第七百三十七話 傍にいる人たち
第七百三十七話 傍にいる人たち
肩が張っているので、明日はお休みしますm(__)m
西門を破り、帝都に突入したレオナルトの傍にアリーダはいた。
そしてモンスターを斬りながら、ふと空を見上げる。
そこには悪魔と戦うアルノルトの姿があった。
間違いなくアルノルトだ。
シルバーの正体。
それがアルノルトと知った時、アリーダには妙な納得感があった。
ああ、なるほど、と。
アルノルトは常に余裕があった。性格的に飄々としているから、というのもあるが、ある種の切り札がある者の余裕に見えた。
それは余裕があるわけだ。
謀略、策略。そんなものに頼らなくても、その気になれば自分ですべて壊せるのだから。
けれど、それを極力しなかった。
力は戦いを呼ぶ。よくわかっていたからだろう。
自分の弟を斬ったのも、きっとレオナルトではなく、レオナルトに扮したアルノルトなのだろう。
その程度のことは察しがついた。
ずっと心の中にしこりがあった。
どうして自分の弟は死んでしまったのか。
調子に乗った若い貴族。それが行き過ぎて、大事になった。
だが、それはアルノルトの普段からは想像がつかない過剰な反応によるものだった。
なぜ? あの時だけ。
しかし、納得がいってしまった。
SS級冒険者のシルバーとして帝国のために戦い、第七皇子アルノルトとして帝位争いを戦う。
そんなアルノルトにとって、フィーネの傍は唯一の安らぐ場所だった。
だから、それを脅かした弟を全力でつぶした。
竜の巣を攻撃したようなものだ。だから、反撃も相当なものだった。
「SS級冒険者シルバーに挑んで敗れたなら、ラウレンツの面目も立つというものですね……」
きっと、シルバーと知っていたら、とラウレンツは言うだろう。
そういう風に育ててしまったのは家族だ。
諦めがつく。
いつか、もっと大きな問題を起こしただろう。生きていたら、ヴィルヘルム側に加担していたかもしれない。
だから、感謝しよう。
弟は帝国貴族として命を落とすことができた。
最低限の名誉は守れたのだから。
そんなことを思いながら、ゆっくりとアリーダは前へ歩き始めた。
レオナルトたちの足が止まったからだ。
足止め部隊が出てきたのだ。
アリーダはその足止め部隊の中に、第十騎士隊隊長、ブルクハルト・フォン・アルテンブルクの姿を見つけた。
「悪魔が憑依していてほしいものですが……そういうわけではなさそうですね」
「残念ながら。アリーダ団長……私とあなたでは忠義を捧げる相手が違うのです」
「ならば……その白いマントを羽織る資格はあなたにはありません」
言いながら、アリーダは剣を振るった。
ブルクハルトはその剣を受け止めながら、逆に告げる。
「今、白いマントを羽織る資格があるのは私です。帝都の主を守るのが近衛ですから」
「なるほど。それならば……その資格を奪い取るまで!」
近衛騎士団長と近衛騎士隊長の激突が始まった。
■■■
似たようなことがあちこちで起きていた。
最後の精鋭部隊。
それが足止めに回っていた。
「つ、つえぇぇぇ!!」
ジークは叫びながら、槍を振るう。
けれど、そのどれもが弾かれた。
相手は老剣士。
ジークの攻撃がまったく通じなかった。
「エゴールはどこじゃ?」
「おいおい、眼中にねぇってか?」
「当たり前だ。その老人はロスアーク伯。皇太子の剣の師匠。かつての帝国最強剣士だ」
反撃を警戒して、距離を取ったジークの後ろ。
杖を構えたヘンリックが老人について説明した。
「ロスアーク!? なんだってそんな大物が復活してんだよ!」
「強かったからだろうな」
ジークの言葉にヘンリックは端的に返した。
それに対して、ジークは怒りをあらわにした。
「なんなんだよ!? もう! 坊主はシルバーだったし! 死んだはずの皇子たちは生き返るし! さらに元帝国最強剣士かよ!! そういうのが可能なら俺の体も戻せよ!!」
本音は最後の一文。
ジークはいまだ子熊姿。
一時的に人間へと戻れたが、また子熊に戻ってしまっていた。
「文句はそれだけか? それと驚きもそれだけか?」
「坊主がシルバーだったってことか? ああ! 驚いたね! 驚いたよ! さすがにな! 皇子とSS級冒険者の二足の草鞋とは恐れ入った! そんで! 誰も気づかなかったのか!? よくバレなかったな!! そこにもびっくりだぜ!」
「帝国では皇族の古代魔法はタブーだからな。心理的なものだ」
「そうかいそうかい! 俺の中では妹に優しい皇子なんだがな! ずいぶんと重いもん背負ってたなと同情しちまうよ!! せめて、幸せになってくれ! 辛いのは……もう十分だろうからな!」
ジークはロスアークの剣を弾きつつ、反撃を加える。
だが、その一撃は受け止められた。
けれど、ジークは構わずロスアークを吹き飛ばした。
「大人として……ここを通すわけにはいかねぇな。剣術ジジイ」
「ただの熊ではないか……」
チラリとジークは空を見る。
門の近くにはオリヒメの結界が張られ、そこを拠点としてSS級冒険者を筆頭とした実力者が門から出てくる新手を抑えている。
そこにロスアークを向かわせるわけにはいかない。
「共闘すれば足止めくらいはできるか」
「おいおい! 倒す気でいけ! 倒す気で!」
ヘンリックの現実的な言葉にジークはそう叫ぶ。
だが、思いもよらぬ賛同者が現れた。
「その通りだ。倒す気でいかねば何も倒せん」
「ゴードン……皇子……」
隣に現れたゴードンを見上げて、ヘンリックは驚いた様子を見せる。
そんなヘンリックの頭にゴードンはポンと手を置く。
「お前の成長が見てみたい。相手にとって不足はあるまい」
「……」
名は呼ばない。
本人が名を捨てているから。
けれど、ゴードンは弟として接した。
そのことにヘンリックは静かに涙を流した。
名は捨てた。身分も捨てた。
それでも家族として扱ってくれる人がいる。
それが一時的なものであったとしても。
「……お任せを……兄上」
最後は誰にも聞こえないように呟き、ヘンリックはゴードンとジークと共にロスアークとの戦闘に入ったのだった。
■■■
「好き勝手動いてくれる! 予備隊を東へ向かわせろ!!」
アンセムはそう言いながら各戦域の戦況を見て、部隊を動かしていた。
やりたくてやっているわけじゃない。
気づけば後方で指揮を執る将が自分だけだった。
いつの間にかウィリアムはいなくなり、皇帝ヨハネスも陣に留まっている。
やらざるを得ないから、やっていた。
「これも適材適所か!」
貧乏くじを引かされた気がしないでもないが、誰かがしなければいけない。
帝都の包囲は継続している。
これで、万が一逃げるような者がいればすぐにわかる。
そのためにも包囲は継続しなければいけない。だから戦力を必要なところに移す作業が必要であり、そのためには後方にも将が必要だった。
「いつもお前はこんな気持ちだったのか!? ヴィンフリート!」
「そうですね。だいたい、そんな気持ちです」
同じように後方で兵糧の管理、負傷兵の収容、避難民の保護を担当しているヴィンフリートに向けて、アンセムは尋ねる。
それに対して、ヴィンフリートは淡々と答えた。
ヴィンフリートにとってはいつものことだからだ。
「まったく……! 勝手な者ばかりだな! アードラーは! レオナルトとアルノルトの幼馴染と聞いたが、お前はアルノルトのことを知っていたのか?」
「知りませんよ。知っていたら……」
ヴィンフリートは空にて戦うアルノルトを見つめる。
知っていたら。
言葉は続かない。
意味がない言葉だったから。
もしも知っていたとしても、秘密にするように言っただろう。
誰に対しても秘密にして、それを漏らすなと言っただろう。
それがアルノルトにとって辛かろうと、それでも求めただろう。
「知っていたら?」
「……知っていたらもう少しフォローしていました」
「なるほど」
「それはそれとして、終わったら一発殴りますが」
「相手はSS級冒険者だぞ?」
「関係ありません。オレはあいつの偽装死にとんでもない責任を感じていたんです。それに……殴られたほうが気が楽でしょうから」
悪いと思っているのに、怒られないというのは辛い。
自分くらいはせめて殴ってやろう。
周りの者は優しいから。
きっと大丈夫と慰めることを優先させてしまう。
「まぁ……アルを殴るのは命がけですが」
「シルバーだからな」
「いえ……アル自身は別に問題ないんですが……傍にいる騎士が問題です」
本気で命を賭けないといけない。
自分以外がアルを殴るところを見たら、よくて半殺し。
事情を汲んだうえで、命を脅かされる。
空に目をやれば、活き活きと暴れ回る騎士がいた。
あれほど活き活きとしているのは見たことがない。
完全復活といっていいだろう。
アルの死を聞いてしまった時からは想像できない。
「昔からアルの傍には過保護な騎士がおりましてね」
言いながらヴィンフリートは柔らかく笑うのだった。