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第四百九十七話 駒

最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い~帝位に興味ないですが、死ぬのは嫌なので弟を皇帝にしようと思います~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第四百九十七話 駒

出涸らし皇子、更新再開です!

お待たせして本当にすみませんでしたm(__)m

またお付き合いいただけると幸いです!

アルが公国に向かっている最中。

帝国西部国境では動きがあった。

「師団長……! 見えました……! 敵の兵糧を保管している陣営です……!」

レオ不在の西部国境守備軍に対して、王国軍は幾度も襲撃を繰り返してきた。

停戦中とはいえ、最前線。

それ自体は珍しくはない。

帝国軍も魔導師団を中心に反撃し、すべて撃退してきた。

だが、その過程で西部国境守備軍は敵の侵攻計画を入手した。

断片的なものだが、計画はレオが西部国境守備軍の司令官につく前に国境守備軍に大打撃を与えるというものだった。

実行まではあと数日。

それを裏付けるように、王国軍の名将であるバランド将軍が五万の軍勢と共に姿を消していた。

国境に向かったのは間違いなく、対峙する王国軍と合わせたら八万を超える大軍となる。

帝都に確認を取っていては敵に先手を打たれる。

西部国境守備軍はこれまでの戦闘で捕虜にした王国兵から得られた情報を元にして、敵軍の兵糧の場所を突き止めていた。

そこに奇襲をかけることを魔導師団の師団長であるリーグル大佐は提案した。

西部国境守備軍は現状、四万。

敵が八万に膨れ上がってからでは太刀打ちできない。

突破はされないまでも、打撃を受けることは必至。

だが、敵は大軍。兵糧がなければ動けない。少なくともレオが来るまでの時間を稼ぐことはできる。

しかし、それには二つの問題があった。

一つは表向き、停戦中ということ。

小競り合いならばまだしも、敵軍の兵糧庫へ奇襲というのは明確な攻撃だ。

帝国から停戦を破ったと言われかねない。

もう一つは兵糧がある陣営は厳重に守られているということだ。

場所は山中。正規の道には厳重な警備が敷かれており、それ以外の道は険しく突破は不可能。裏側は断崖であり、そちらも突破は不可能。

気づかれずに接近するのは無理だった。

だが、魔導師団は魔法を駆使して、裏側の断崖を突破することに成功した。

万が一、バレたときのために盗賊を装っている。

これで帝国は言い逃れができる。

「断崖を突破できる盗賊などいるわけないが……」

リーグル大佐は呟き、苦笑する。

政治ではその些細な逃げ道が大事となる。

帝国がやったという証拠がなければいいのだ。

どう見ても帝国の仕業であっても、外交の名手たちは素知らぬ顔で帝国ではないと言い張る。

そのための措置だった。

それはリーグル大佐とて承知だった。

だが、今回の作戦に参加した精鋭五百名は帝国軍として処理されない。

名誉の戦死とはならないのだ。

魔導師団の中核を成す精鋭たちだ。

リーグルが直接スカウトした魔導師ばかり。そして鍛えた。ザンドラと共に。

だからこそ、ザンドラの死後は半ば軟禁状態だった。

いくらザンドラの反乱に関わっていなくても、設立にはザンドラが関わっている。

幹部もザンドラと近かった。実際、ザンドラには幾度も協力を要請された。

それらは跳ね除けた。あくまで自分たちは軍人だからだ。

しかし、それでも信用はされなかった。

待っているのは解散だけのはずだった。

そんな魔導師団を前線に引き戻した者がいた。

ほかでもない、ザンドラと戦ったレオだ。

ほぼ独断に等しい形で、レオはリーグルを含めた魔導師団を前線に連れていった。

疑いを晴らしたければ、手柄をあげるしかない。

そのための機会を与える。

レオはそう言って魔導師団を的確に用いた。

そんなレオの言葉を信じて、魔導師団も必死に戦った。

今では西部国境守備軍で、魔導師団に疑いを向ける者は一人もいない。

だが、帝国中枢ではまだ信用されていない。

もっと手柄がいる。

そうしなければ部下たちが一生、肩身の狭い思いをすることになる。

「行くぞ……!」

リーグルは部下たちに声をかけ、敵の陣営へと静かに潜入していく。

ここでバレては元も子もない。

静かに兵糧を燃やさなければ。

だが、すぐに異変に気付く。

陣営内には誰もいなかったのだ。

見張りすらいない。

「どういうことだ……?」

「師団長! 兵糧がありません! すべて油です!」

「くっ! 罠だ!! 撤退!!」

リーグルが叫んだ時には時すでに遅し。

陣営内に入り込んだ魔導師団を取り囲むように、ゾロゾロと王国の兵士たちが現れた。

その手に握られているのは火矢。

兵糧庫には兵糧の代わりに油が保管されていた。

あれだけの火矢を打たれれば逃げ場がなくなる。

だが、兵士たちはすぐには火矢を放たない。

「見事な奇襲だった。リーグル大佐」

兵士たちの後ろから馬に乗った黒髪の男が現れた。

年は四十過ぎだろうか。背の高い美丈夫だ。

誰かはすぐに見当がついた。

連合王国との戦争の際、聖女レティシアと共に戦った王国の名将、バランドだ。

「リーグル大佐ってのは誰だ?」

「徹底しているな。さすがと言っておこう。殿下がわざわざ罠にはめるわけだ」

「殿下だと?」

「そうだ。すべて計画されたことだった。私が軍と共に動いたのも、いくつもの情報が漏れたのも。すべてお前たちをここに誘い出すための罠だ。我らがアンセム王子殿下が考えた策略だ」

「王国の第三王子……」

かつて王国の歴史上、屈指の武王になると期待された天才。

毒によって健康を害したことで、その期待は砕け散った。

近年は静養中のため、表舞台には出てこなかった。

だが、その天才がいよいよ帝国に牙を剥いた。

「殿下からお前たちに言付けを預かっている。そのまま伝えよう。ザンドラ殿下は良き部隊を作ったものだ。敬意を表して正面からは戦わない。以上だ」

「光栄なことだな……」

すべて計画されたことならば、万に一つも逃げる望みはない。

ならば。

「狙うは敵将バランド! 兵糧以上の価値がある! その首を落とせ!!」

既に死は覚悟済み。

危険を承知で敵地に忍び込んだのだ。

手ぶらというわけにはいかない。

せめて地獄に道連れにしてやる。

リーグルを筆頭に魔導師団の面々が動きだす。

同時に、火矢が放たれた。

陣営が炎に包まれ、多くの師団員がその身を火に焼かれていく。

だが、その身を焼かれながら師団員はバランドへ迫る。

「うぉぉぉぉぉ!!」

バランドの周りを固める兵士たちが次々にその手に掛かる。

だが、バランドもそれを予想しており、続々と守備兵が集まってくる。

「くそっ! 不死身か! こいつら!?」

「狼狽えるな! 結界で自分の身を守っているのだ! 攻撃に魔法は使えん!」

そうバランドが叫んだ時。

バランドの傍に大きな火球が着弾し、大勢の守備兵が吹き飛ばされる。

「なにぃ!?」

火球は陣営の中から飛んできた。

よく目を凝らすと、そこにはリーグルがいた。

「自分の身も守らずに攻撃してきたか!」

リーグルの攻撃は止まらない。

いくつもの火球がバランドを襲う。

だが、バランドはそれらをすべて剣によって弾き切った。

やがて攻撃は止み、炎から逃れた師団員も次々と討たれていった。

「バランド将軍! ご無事ですか!?」

「無事ではない」

バランドはそう言って自分の右手に握られている愛剣を見つめた。

「二十年以上、共にあった愛剣だ。片腕を失ったに等しい」

その剣は半分ほど溶けており、使い物にならなくなっていた。

「次の一撃は防げなかったな。罠に嵌めてこれだ。レオナルトの指揮の下、戦場で奇襲されていたら命はなかった」

バランドの冷静な分析に、傍にいた兵士の顔が青くなる。

そんな兵士に愛剣を預け、バランドは伝令兵を呼んだ。

「殿下に作戦が上手くいったことをお伝えしろ」

「将軍、殿下とはリュシアン殿下のことでしょうか? アンセム殿下のことでしょうか?」

「私は王を幽閉して王太子を名乗る者などに殿下などという敬称はつけん! わかったら行け!」

「で、ですが、王都では報告を待っているかと……」

「ならば殿下に伝えたあとに上手くいったとだけ伝えておけ!」

バランドは伝令兵を怒鳴りつけたあと、深くため息を吐く。

アンセムが従ったため、バランドも従っているが王太子に対しての不満は残っている。

前線に出ている実績ある将軍のほとんどは、聖女レティシアと共に王国を守るために戦ったからだ。

「殿下が王位を継いでくだされば言うことはないのだがな……」

叶わぬと知りながらバランドは呟く。

そして全軍に撤退を命じた。

リーグルと魔導師団は優秀な駒だった。

だからこそ狙い撃ちにあった。

だが、それはバランドも同じ。

駒であってプレイヤーではない。

今回のことを受け、レオナルトが西部国境守備軍に駆け付けてくる。

そうなれば今度は自分がリーグルの立場になる。

全面的な戦いを始めるのは、プレイヤーが揃ってから。

「有能な王子がいるのは貴様らだけではないのだぞ。帝国よ」

帝国の方角を向いて呟いたあと、バランドは馬を走らせた。