第五百七十三話 レティシアの策
第五百七十三話 レティシアの策
今日はリーゼ、クリスタ、ミツバのSSをYouTubeにあげたので、気になる場合はみてみてくださいm(__)m
「じれったいわねぇ」
「駄目だよ、エルナ。飛び出しちゃ」
「人を犬か何かだと思っているのかしら? 副将としての責任は自覚しているわよ。まったく……」
「それならよかった。兄さんにエルナの手綱は握っておくようにって言われてるからね」
「またそんなこと言って……合流したら覚えておきなさいよ、アルぅ……」
帝国軍本隊。
その本陣で総大将であるレオと副将であるエルナがそんな会話をしていた。
敵軍が守りを固めて、こちらの損耗を狙ってくるのは承知の上だった。
ただ、予想以上に敵の守りが固い。
前線部隊からは続々と時間がかかるという報告が届いている。
「この隙に手薄な場所を本隊で攻めれば、好機とみて敵本隊がやってくる。前線部隊を動かせば、今度は拠点に籠る戦力が僕らに向かってくる。かといって、時間をかければ兵糧も兵力も削られる。さすが兄さんが警戒していた相手だ。抜け目ないね」
「そうね。前線の都市が士気を維持しているのもさすがだわ。人気もあるんでしょうけど、根回しはかかさないってことなんでしょうね」
駒遊びと実戦は違う。
十五万の大軍が迫ってくれば、頼みにしていた都市群が一斉に降伏することもありえる。
だが、前線の都市群は応援に駆け付けた兵力と共に果敢に抵抗している。
それは敵総司令であるアンセムのことを信じているからだ。
自分たちが抵抗することに意味があるのだと、そうわかっているから彼らは抵抗する。
帝国に抵抗するのだと、連帯感が敵にはあるのだ。
良い武将は周りを巻き込むことができる。
当初想定していた、総司令アンセムの像をエルナは書き換えていた。
ただの将ではない。最大限の警戒を払う相手だと。
「大軍に奇策は必要なし。そう決め込んで正面から攻めているけど、相手にとってはそれも予想通り。このまま都市を突破したとしても、相手の予想通りなら勝ち目は薄いかもね」
「弱気って言いたいところだけど……同意見だわ。ここまで念入りに準備をしている相手なら、こちらの戦力を計り間違えるってことはないはず。損耗した帝国軍なら勝てると向こうが踏んでいるなら、そのまま行けば勝ち目は薄いでしょうね」
「そうだね。向こうは膠着状態をつくればいいだけだしね。頼みの綱は王太子との仲の悪さだけど、それは宰相たちの分野だからね。動いてはくれているだろうけど、当初の予定通りに行っているなら、ゆさぶりも意味ないだろうね。やっぱり何か手を打たないと」
「私が都市を落とす? 手薄な都市なら私だけでも大丈夫よ?」
「副将の責任を忘れないでほしいね。それに手薄な都市を一つ、力づくで落としたところで状況は好転しないよ」
アムスベルグが都市を落としたとしても、相手にとっては予想の範囲内だろう。
手薄な都市が落とされるのは敵も覚悟の上だろう。それで動揺は与えられない。
「では、力づくではない場合はどうでしょう?」
思案するレオに対して、そんな声が届いた。
本陣に出入りできる者は少ない。
その数少ない一人がそこにはいた。
「力づくじゃないってことは、危なくないことかな? レティシア」
「おそらく」
「おそらくじゃ困るよ。おそらくじゃ」
レティシアの言葉にレオは眉を顰める。
これは帝国による王国侵攻だが、帝国の大義は現国王から実権を奪い、聖女レティシアを裏切った王太子を廃するというものだ。
あくまで現国王とレティシアのためというスタンスであり、そのためにレティシアにはあまり動いてほしくないというのが帝国の本音だった。
もちろん危ないことはしてほしくないというのは、レオの本音だが。
「セオドア隊長とも相談しましたが、そこまで危なくないと思います」
「あくまで護衛がつけば、という話ですが」
後ろに控えていたセオドアが口を開く。
第二、第三という上位の近衛騎士隊長が同行しているのは、レオとレティシアという重要人物がいるからだ。
戦力というよりは、二人の護衛という意味合いが強く、出来得る限りエルナとセオドアは二人の護衛についていた。周りはさらに二人の部下が固めている。
襲撃するのはほぼ不可能。
城にいるとき並みの安全性が本陣では保証されていた。
「聞くだけ聞こうか。聞くだけ」
「過保護はよくないわよ? レオ」
「エルナだって人のこと言えない癖に」
「私がいつ過保護だったっていうのよ?」
「いつも兄さんを過保護に扱ってるでしょ? 僕はいつも過保護だなぁって思ってるけど、口には出さないでおいてあげてるんだから。黙ってて」
「私は過保護じゃないわよ!」
幼馴染の気安い会話。
それを微笑ましそうに聞きながら、レティシアは前線よりやや北側の一帯を指さす。
「王国北部は連合王国との戦争の際、私が拠点としていた場所です。ここの都市群ならば説得して、帝国に下らせることができるかもしれません」
「君だけで説得に?」
「もちろん私だけでは行きません。エルナ様について来ていただけると嬉しいのですが、いかがでしょうか?」
「わ、私!? セオドア副団長じゃ駄目なのかしら?」
「同じ女性ですし、エルナ様とはもっとよくお話したいと思っていたんです。駄目でしょうか?」
「駄目じゃないけど……」
エルナはチラリとレオを見る。
レオの護衛はエルナという役割分担だった。副将という立場もある。
さらにいえばレティシアは幼馴染であるレオの想い人。やりづらさがエルナの中にはあった。
そのため、西部国境に居た時から積極的に関わることはなかった。
しかし。
「エルナが護衛につくなら……認めるよ」
「レオがそういうなら……」
珍しく歯切れの悪いエルナに対して、レティシアは笑顔を向ける。
そして。
「よろしくお願いします。エルナ様」