1035話 2日後に決定
1035話 2日後に決定
「それでは、2日後にお願いします」
オトガさん達が頭を下げると、依頼料の話し合いをしていた部屋から出て行った。
扉が閉まるのを見届けてから、お父さんに視線を向ける。
「お父さん、魔物の討伐料って、凄く高いんだね」
トースの巣を見つける事と、巨大化して凶暴化したノースの討伐は2日後に行うことになった。
そして、巨大化したノースの討伐料について、セイゼルクさんとオトガさんが話し合っていたけど、その金額はとても高かった。
「通常は冒険者ギルドが間に入って、相場を参考に金額を決める。でも今回は魔物が巨大化して凶暴化しているため、予想外の事態が起こる可能性を考えて、依頼者と直接追加料金を決めたんだと思う」
んっ?
「追加料金? 今話していたのは、追加料金なの?」
「そうだ」
気付かなかった。
つまり、すでに基本の依頼料が決まっていて、今話していたのはその追加分だったということか。
「まぁ今回の追加料金は、かなり高額だけどな」
セイゼルクさんを見ると、オトガさんと交わした契約書を眺めていた。
「それだけ困っているという事だろう」
シファルさんの言葉に、ラットルアさんとヌーガさんが頷く。
たしか「収穫しなければならない果物があるから急いでほしい」と言っていたね。
「ドルイド、シファル」
お父さんとシファルさんが、セイゼルクさんを見る。
「ノースの討伐に必要になりそうな物があったら準備して欲しい」
「分かった。でも、ノースの現状が分からないからな」
お父さんがシファルさんを見ると、彼は頷いた。
「巨大化したノースの欠点が不明だから、何を準備したらいいのか分からない。それに、ある程度の物は既に持っているから、それで対応できるだろう」
「それもそうか」
シファルさんの説明にセイゼルクさんが頷く。
「アイビー。悪いが、すぐに食べられる料理を準備しておいてくれないか?」
セイゼルクさんが私を見る。
「うん、分かった」
でも、必要かな?
果樹園の傍には、魔物除けをしていても入ってくる魔物の討伐や、盗みに来る人を捕まえる為に雇われた専属冒険者達の宿泊施設があるらしい。
そして今回、その冒険者達が使っている宿泊施設を、私達も使って良い事になった。
オトガさんの説明によると、調理場もあるようなので、食材を持っていけば問題ないと思うんだけど。
「アイビー、オトガの言った施設が使えない可能性もあるんだ」
セイゼルクさんが真剣な表情で私を見る。
「えっ?」
「果樹園を守っている専属の冒険者達が、俺達の邪魔をする可能性があるからだよ」
ラットルアさんの説明に、私は驚く。
「どうして?」
専属冒険者達は、強い魔物にも対応出来る上位冒険者だと聞いた。
でも、ノースの討伐は出来なかったみたい。
だからオトガさんは、より強い冒険者を求めて冒険者ギルドに依頼を出し、セイゼルクさん達がその依頼を受けた。
どう考えても、彼等が邪魔をする理由は見当たらないと思うけど……。
「冒険者の間違った矜持のせいだ」
「間違った矜持?」
お父さんを見ると、呆れた表情を浮かべていた。
「新たに冒険者を雇うという事は、果樹を守っていた冒険者達では対応出来なかった魔物が現れた事を意味する」
シファルさんの説明に頷く。
たしかに、その通りだね。
「本来なら、自分たちがまだ弱いと気づいて努力すればいいんだけど、自分の弱さや負けを認められない冒険者もいる。そうした者達は、新しく雇われた冒険者が討伐に失敗すれば、魔物が強すぎたのだと言い訳できると考え、わざと邪魔をしてくる事があるんだ」
「えっ、本当にそんな冒険者がいるの?」
呆れた表情でシファルさんとお父さんを見ると、二人は頷いた。
「そういう冒険者がいると、本当に面倒なんだよな。最悪な場合、討伐の邪魔をする事もあるから」
ラットルアさんがため息を吐く。
討伐はちょっとしたミスで命を落とす事だってあるのに、それを邪魔するの?
「信じられない」
「ほとんどの冒険者は真面目で、討伐に失敗した場合は、もっと強くなろうと努力する。でも、専属で雇われている冒険者達の中には、そうでない者もいるからな」
セイゼルクさん達は経験があるのか、顔を見合わせて苦笑した。
「経験者か?」
「あぁ、昔な。長い間、自分達が守ってきたという自負があるのだろうが、自分の弱さを認められない冒険者ほど厄介な存在はいない」
お父さんの質問にセイゼルクさんが力なく笑う。
「まぁ、昔のように『彼らの気持ちも分かるから』と様子を見守るのではなく、今回はすぐにオトガたちに対応してもらうつもりだ」
「俺達も若かったからな」
セイゼルクさんの言葉に、ヌーガさんが呟く。
「ドルイドはそんな冒険者に当たった事はないのか?」
ラットルアさんがお父さんを見る。
「あるよ。ただ、そういう冒険者はすぐに俺の前からいなくなったけどな」
いなくなった?
「何をしたんだ?」
セイゼルクさんが興味津々でお父さんを見る。
「……俺も若かったんだ」
お父さんが私をチラッと見る。
「んっ?」
そんなお父さんの様子に首を傾げる。
「そんな事より、帰ろう。食材も買って行かないと駄目だろう?」
お父さんが立ち上がって、部屋の扉を開ける。
これは聞いても答えてくれないだろうな。
「そうだね、料理の材料を買わないと」
皆よく食べるから、たくさん必要だね。
それに、2日後にノースが現れてすぐに討伐できればいいけど、もし姿を見せなかったり、討伐までに数日かかる可能性もある。
よし、1週間分の料理を作っておくことにしよう。
「アイビー、俺も一緒に作っていいかな?」
シファルさんが私の傍に来ると視線を向ける。
「うん。一緒に作ろう」
大通りでたくさんの食材を買って、フォロンダ公爵の屋敷に戻る。
「おかえりなさいませ。ドルイドさん、捨て場から弓がたくさん届きましたので、お部屋の前に置いておきました」
出迎えてくれたドールさんがお父さんを見る。
「ありがとう、助かります」
お願いしていた弓がもう届いたんだ。
早いなぁ。
「弓がどうしたんだ?」
シファルさんが不思議そうにお父さんを見る。
「ソラが弓を調べたいみたいだから、お願いしていたんだ」
お父さんの説明に、シファルさんだけでなくセイゼルクさん達まで不思議そうな表情になる。
「あっ、アイビーの弓を作る為か」
ラットルアさんがお父さんを見ると、笑顔で頷いた。
まぁ、間違いではないかな。
「ドールさん」
「はい、なんでしょうか?」
ドールさんが私を見る。
「フォリーさんに、調理場を貸していただけるかどうか、聞いてもらえますか?」
「問題ありません。すぐに使われますか?」
えっ?
「フォリーさんに聞かなくても大丈夫ですか?」
不安に思いながら尋ねると、ドールさんは笑顔でうなずいた。
「大丈夫です」
ドールさんが断言するなら大丈夫かな。
「明日のお昼ごろからお願いします」
「分かりました」
頭を下げ、去っていくドールさんを見送る。
「アイビー、2日後の準備を一緒にしようか」
「うん」
お父さんと一緒に部屋に戻って、私は弓と矢の準備をする。
その間に、お父さんがソラ達に2日後の事を話す。
「準備、終わったよ」
「こっちも話し終わったぞ」
討伐に持っていくバッグを、部屋の出入り口のそばに置いておく。
振り返ると、ソラ達が凄くやる気になっていた。
2日後なんだけどな。
「そうだ、アイビー」
「何?」
椅子に座り、お茶の準備をしているお父さんに視線を向ける。
「オトガ達の様子に気付いたか?」
オトガさん達の様子?
「あっ、顔を見合わせて困った顔をした事?」
「少し違うけど、変化には気付いたんだな」
椅子に座りながら、お父さんの言葉に首を傾げる。
「あれは、彼等の合図だと思う」
困った表情で顔を見合わせることが、合図なのだろうか?
「仲間内で決めておくんだ、目の動きや口の動きで伝える事を」
という事は、困った表情に見えたけれど、実際は違ったのかもしれない。
「そうだったんだ」
そういえば、以前冒険者達と手の形で合図を決めたことがあったけれど、それと同じかな?
「追加料金の話し合いの時も、オトガが息子たちに合図を送って確認していたし」
「えっ、本当に?」
「あぁ、手を使ってな」
見ていたのに、気付かなかったな。
「お父さん、よく分かったね」
「彼等の動きが、ちょっと気になったからな」
2日後にオトガさん達に会うけど、気になって手を凝視してしまいそう。
気を付けよう。