第五百三十八話 いざミヅホへ
第五百三十八話 いざミヅホへ
ジークからミヅホに行きたいという申し出を受けてから数日後。
今度は帝都から客がやってきた。
「厄介なことになったぞ、アルノルト」
「お前が来るならそうなんだろうな」
やってきたのは帝都で留守を預かっているはずのヘンリックだった。
基本的にヘンリックは爺さんの指示で動いている。
今回も状況を説明したうえで、爺さんの指示を仰いだんだろう。
「で? 何が起きた?」
「冒険者ギルドからシルバーに個人依頼だ」
「断っておけ。今は公国を離れるのは得策じゃない」
まだまだ帝国の準備には時間がかかるだろう。
叔父上だってすぐに戻ってくるわけがない。それだけ俺が出した注文は難題だ。
だが、それは帝国だけの話。
周りの国がどう動くかはわからない。
王国が先制攻撃をしてきたら、俺のやるべきことも変わってくる。
だから、よほどのことがないかぎり公国を離れたくはない。
「ミヅホの仙姫直々の依頼だ。仙姫はシルバーには貸しがあると言っているらしいが?」
「最悪だ……」
思わず俺は頭を抱える。
このタイミングであの時の約束を使ってくるか……。
確かにシルバーとしてオリヒメに約束した。
どんな依頼でも無償で引き受ける、と。
「オリヒメにはデカい借りがある……」
「では、行くのか?」
「すぐに終わる保証がない。長引けば正体がバレかねないし、王国との戦争に出遅れかねない」
「では、行かないのか?」
「オリヒメがいなければ霊亀戦に参戦できなかった。オリヒメだけじゃなく、皇帝の目の前で約束したことだ。反故にすれば築き上げたシルバーの信頼が揺らぐ」
「では、どうする?」
ヘンリックの問いに俺はすぐに答えられなかった。
まずい。
非常にまずい。
厄介なのはオリヒメがわざわざこの約束を使うということは、オリヒメでは手に余る案件ということだ。
どんなことであれ、面倒事なのは間違いない。
そうなると長引くことは想定しないといけない。
「……ヘンリック。俺の代わりができるか?」
「公国にいるだけならできるな。周りの者のサポートが必要だが」
「フィーネとセバスを残していく。幻術で俺の身代わりをしてくれ」
「心得た。もしもお前が遅れたらどうする?」
「俺の代わりに連合艦隊を率いてくれ」
「無茶を言う奴だ」
「無茶は承知の上だ。そうならないように急ぎはする」
「そうしてくれ。姿は真似られても、能力は真似られない。戦時になればいずれバレる」
ヘンリックの言葉は正しい。
連合艦隊を任せられたら、その出撃タイミングまですべて一任されるだろう。
判断を間違えたらレオが危ない。
「なんとしてでも戻ってくるしかないな」
俺の言葉にヘンリックは頷く。
戻ってこないとすべてが破綻する。
どうして俺にばかり面倒事がやってくるのか。
「弟を皇帝にしようって考えるのは後世にはおすすめしないな。忙しすぎる」
「どちらかというと、SS級冒険者と皇子の一人二役のほうが原因だと思うがな。今までと違い、皇子としても大事な仕事を任されるようになった」
「だから嫌だったんだ。シルバーとして動きづらくなるから」
「なら、どうして表に出る動きを?」
「そんなの決まっているだろ? 必要だからだ」
必要がなければ、こんな面倒事は絶対にやらない。
あっちにも面倒事、こっちにも面倒事。
すべてを放り投げてしまいたい気分だ。
「まったく……早く終わってくれないもんかな」
「互いに互いの主張がある以上、終わりが来るのはどちらかが倒れた時だ。早く終わらせたいなら……」
「早く倒すしかないか……」
それはそれで無理難題だと思いつつ、俺はため息を吐きながら銀の仮面を被ったのだった。
■■■
「ジーク、移動手段が用意できたぞ」
「本当か? 早いじゃねぇか……」
俺に扮したヘンリックがジークを呼び出していた。
ジークとしては嬉しいかぎりだろう。
だが、ちょっとテンションが低い。
「それでつかぬ事を聞くんだが……船じゃなくて移動手段ってのは……」
「俺もミヅホに行くことになったのでな。アルノルト皇子から連れて行くように頼まれた」
部屋にいる銀仮面の魔導師。
嫌な予感はしていたんだろう。
ジークはシルバーとしての俺の言葉を聞き、固まる。
「船より早い。良かったな」
「頭おかしいんじゃねぇか!? 船の代わりにSS級冒険者を用意すんじゃねぇよ!!」
「たまたま時期があっただけだ。感謝はオリヒメに伝えるといい」
「感謝できるか!? ちょっと帝国領内を移動するんじゃねぇぞ!? 大陸の東端に行くんだぞ!? 転移を何回すればいいんだ!? 魔法に適性のない人間がそんなに転移を繰り返したら」
「多少気分が悪くなる程度だ。安心しろ」
「安心できるか!」
ジークは喚くが、俺に首根っこを掴まれて持ち上げられる。
これで逃げられないな。
「では、預かった」
「ああ、気を付けていけ」
「努力しよう」
短い会話の後、俺は転移魔法を発動してミヅホに向かったのだった。
■■■
幾度かの転移を経て、俺とジークはミヅホにたどり着いた。
魔法に適性のないジークは軽く酔ったようでぐったりしている。
「シャキッとしろ。ミヅホについたぞ」
「自分は平気だからって……」
具合が悪そうな声を出しながらもジークは視線をあげる。
ついた場所はミヅホ仙国の冒険者ギルド支部。
冒険者ギルドを通しての依頼なため、ここに立ち寄る必要があった。
俺は躊躇せず、支部の扉を開ける。
ここには挨拶に来たようなものだ。
用件はオリヒメから聞くことになっている。
あくまで俺が来たと知らせに来ただけ。
だが。
「くそっ! 人手が足らん! 南部のモンスターはどうなった!?」
「南部は沈静化! ですけど、東部のモンスターまで手が回りません!!」
「西部はどうだ!?」
「西部もどうにかなりそうです!」
「あとは東部だけか……動ける者はついてこい! 少しでも食い止めるぞ!」
ミヅホ支部はてんやわんやの状態だった。
どうやらモンスターが暴れているらしい。
「なんだね!? 君は!? 冒険者ギルドは今、忙しい! 依頼ならあとにして退いてくれ!!」
指揮を取っていた男が、扉の前に立つ俺に退くように伝えてくる。
おそらく支部長か何かだろうな。
かつてミヅホにやってきた時の支部長とは別人だ。
だから俺を知らなくてもしょうがないが、気づけないのはいただけないな。
「意外に知名度が足りないみたいだな。お前さん」
「そうみたいだな」
肩に乗ったジークが軽く呆れた様子で喋る。
これでもSS級冒険者の中じゃ有名なほうだと思っていたんだが。
「冒険者ギルド本部を通して、仙姫からの依頼を受けに来た。冒険者ギルド帝都支部所属、SS級冒険者のシルバーだ。忙しいなら手を貸すが?」
俺の自己紹介を受けて、男の顔から血の気が引いていった。