外伝・一話 帝国魔導学院
外伝・一話 帝国魔導学院
出涸らし皇子の第六巻が3月1日に発売されます!(・ω・)ノ
早い所では、今日から発売されているところもあるそうです!
その記念と宣伝もかねて少しの間、外伝を連載します!
よろしくお願いしますm(__)m
およそ二年前。
帝国南西部にとある学院があった。
帝国魔導学院。
隣国の皇国に倣い、優秀な魔導師の卵を育成するために帝国が作った学院だ。
歴史はまだ浅いものの、卒業したものがちらほらと活躍し始めていた。
そんな学院からシルバーに対して個人依頼が入った。
学院に来てほしいという依頼だ。
SS級冒険者に個人依頼をするには、虹貨が三枚もいる。
招待料にしては高すぎる。
「何か裏があるな?」
「しかし個人依頼を断るわけにもいきません」
「厄介な制度だ」
城の中で俺はため息を吐く。
SS級冒険者シルバーとして、俺は帝都をほとんど動かずにいた。
帝都にシルバーがいることで民が安心するからだ。
ときたま入る帝都から離れた依頼も、即座に飛んで片付けた。
そしてまた帝都に戻ってくる。
そのため、多くの者がシルバーは帝都を動かないという印象を持ち始めていた。
それでいい。そこは狙い通りだ。
絶対的な存在であるSS級冒険者が帝都にいるだけで、帝都の治安は改善される。
治安悪化の原因である不安が払しょくされるからだ。
だが、弊害として個人依頼でシルバーを動かそうという者たちが現れ始めた。
これまでそういう依頼はさっさと片付けることで終わらせてきたが……。
「依頼内容が漠然としている。来させて何をするのやら」
「帝国最強の魔導師を学院に招待したい。それだけなら可愛いものですが」
「それだけに虹貨三枚払うとは思えんな」
言いながら俺はシルバーの仮面を被る。
どれだけ不審だろうが依頼は依頼。
冒険者である以上、行かなければいけない。
「では、後は頼む」
「かしこまりました」
セバスに見送られ、俺は帝国南西部に飛んだのだった。
■■■
深い森の中に帝国魔導学院はあった。
巨大な洋館。
建物を見た時、それが第一印象だった。
森の中にそれがあると言うのは、異質な光景といえるだろう。
わざわざ森の中に建てたのは、魔法の訓練にはそれなりの敷地が必要だからだ。
あとは外界と隔絶されているため、生徒が魔法に集中できるとか、そんな理由だろう。
そんなことを考えながら、俺は学院の門をくぐる。
出迎えたのは白い髭を伸ばした背の高い老人だった。
「わざわざご足労いただいて、申し訳ない。シルバー殿」
「転移で飛んできただけだ。あなたが学院長か?」
「ご挨拶が遅れた。帝国魔導学院、学院長のトーマス・フォン・シェーンベルクだ」
淡々と学院長は自らの名を告げる。
シェーンベルク家はたしか伯爵位だったはず。
おそらく長男ではなかったんだろう。
まぁ帝国が運営する学院の学院長となれば、伯爵位より重要度は上だが。
「冒険者ギルド帝都支部所属、SS級冒険者のシルバーだ。個人依頼を受けて参上した」
「依頼とはいえ、突然呼び寄せて申し訳ない。こちらとしても急を要する事態だった」
「わざわざギルドに詳細を伝えなかったのは、訳ありか?」
「いかにも。歩きながら話そう」
そう言ってトーマスは俺を学院のほうへ促す。
周りに人の気配はない。
生徒は授業中か。
「私はこれでも自分が熟練の魔導師だと自負している」
「その自負は間違ってはいないだろうな」
トーマスから感じられる魔力は巨大だし、その立ち振る舞いにも隙はない。
冒険者ランクでいえばS級クラスの実力はあるだろう。
「本来ならその上から目線にイラつきそうなものだが、古竜を一撃で屠ったシルバー殿となると話は別だな」
「熟練の魔導師であるあなたでも対処できない事態が起きた。そういう認識でよいかな?」
「話が早くて助かる。この学院には多くの宝玉と魔導書が集められている。魔法の研究のためだ。その中に解読不能な魔導書があった」
「なるほど。俺が呼ばれるわけだ」
解読不能な魔導書。
パターンは二つ。
難解な方法で書かれた禁術書か、古代魔法について書かれた魔導書か。
どちらかだ。
特に後者に関しては、古代魔法の素質がなければ内容を理解することはほとんどできない。
大抵の古代魔法の魔導書は、素質ある者のみに読めるよう細工されているからだ。
まぁ正しくは、素質ある者しか読む必要がないから、そういう風な仕様になっていただけだが。
千年前の古代魔法時代に。
「魔導書はどこに?」
「図書室の奥。禁書エリアに保管していた。問題なのはそれを解読した生徒がいるということだ」
「ほう?」
言いながら俺は心の中でため息を吐く。
わざわざ俺を虹貨三枚も使って呼び出したのは、帝国魔導学院始まって以来の古代魔法の使い手を輩出できるかもしれないからか。
俺はあくまで冒険者。
しかし帝国魔導学院を卒業すれば、必ず帝国に組み込まれる。そういう契約だからだ。
帝国に古代魔法使いを組み込める。
帝国魔導学院の評価は大きく上昇するだろう。
「帝国では古代魔法に関する事柄は慎重にならなければいけない」
「だから漠然とした依頼内容になったのか」
「そういうことだ。しかし、残念ながら我々にはその生徒の解読があっているかはわからない。まずは確認してほしい」
「そこからか」
随分と博打に出たものだ。
生徒が嘘をついていれば、虹貨三枚を捨てることになる。
それだけ生徒を信頼しているということだろうな。
■■■
学院長室に案内された俺は、さっそく魔導書と解読した文章を見る。
魔導書はたしかに古代魔法について書かれたものだった。
しかもかなり強力な魔法だ。
一冊丸々、その魔法について書かれている。それだけでこの魔法の価値がわかる。
一方、解読された文章だが。
「驚いたな。確かに解読はあっている」
「本当か!?」
「これを解読した生徒は?」
「すぐに呼ぼう!」
興奮した様子のトーマスが使いを出して、生徒を呼び出す。
その間、俺は魔導書に目を通していた。
難しい魔法だ。
魔力の消費も激しい。
この本の著者ですら、短期決戦型の魔法と位置付けている。
そういう魔法は間に合っている。
俺が使うことはないだろうな。
そんな風に思いながらページをめくっていると、俺はとあることに気づいた。だが、同時に学院長室に一人の少年が入ってきた。
年は十三、四歳くらいだろうか。
制服をきちっと着こなした容姿端麗な少年だ。
「紹介しよう、シルバー殿。彼が魔導書を解読した生徒、ヴィム・フォン・アルテンブルク君だ」
なかなか大物の名が出てきたな。
帝国最古の貴族。アルテンブルク家の子か。
信頼されるわけだ。
「初めまして、シルバー。お名前は聞き及んでいます」
「そうか。それは光栄だ」
「それで、呼び出されたということは僕に古代魔法の適性があったということでよろしいですか?」
「そうだ。君の解読は間違っていなかった」
「そうですか」
当然だと言わんばかりにヴィムは頷く。
自信満々だな。
選ばれた者という自負があるんだろう。
「どうだろうか? シルバー殿。ヴィム君は現代魔法でも首席を争うほどの天才。シルバー殿の弟子にするというのは?」
「僕も学ばせていただきたいですね」
「無理だな」
迷うこともなく俺は答える。
まさか断わられるとは。
そんな表情をヴィムは浮かべる。
「し、シルバー殿!? 何が気に食わないと!?」
「気に食わないという問題ではない。彼には古代魔法の素質があることは確かだ。しかし、魔力が足りない」
「僕の魔力が足りない……? そんなことを言われたのは初めてです!」
「だろうな。現代魔法を使う上では十分すぎる魔力量だが、古代魔法を使うには足りない。古代魔法には膨大な魔力が必要だ。規格外の魔力が、な」
「一つの魔法を使うくらい……!」
「使いたいなら使えばいい。読めるなら学べるだろう。一歩間違えば死だが、な」
足りない魔力をかき集めるために、生命力を削る。
魔導師の禁じ手だ。ラインを見誤れば死に至る。
この魔法はただでさえ、消費魔力が多い。ヴィムの魔力では発動するたびに生命力を削ることになるだろう。
「――怖いんですか? 自分以外の人間が古代魔法を使えるようになるのが?」
「面白い挑発だな」
「ヴィ、ヴィム君……!」
「怖くないというなら消費量の少ない古代魔法を教えてください! 僕には素質がある!」
「消費量の少ない古代魔法を俺は知らん。探せば君にも扱える程度の古代魔法はあるだろうが、そんなものを覚えて何になる? 現代魔法をしっかりと身に着けたほうが賢いぞ?」
使えると扱えるでは意味が違う。
一度きりの発動ということなら、なんとか発動できるだろう。
だが、それを扱えるようになるには幾度も試す必要がある。
よほどの天才でもなければ、一度使っただけで扱えるようにはならない。
「古代魔法だからこそ意味があるんだ!」
「君には君の事情があるようだな。だが、俺には関係ない。君には素質はあったが、魔力量という才能が足りていなかった。それだけの話だ。現代魔法でも似たような話は聞くはずだが?」
「嘘だ! 僕に才能がないなんて……!」
「古代魔法の才能がないだけだ。嘆くことはない。君は――多くの才能に恵まれているのだから」
そう言って俺はヴィムから視線を外す。
自分への興味がなくなったと感じたヴィムは、明確な殺気を俺に向かって放った。
子供の殺気だ。
本気で攻撃してきても、無傷でいなせる。
だが、それでは教訓にはならないだろう。
「よく覚えておけ。殺意を表に出すなら、自分が殺されることを覚悟しろ」
俺が振り向き、ヴィムを視線に捉える。
その瞬間、ヴィムは一瞬で尻もちをついた。
体は異常なまでに震えている。
「ヴィ、ヴィム君! し、シルバー殿!?」
「非礼はなかったことにしよう。帝国唯一のSS級冒険者に殺気を向けるなんて、いくらアルテンブルク公爵家の出身でも無事では済まないからな。それを容認した学院長も」
「……か、感謝する」
そう言って学院長は、人を呼んで学院長室から下がらせた。
それを見送り、俺はもう一度魔導書に目を移す。
ヴィムの解読は確かに合っている。しかし、ヴィムの解読は一部のみ。
だが、魔導書には最近読まれた痕跡があった。
ヴィムが解読した場所以外に、だ。
場所はこの魔法の詠唱部分。
明らかに集中して読まれている。
ヴィムが読んだとも取れるが……。
「学院長。この魔導書を読んだ生徒は他には?」
「一時期、一般開放していた。おそらくすべての生徒が読んでいるはずだ」
「なるほど。それで解読したといったのは彼だけか?」
「そのとおりだ。ヴィム君はすぐに読めるといい、そのページを解読してみせた。それ以降、誰も読んでいないはずだ」
「わかった。少し学院内を見て回っても?」
学院長はすぐに頷いた。
偶然かもしれないが、明らかに詠唱部分が読み込まれていた。
ヴィムでないとするなら。
まだ学院内には古代魔法の素質を持った生徒がいるかもしれない。
そう思いながら俺は学院内を見て回るのだった。