ロジャーとフィンは互いに視線を交わし、自分たちの陣営に退いた。

どちらも心得ているからだ。

この戦の主役は自分たちではないと。

■■■

「お久しぶりですね。ゴードン兄上」

「久しぶりだな。レオナルト」

両軍より護衛もつけずにゴードンとレオが前に出て、言葉を交わす。

互いに剣を抜けば、相手を斬れる距離だ。

しかし、どちらもその素振りはない。

「北部の命運を決める決戦となります。きっと多くの血が流れるでしょう」

「だろうな」

「まだ皇族としての責任をお持ちなら降伏を」

「今更降伏などするわけないだろ? ましてや優勢なのはこの俺だ」

「戦って……戦い続けて……どこに行くつもりです?」

「帝国に君臨し、大陸に覇を唱える。お前はそのための踏み台だ。俺の戦歴の一つに組み込んでやろう」

「……」

ゴードンの言葉にレオは何も言わなかった。

昔から武力に頼るところはあった。

しかし、ここまで周りを顧みない人物ではなかった。

歳月か、環境か。

変わった兄を見て、レオはゆっくりと剣を抜いた。

「覚えていますか? 昔、剣の稽古をつけてくれました」

「お前がしつこかったからな。幾度負けても向かってくる」

「あなたはそんな僕を褒めてくれた。諦めるなと叱咤し、倒れても立ちあがるのを待っていてくれた」

ゴードンも剣を抜く。

両軍に緊張が走った。

しかし、誰も動かない。

否、動けなかった。

下手に動けば開戦しかねない。

そしてそれを両軍の長が望まないこともわかっていた。

これは最後の話し合い。

もはや後には引けないという確認だった。

「ゴードン兄上……戦場で先陣を切るあなたを尊敬していました。あなたが強かったからじゃない。体を張ってでも味方を守るという信念を持っていたからだ」

「あの頃は将軍だった。しかし、今は違う! 俺は皇帝となる!」

「かつては兄として尊敬し、畏怖もした。けれど……もうあなたは昔のあなたではない」

ゆっくりとレオは剣を構えた。

ゴードンも同じく剣を構える。

大人しく降伏するなど思っていなかった。

そんな時期はとうに過ぎている。

それでも降伏してほしいと思っていた。これから流れる多くの血を思えば、それが一番の手だった。

かつて、城から見つめた兄はもういない。

多くの兵を引き連れて、凱旋する兄。

誰もが勇猛さを称えた。

誰もがその武勲を称えた。

戦で部下を庇った傷を誇らしいと告げた兄はもういない。

「ゴードン……お前は僕が討つ!!」

「やれるものならやってみろ!!」

互いの剣が衝突し、甲高い音が戦場に響き渡る。

強烈な一撃により、剣は弾き合い、レオとゴードンとの間に距離ができた。

それは決して埋まらぬ溝。

もはや道は分かたれた。

最後の良心すら見せず、皇族の責務を果たさぬと告げるなら。

討つしかない。

どれだけの血を流しても。

互いに互いを睨み合い、どちらともなく自分の陣地に引き上げていく。

交渉は決裂。

これから先はいつ戦が始まってもおかしくない。

しかし、戦はそれから二日間。起こらなかった。

両者とも歩兵の到着を待ったからだ。

ゴードン軍総勢六万。

内訳は平原に布陣する帝国軍、貴族軍合同の三万五千。

ハイナ山に布陣する連合王国軍、藩国軍合同の二万五千。

レオナルト軍四万。

すべて平原に布陣した。

数の利、地の利。どちらも敵にある。

だから動かないのだと誰もが思っていた。

しかし、レオは地図を見ながら指でとあるルートをなぞる。

ハイナ山よりさらに北。そこにも大きな山がある。

そこが戦場に選ばれなかったのは近くに流れる川が激流であり、それが東と西を分断しているからだ。

そこにゴードンたちが布陣した場合、レオは激流を越えなければいけない。さすがにそんな不利な状況でレオは出てこない。

だからゴードンたちは布陣しなかった。

そしてよく調べたからこそ、激流を大軍が越えるのは無理だと判断していた。

しかし、レオはシャルから聞いていた。

川の流れは不規則で、数日に一度。激流の流れが弱まることがあると。

小さく笑みを浮かべながらレオは全軍に通達した。

「戦闘準備。始めよう」

その川を越えて、ゴードン軍の背後に出るに必要な時間は二日。

レオはニヤリと笑いながらゴードン軍の奥を見つめるのだった。