937話 少し休憩
937話 少し休憩
「今日の予定は終わったのか?」
シファルさんがお父さんと私を見る。
「あぁ、今日の散策は終わりだ。明日は反対側のつもりだけど、アイビーはそれで大丈夫か? ソルは疲れていないか?」
お父さんの言葉にソル達の入っているバッグの蓋を開ける。
中を覗くと、嬉しそうに揺れるソル。
なぜかソラ達まで揺れている。
「皆、大丈夫みたいだよ」
ソルだけではなく、ソラ達までやる気なのはどうしてだろう?
ちょっと不思議に思いながらお父さんを見て頷く。
あれ?
シエルの姿が見えなかったけど……もしかして皆の下敷きになってるのかな?
「良かった。明日も頑張ろうな。歩き回るだけだけど」
「うん」
「俺達が把握していない場所を見つけたみたいだな」
セイゼルクさんが溜め息を吐くと、お父さんが苦笑した。
「予想はしていただろう?」
そうなの?
セイゼルクさんを見ると肩を竦めていた。
「そうだけど、見つからない事を願ってたよ」
仕事が増えるもんね。
「何ヵ所だ?」
「2ヵ所。あと1人だ」
ヌーガさんがお父さんの答えに眉間に皺を作る。
「1人?」
「それは、あとでな。そっちはどうだった?」
お父さんがセイゼルクさん達を見ると、なんとも言えない表情をした。
それにお父さんと私が首を傾げる。
「宿に戻ろう」
セイゼルクさんが歩きだすので、その後に続く。
「嫌な予感がする」
セイゼルクさん達の表情を見てお父さんが呟くと、シファルさんが笑う。
「正解。面倒になるぞ」
彼の言葉に、お父さんが諦めた表情で溜め息を吐く。
「「「「「ただいま」」」」」
宿に戻ると奥に向かって声を掛けるが、反応がない。
「フラフとラットルアは何処にいるんだ? 鍵は開いていたから、誰がいる筈だけど」
シファルさんが、食堂を覗いて首を横に振る。
子供達も一緒の筈だけど、何かあったのかな?
パタパタパタ。
これは足音かな?
宿の奥から小さな足音が聞こえ、全員が不思議そうにそちらを向く。
「おかえりなさい!」
元気に飛び出してくるグーミさんに、セイゼルクさん達が微笑む。
ただ、チラッと奥を見て微かに顔を歪めた。
「ただいま。あれ? どうして剣を持っているんだ?」
グーミさんが持っている物を見て、セイゼルクさんが優しく聞く。
「うん。今ね――」
「良かった、セイゼルク達か。おかえり」
慌てた様子で走って来たラットルアさんが、セイゼルクさん達を見てホッとした様子を見せた。
そしてグーミさんの頭に手を置く。
「こらっ、1人で来たら駄目だろう? 危ない人だったらどうするんだ?」
「あっ。ごめんなさい」
グーミさんがラットルアさんに謝ると、彼は小さく息を吐き出した。
「何をしていたんだ?」
シファルさんがグーミさんの持つ剣を見る。
「今、庭で剣術を教えていたんだ」
あぁだから、剣を持っていたのか。
「「グーミ」」
同じような小さな剣を持ったミルスさんとアルースさんが駆けて来る。
「こらっ! 危ないだろ!」
ミルスさんの怒鳴り声に、体を震わせるグーミさん。
少し泣きそうになっている。
「ごめんなちゃい」
あっ、可愛い。
焦って言い間違いをしてる。
「はぁ、何もなくて良かった」
ミルスさんとアルースさんがグーミさんを抱きしめると、彼女もギュッと2人を抱きしめた。
しばらくすると3人はラットルアさんを見る。
「よしっ、落ち着いたな」
ポンポンと3人の頭を撫でるラットルアさんに、子供達が少し恥ずかしそうに笑う。
3人とも凄く可愛いな。
「あっ、お帰りなさい」
ミルスさんが私達に気付くと慌てて頭を下げる。
その隣で、一緒に頭を下げるアルースさん。
「ただいま。剣はおもしろかったか?」
セイゼルクさんの言葉に笑顔を浮かべる3人。
「皆、筋がいいよ。特にグーミは力持ちだ」
えっ、グーミさんが力持ち?
「両手で剣を持ち上げて、ぶんぶん振り回してた。子供用といはいえ、この子にはちょっと重い筈なんだけど」
名前を呼ばれたグーミさんが、嬉しそうに笑う。
そして剣を頭上に持ち上げ、それを見たミルスさんが慌て剣を取り上げた。
「あっ! 私の!」
「振り回すだけじゃなくて、凄い勢いで剣を飛ばしただろう。さっきの場所みたいに広かったらいいけど、ここでは危ないから」
「そっか、分かった」
グーミさんの元気な声に、複雑そうな表情をするミルスさんとアルースさん。
そんな3人の様子を不思議に思い首を傾げる。
「ぶんぶん振り回しては、あっちこっちに飛ばしてたんだよ。素振りをしていた2人にも飛んできてさ」
ラットルアさんが笑うと、ミルスさんとアルースさんが不服そうな表情を見せる。
「グーミ! 急に飛んできて、驚いたんだからな」
「うん、うん」
2人の会話を不思議そうに聞くグーミさんは、ミルスさんから剣を奪い返すと2人に笑いかける。
「さっきのもう一度しよう」
笑うグーミさんに、ミルスさんとアルースさんは慌てて首を横に振る。
「はははっ。たくさん練習したから、今日はもう終わろう」
ラットルアさんの言葉にミルスさんとアルースさんが頷く。
「グーミ、今日は終わりだって」
ミルスさんの言葉にグーミさんが、唇を突き出す。
あの表情は、不服なのかな?
「また、教えてもらおう? ねっ?」
グーミさんがミルスさんからラットルアさんに視線を向ける。
「もちろん。また教えるよ」
「やったぁ」
グースさんが嬉しそうに笑うと、アルースさんとミルスさんに飛びつく
「次はちゃんと飛ばすね」
「いや、飛ばさずに素振りして」
グースさんが楽しそうに言うと、アルースさんが首を横に振る。
それを見たグースさんが笑って剣を持ち上げる。
が、ミルスさんがさっと取り上げた。
「あっ! お兄ちゃん!」
「今日はお終い」
グースさんが剣を飛ばすの、ちょっと見てみたいな。
「よしっ、庭を片付けに行くぞ。道具とか出しっぱなしだから」
「「「はい」」」
ラットルアさんが子供達を引き連れて庭に向かう。
「あっ、フラフから伝言。『話は夕方で』って」
ラットルアさんは、セイゼルクさんが頷くのを見ると子供達と元気に庭に行った。
「夕方という事は夕飯の後かな。それまでゆっくりしようか。話が長くなるかもしれないから」
シファルさんの言葉に、全員が頷き部屋に向かう。
借りている部屋に入ると、息を吐き出す。
歩くのは慣れているので問題ない。
ただちょっと……研究所のあった場所を見て苦しくなった。
「大丈夫か?」
お父さんが私を覗き込む。
それに笑って頷く。
「大丈夫だよ」
「本当に?」
お父さんが私を見て、眉間に皺を刻む。
その様子を見て、頬に手を当てる。
酷い表情をしているのかも。
「体は大丈夫。体力もまだまだあるし。ただ、気分がちょっと……」
言い淀む私の頭をポンと撫でるお父さん。
「研究所が気になるのか?」
あれ?
どうして?
「気になるというか、苦しくなった」
私の言葉に優しい表情をするお父さん。
「そうか。夕飯まで、ゆっくりしよう」
「うん」
ソル達の入ってるバッグの蓋を開けると元気に出て来る皆。
あっ、シエルだ。
元気に飛び跳ねているので、問題なさそうだね。
「お茶を淹れたよ」
「ありがとう」
ソファに座って、お父さんが入れてくれたお茶を飲む。
少しだけ薄いお茶の味が、今は落ち着く。
「おいしい」
「それは良かった」
お父さんは自分が入れたお茶を飲み、少し顔を歪める。
「薄い。新しい茶葉にした方が良かったかな?」
お父さんの入れるお茶は、ほとんど味が薄めだ。
今のお茶の味なら、あと1回ぐらいは使うだろうな。
「いや、あと1回ぐらいは大丈夫か」
やっぱりね。
お茶を飲みながら悩むお父さんを見て頬が緩んだ。