7話 迷宮探索 2026年10月19日 公開
7話 迷宮探索 2026年10月19日 公開
食後、ロアン坊ちゃんは迷宮探索へ行くことにした。
せっかく迷宮街にきているので。
迷宮には俺も同行する。
普段は護衛のような仕事はしないが、これは別だ。
俺は使用人の職に就く前から迷宮には潜っていたし、何より迷宮は稼げる。坊ちゃんに同行している最中の稼ぎも自分の取り分にしていいことになっている。就業時間中に堂々と副業ができるんだから最高だ。
俺が十年も坊ちゃんのお目付け役を続けている理由のひとつといえるだろう。
それに、坊ちゃんにとってもいい気分転換になる。
傷心のまま家に戻るのは、非常に良くない。
迷宮街にあるラビリニ家の別邸で装備を整え、迷宮に向かった。
街の真ん中に、デカい扉のある建物がドンと鎮座している。
扉の高さは五メートルほど、様々な生き物が彫られた威圧感のある両開きだ。普段は大きく開かれていて、たくさんの人が出入りしている。
今日も迷宮は賑わっているな。
両脇に立っている衛兵は、ロアン坊ちゃんを見て軽く礼をした。
坊ちゃんが貴族だから……ではなく、この迷宮を運営しているのがラビリニ家だからだ。
貴族の各家にはそれぞれ役割があり、ラビリニ家が任されているのが迷宮だった。領地を持っていない法衣貴族に近いが、この迷宮街が領地といえるかもしれない。
ロアン坊ちゃんは数年前からよく迷宮に出入りしており、次兄のネオスも迷宮内の見回りが仕事のため、衛兵たちとは顔見知りだ。
俺もかれこれ十五年は迷宮に通い詰めいているため、顔を覚えられていた。
ラビリニ家の人間とはいえ、坊ちゃんは一から順当に攻略して強くなることを希望したので、優遇されるということはない。
他の探索者と同様、賑わうロビーを抜けて通路を進み、首から下げた識別標を機械にかざし、奥のシャフトへ進んでいった。
いいことだ。
実力もなしに進んでしまえば、いずれ苦労するのは自分自身だ。それが迷宮という場所である。
迷宮とは何か。
魔獣と呼ばれる敵がたくさん出現する空間のことである。
様々な形態で現れる魔獣を倒すと煙のように消え、ドロップ品が残る。魔石と呼ばれる便利な石だったり、肉の一部だったり、鉱石だったり。
そんな空間が下に向かって百層ほど重なっているのが、迷宮だ。迷宮内は異空間に広がっており、地表を掘っても迷宮には辿り着かない。完全に切り離されている。
迷宮内で次の階層に行くには、進んだ先にある階段を降りるか、昇降機を使う。
もっとこう、ワープする魔法陣でもあればもっと便利なんだろうが、エレベーターである。鉱山などで使われていそうな、三十人は余裕で乗れる代物だ。強度の問題があるからか十階ごとに乗り換える必要がある。地味に面倒だ。
魔法がある世界なんだから、もっと便利なものが開発されていてもおかしくないんだが。
「いつも通り、二十三階で降りて慣らしてから二十四階に行こう」
「かしこまりました」
ガタガタと無骨な音を立てる昇降機の中で。坊ちゃんは少し嬉しそうな声色で計画を話した。
明らかにデートに行くときより楽しそうだ。俺にとってもデートに同行する虚無の時間よりはるかにいい。
二度の乗り換えを経て二十三階で降りる。他にここで降りる人はいなかった。
ぽつぽつと灯った明かりを頼りに、警戒しながら進んでいく。坊ちゃんはすでに剣を抜いていた。
この層は枯れた草原と小さな岩山が続くエリアだ。物陰から可愛くないキツネのような魔獣が飛び出してくる。
二、三匹でしかかかってこないので、坊ちゃんくらいの実力なら余裕で攻略できる。が、ドロップ品がいまいちなため人気がない。人気があるのは肉と宝石だ。
ときおり毛皮がドロップするが、いまいちの手触りでいまいちの柄だ。魔石はどの階層でもドロップするが、この階ではその魔石の質も低い。
完全に訓練用の階層になっていた。
ほかの探索者の姿もない。
百層もあれば、迷宮も手を抜きたくなるんだろう。意思があるかは知らないが。ところどころ、こういった低コストの層があった。
などど考えていたら、さっそく岩山の陰からキツネが二匹飛び出してきた。
坊ちゃんは即座に構え、動きをよく観察する。
牙を剥き出しにしたキツネが地面に着地する瞬間を狙い、坊ちゃんは確実に仕留めにかかる。
「はっ! せい!」
剣の刃がそれぞれ首筋、胴体を撫でると同時にキツネの姿がシュッと霧散する。
コトリと魔石が転がる音がした。
お見事。
その後も坊ちゃんは危うげなくキツネを仕留めていく。俺はドロップ品を拾いながら後をのんびり追った。今のところ、毛皮のドロップはない。
俺の出番はないかと思われたが、途中でタイミングが悪かったのか十匹ほどに囲まれてしまった。
念のため、坊ちゃんの死角にいるやつを倒すことにする。
「 礫 ( つぶて ) 」
そう呟き、弾丸の形をした石を出現させ、キツネたちに向け射出した。五匹ほどのキツネが一瞬で煙になった。俺が使ったのは土魔法だ。
残りのキツネは坊ちゃんが順番に倒していく。
いつもより苦戦はしていたが、無事にすべて倒すことができた。
その後も順調にキツネを倒し続け、俺たちは次の層への階段まで辿りついた。ついぞ毛皮はドロップしなかった。渋いな。
坊ちゃんは満足したように頷いているが。
「いい準備運動になったよ」
失恋から、少しは気が紛れたようだ。
よかった、よかった。