第七百二十六話 懐かしい
第七百二十六話 懐かしい
原稿に集中するため、12月2日、3日、4日の三日間、お休みをいただきますm(__)m
ご了承ください。
結界にて隔離されたため、聖杖の力は届かない。
頼りは聖符と皇剣。
出し惜しみはしない。
レオはすぐに皇剣の魔力を自分に集中させた。
少なくともそのように動いた。
けれど、皇剣は反応しない。
「……」
「あまり馬鹿にしないでもらおうか。長く帝剣城にいたのだ。そのすべてを掌握している。お前の皇剣は私の前ではよく斬れる剣程度しかない」
「なるほど……斬れるなら十分だ」
レオは聖符を使うと、自らを強化する。
それはもちろんアスモデウスと戦った時とは比べ物にはならない。
あの時は聖杖と皇剣のバックアップがあった。
けれど。
「悪魔の依代は死体よりも生きている者のほうが好ましいと聞く。死体を依代にしているお前は弱体化しているんじゃないかな?」
上段から剣を真っすぐ振り下ろす。
それをヴィルヘルムは剣で受け止めた。
権能ではなく、剣で。
「悪魔自慢の権能はどうしたのかな?」
「私の権能は戦闘向きではない。なにより使う必要がない」
そう言ってヴィルヘルムはレオの剣を押し返し、そのままレオを吹き飛ばした。
想像以上の威力。
それにレオは少し目を見開く。
「たしかに悪魔の依代は死者より生者のほうが好ましい。その中でも上位の悪魔の依代は厳選されたものでなければ、力を発揮することはできないわけだが……悪魔と依代には相性というものがある。私とこの体の相性は最高だ。私の悪魔としての力は想像以上に弱体化しているが……それすら補って余りあるほどに、な」
レオの視界からヴィルヘルムの姿が消えた。
微かな気配を頼りに剣を右に構える。
すると、攻撃がやってきた。
咄嗟に剣を構えていたため防御できたが、見えていたわけじゃない。
聖符で強化してなければ今のでやられていた。
レオは顔をしかめる。
「私の名はダンタリオン……魔王軍の大参謀。魔奥公団の真の主。悪魔の大公だ。さすがはアードラーというべきか。お前の兄の体は有益だぞ? レオナルト」
「ヴィルヘルム兄上の体を使っているのに、その程度か。悪魔の大公が聞いてあきれるよ。アスモデウスはこの程度じゃなかった」
「挑発のつもりかもしれないが、それについては私も認めている。魔王に殺されかけてから、私の力は大幅に弱体化している。相性のよい依代を得ても、この程度だ。しかし、お前を討つことに困りはしない」
ダンタリオンは剣を構えると、怒涛の攻めを見せ始めた。
上下左右から迫る剣。
それをレオは必死に受け止め続ける。
反撃の隙を見つけたいが、その隙がない。
だが、耐え続けた瞬間。
一瞬の隙が見えた。
大振りになった一撃を躱し、レオは懐に潜り込む。
そして喉へ突きを放つが、それは容易く避けられた。
「そう来ると思ったぞ」
ゾクッとレオは体がざわつくのを感じた。
そして体の反応に任せて横へ転がる。
首に熱が走る。
斬られた。
そう思いながら、レオは首に手を当てる。
傷は浅い。出血も少ない。
咄嗟に動いて正解だった。
迷っていたら、今頃、命はない。
「よく避けたな?」
「……ヴィルヘルム兄上の記憶から僕の動きを読んだわけか」
「古い記憶だ。だが、癖というのはそう簡単には変わらない。あの攻撃をしてくれば、懐に潜り込んでくると思った。そして当たったわけだ」
「けれど、僕の首は繋がっている」
「それは誤算だ。しかし、修正すればいい」
再度、ダンタリオンは攻撃を仕掛けてきた。
こちらの余裕をなくすつもりなのはわかった。
咄嗟の反応になればなるほど、癖は出る。
幾度もヴィルヘルムと剣術の稽古をしたレオは、その癖を読まれている。
だが、読まれることを恐れて動かなければジリ貧だ。
反撃に出なければやられる。
身体能力は向こうの方が上。
さらに。
「くっ……!」
「懐かしい技か?」
ダンタリオンは手首を使って、剣の軌道を変えた。
それをレオは後ろに下がることで避ける。
それはかつてヴィルヘルムが使っていた技。
体を使っている以上、覚悟していたが、当然、ヴィルヘルムの技を使えるらしい。
純粋な剣技対決でも勝てるかわからないのに、相手は身体能力すら上回っている。
さらにこちらの動きも読んでくる。
勝ち目はない。
しかし、レオはニヤリと笑った。
「なにがおかしい?」
「安心したんだよ。お前は強いが……強いだけだ」
「頭でもおかしくなったか? お前に勝ち目はないのだぞ?」
「低いのは認めるよ。けれど、ゼロじゃない。規格外の怪物じゃないなら勝算はある」
「物分かりが悪いようだな。勝算は……ない!」
ダンタリオンの突き。
それをレオは地面を這うようにして避けた。
しかし、それを読んでいたダンタリオンは剣の軌道を変えた。
読まれることは承知。
レオは剣を受け止めると、鍔迫り合いに持ち込む。
だが、力は向こうの方が上。
すぐに押し返されてしまう。
それでもレオは踏ん張った。
そして。
「はぁぁぁぁぁっっ!!!!」
力一杯押し返し、相手に隙を作る。
相手の剣を逸らし、自分の剣は相手の喉へ。
「鍔迫り合いの後、拮抗状態を作り、隙を作って攻撃するのがお前の癖だ」
それは昔の癖。
剣を覚えた頃からの思考パターン。
拮抗状態を作ることで、相手の体は硬直する。そこを狙う攻撃。
無意識下の組み立て。
わかっていた。
だから、ダンタリオンはレオの剣を躱す。
だが、わかっていないこともあった。
それは。
「そんな気はしてたよ」
気づけばレオの拳が目の前にあった。
予想していない攻撃。
それゆえにダンタリオンはまともにレオの拳を受けることになった。
理解できなかった。
レオの手には剣が握られていない。
手放したのだ。
刹那の攻防の中で、武器を手放す。
ありえない行動だった。
「このっ……!」
後ずさったダンタリオンはそのままさらに距離を取る。
ダメージはない。
だが、記憶に頼った攻防は危険だとわかった。
本来、癖というのは無意識下で行われる。
それを理解して、利用してきた。
しかも意表を突くために剣を手放した。
ゆっくりと落ちている剣を拾うレオは、フッと笑う。
「悪いね、戦いの最中に新しいことをするのは得意なんだ」
不敵な笑み。
それを見てダンタリオンは警戒度を上げた。
状況は圧倒的に有利。
それでも。
有利な相手を蹴落とすのがこの一族だ。
アードラー。
すでに煮え湯は飲まされている。
二度も飲まされるわけにはいかない。
「やはりアードラーはさっさと消すべきか」
そういってダンタリオンは指を弾く。
それは部下への合図だった。
戦局に影響を与える存在はレオだけではない。
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「結界の破壊はまだか!?」
「レオナルト殿下が不在では火力が足りず……」
伝令の言葉に皇帝ヨハネスは思わず舌打ちをする。
レオが結界に引きずり込まれた段階で、ヨハネスは勇爵も投入して結界の破壊を試みていた。
しかし、勇爵が召喚できるのは制約のある聖剣。
エルナが使える完全開放の聖剣ではない。
その聖剣だけでは、聖杖のバックアップがあっても結界は破れない。
火力が足りない。
ヨハネスは深く息を吐くと、剣を手に取って歩き出した。
「ワシも前に出る! 士気をあげて、まずはモンスターを排除する! その後、改めて結界の破壊を試みるぞ!!」
手が足りないなら、手が空くようにするまで。
馬に跨ったヨハネスは護衛と共に前へ出ようとするが、それ以上、前へ進むことはなかった。
「あなたの相手は私たちですよ、陛下」
「こなたたちが相手では不足とは言うまいな?」
現れたのは二人の女性。
緑髪と赤髪。
一人は冷たく、知的。一人は熱く、勇猛。
魔導師と剣士。
反対な二人。
けれど、共通点もあった。
それは皇帝の妃という共通点だった。
「ズーザン、ゾフィーア……」
「お久しぶりです、陛下」
「……蘇ったわけでもあるまい。悪魔が小賢しいことをするものだ」
二人は死んだ。
今、目の前にいるのは悪魔が依代としているから。
中身は違う。
体を使っているだけだ。
だが、わかっていても声も表情も本人と変わらない。
「いけずな陛下。暖かく迎えてくれてもよいのですよ?」
「そなたは昔からそうだ。こなたたちとは距離を取る。心を開いていたのはアメリアとミツバのみ」
「……」
「だんまりとはひどいですね。ザンドラが死んだときもそうやってだんまりでしたか?」
「ゴードンが死んだときも平静を装ったのでは?」
過去からの糾弾。
それでもヨハネスは真っすぐ二人を見つめた。
「ほかに言うことはないか? 悪魔ども」
「……つまらない男。それじゃあ、あなたの息子からの伝言よ。皇后が死んでさぞや寂しいだろう。妻に会いたければ会わせてやろう、だそうよ?」
「余計なお世話だ」
そう言うとヨハネスは剣を抜く。
それに合わせて、護衛たちも剣を抜いた。
「妃を使って動揺を誘おうというなら安い手だ。それでブレる程度なら皇帝など務まらんわ!!」
叫びながら、ヨハネスは剣を振り下ろしたのだった。