951話 終わり? まだ?
951話 終わり? まだ?
布に縫われた魔法陣が、ソルによって無効化されていく。
それを皆で見ているのだけど、ちょっと変な光景だよね。
「ふふっ」
ソルに注目している皆を見回して笑ってしまう。
「どうした?」
お父さんを見て、やっぱり笑ってしまう。
それに首を傾げるお父さん。
「ソルを皆で見ているのがおかしくって」
この場所に来た時、私は凄く緊張していた。
お父さんの殺気や、バンガさんやジックさんの殺気も怖かった。
でも、参加すると決めたのは私。
だから、逃げずに頑張ろうと思った。
それが……まさかこんな緊張感のない感じになるなんて。
「確かに、意気込んできたわりには面白い状態になったな。この音も効果あるよな」
空間に響く「しゅわ~」という魔法陣を無効化させる音。
この音を聞くと、なんとなく力が抜ける。
皆も納得なのだろう。
お父さんの言葉に、笑顔で頷いている。
「まぁ、被害が出なかったんだから良いだろう」
ジナルさんの言葉にフラフさん達が頷く。
「それが一番よね。あっ、食事が終わったみたいね」
「ぺふ~」
ソルの満足そうな気の抜ける鳴き声に、全員が笑い出す。
「毎回、こんな感じの仕事が良いな」
バンガさんの言葉にジックさんが肩を竦める。
「無理だろう」
「まぁ、そうだけどな」
彼等は、裏の仕事を中心にしていると聞いた
きっと凄く大変なんだろうな。
「フラフ隊長」
フラフ隊長?
というか、気配がない。
声に視線を向けると、フラフさんが紹介してくれた精鋭達の1人みたいだ。
「どうしたの?」
「この場所を見張っていた者が複数いた。1人は捕まえたが、他の者には逃げられた」
えっ、それって大変な事なのでは?
「そう。呪具に関わった者が、逃げ出した可能性があるわね。捕まえた者に話は聞けそう?」
「毒で自害した。止める間もなかった。すまない」
「謝る必要はないわ。あなた達はしっかり仕事をしてくれたのだから」
「自害したという事は、スチューリス侯爵家の者か、他の貴族の者か。どちらにしても貴族に関わっているな」
ジナルさんの説明に首を傾げる。
自害だけで貴族に関わっている者と、どうして分かるんだろう?
お金で雇って……そんな人は自害をせずに情報を流して罪を軽くしようとするか。
契約している人なら話す事を防げるから、自害の必要はない。
ん~、あれ?
ジナルさんは貴族に雇われたとは言っていなかった。
確か「スチューリス侯爵家の者か、他の貴族の者か」だったよね。
えっ、貴族がわざわざ見張りに来たの?
「町から出て行った者がいないか調べて。緊急時に使用する扉の調査も」
「分かりました」
フラフさんの仲間が去ると、彼女は大きく溜め息を吐いた。
「綺麗に終われないみたいね。スチューリス侯爵家以外にも関わっていた貴族がある可能性は考えたけど、見つかった書類からは何も出なかったし。ジナルは気になる貴族がいる?」
「いや、俺が確認した書類からも何も出ていない。自害した者から、少しでも何か分かればいいが」
ジナルさんを見て、フラフさんは首を横に振る。
「ああいう者達は、何も残さないわ。まぁ、もしかしたらという可能性に掛けて調べるけどね」
既に諦めているような雰囲気のフラフさん。
そんな彼女の肩をポンと叩くジナルさん。
「俺に出来る事があるなら手伝うよ」
パッと表情を明るくしたフラフさんは、ジナルさんを見る。
「ありがとう。それじゃ――」
「にゃうん」
「シエル?」
そういえば、シエルの姿がなかった。
ソルの行動に気を取られ過ぎたな。
ズズッ、ズズッ、ズズッ。
今いる部屋はかなり広く、隅の方には灯りが届いていない。
その暗くなっている場所から、何かを引きずっている音がする。
「シエル。もしかして怪我をしたの?」
慌てて音の方に行くと、シエルが大きな木箱を前脚で押して来た。
ズズッ、ズズッ。
「違ったのか、良かった」
シエルの頭を撫で、木箱に視線を向ける。
「シエルって、スライムの名前だったよな?」
バンガさんが、興味深げにシエルと見る。
ジックさんは、ちょっと体が引いている様だ。
「おい、フラフ」
フラフさんを見たら、ジナルさんを壁にして呆れられていた。
「あっ、スライムのシエルと同じ子です。本来はこっちが本当の姿なんです」
シエルを紹介した時に、アダンダラだと言わなかったっけ?
「言っていなかったのか?」
お父さんが首を傾げると、ジナルさんも首を傾げた。
「寝不足と慌ただしさで、特に重要だと思わなかったから言い忘れたかもな」
ジナルさんが言うと、フラフさんが溜め息を吐いた。
「本当にここ数日は、慌ただしかったわよね。そろそろゆっくり眠りたいわ」
疲れた表情を見せる2人にバンガさんとジックさんも頷く。
私はゆっくり休ませてもらっているのでちょっと申し訳ない。
「にゃうん?」
「あっ、ごめんね。何を見つけてきたの?」
シエルが持って来た木箱に近付く。
「アイビー、待て」
お父さんが肩を掴むと、木箱から距離を取るように引っ張った。
「えっ?」
「何が入っているか分からない物に、無暗に近付いた駄目だろう」
そうだった。
前に注意をされた事がある。
「うん。ごめんね」
お父さんが、シエルを見る。
「この木箱に何か重要な物が入っているのか?」
「にゃ?」
お父さんの質問に首を傾げるシエル。
「分からないのか。でもここに持って来たという事は、この箱が気になったのか?」
「にゃうん」
シエルが木箱を前脚で叩く。
「そうか。調べてみるか」
「俺がやります。こういうのは得意なので」
ジックさんは木箱に近付くと、慎重に調べ始める。
「仕掛けを見つけましたが、魔力切れで作動はしないです。開けますね」
ジックさんがゆっくりと木箱の蓋を開ける。
「書類。それに魔石。あと呪具に使われた首飾りに似た物と……正方形の木の板ですね」
ジックさんの左にフラフさん、右にジナルさんが並ぶと一緒に調べ始める。
「この書類、呪具に必要な魔法陣の文字や印について書かれているわ」
フラフさんは書類を見て、少し興奮する。
「首飾りの形によって、呪具の効果に差があるみたいです」
ジックさんは、書類を見ながら首飾りを見比べている。
「木の板には、何もないみたいだ。ゴミか?」
正方形の木の板を持ち、首を傾げるジナルさん。
木箱に戻そうとすると「にゃうん」とシエルが鳴いた。
「えっ?」
ジナルさんがシエルを見ると、木の板に視線を向けていた。
「シエル。これは、ただの板だぞ」
木の板をシエルの前に持って来ると、角度を変えて見せる。
「ぺふっ」
なぜかそれにソルが反応を示す。
「えっ。ソルも?」
お父さんも気になったのか、ジナルさんから木の板を受け取り調べる。
「何か分かるか?」
「いや」
お父さんはジナルさんからの質問に、首を横に振る。
そして、チラッとシエルとソルを見て、もう一度木の板を見た。
「そういえば、魔石もあったな。魔石を見せてくれ」
ジナルさんがジックさんから魔石を受け取ると、少し調べる。
「他の魔石と違うところはないみたいだ」
魔石を調べ終わったジナルさんは、木の板を見た。
「一緒に入っていたという事は、木の板に関係している可能性があるよな。ソルの魔石みたいに、木の板と触れたら何か起こったりして」
木の板と魔石を交互に見たジナルさんは、そっと2つを近付けた。
なんとなく全員の視線が集まる。
バン。
「えっ?」
木の板と魔石が触れた瞬間、10㎝ほどの木の板が大きくなり床に落ちた。
「本?」
ジナルさんは小さく呟くと、本を手に取った。
私はジナルさんが持つ本を見て息を止める。
占い師さんがくれた本と同じ作りだ。