1037話 果樹園の冒険者達
1037話 果樹園の冒険者達
「おはようございます」
門で待っていたオトガさんに、セイゼルクさんが挨拶をする。
「おはようございます。今日からよろしくお願いいたします」
オトガさんはセイゼルクさんに頭を下げると、後ろにいる私達にも軽く頭を下げた。
今日から、森の中にある果樹園の周辺でトースの巣を探しながら、巨大化して凶暴化したノースの討伐を行う。
期間は最大で2週間。
その期間内に問題が解決しなければ、オトガさんとセイゼルクさんが話し合い、期間を延長するか終了するかを決めることになっている。
「では、こちらです」
オトガさんの案内で森の中を進む。
10分ほど歩くと、綺麗に並んで生えている木々が見えた。
「あそこが、私達が管理している果樹園です。まず最初に、果樹を守ってくれている冒険者達のリーダーを紹介しますね」
私は、オトガさんが管理している果樹園を見て驚いた。
「お父さん、かなり広い果樹園だね」
「そうだな。さすがに、こんなに広い果樹園だとは思わなかった」
果樹園の周りには、小さな川が流れている。
その川にかかっている橋を渡ると、2人の冒険者がいた。
「ただいま戻りました。問題はありませんでしたか?」
「おかえりなさい。果樹園の左奥にトースが現れたので討伐に向かいました。被害状況は今、アンガさんが確認しに行っています」
オトガさんの質問に、冒険者の1人が答える。
彼は、青い短髪に茶色の目をした、かなり体格のいい男性だ。
もう1人の冒険者は、少し長めの黒い髪を一つにまとめ、オレンジ色の目をした女性で、こちらも体格が良い。
「そうですか、分かりました。報告ありがとうございます。えっと、まずは紹介しますね、トースの巣とノースの討伐をお願いした【炎の剣】の方達と、協力してくれるドルイドさんとアイビーさんです」
オトガさんがセイゼルクさんを見ると、彼は頷き2人の冒険者に視線を向ける。
「『炎の剣』のリーダー、セイゼルクです。今日からしばらくの間ですが、よろしくお願いいたします」
2人に向かって軽く頭を下げるセイゼルクさんと一緒に、私も少し頭を下げる。
専属の冒険者達が私達を歓迎していないかもしれないと事前に聞いていたので、少しドキドキする。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。俺は冒険者チーム『ドン』のリーダー、ガターです。仲間はあとで紹介しますね」
「よろしくお願いします。私は冒険者チーム『青花』のリーダー、キャスです。私の方も、仲間はあとで紹介しますね」
「丁寧にありがとうございます。全員が揃ったら仲間を紹介しましょう」
簡単な挨拶が終わると、オトガさんが今日から寝泊まりする予定の宿泊施設に案内してくれた。
宿泊施設は2階建てで、想像していたよりも立派な建物だったため、少し驚いた。
「開いている部屋がありますので、ご自由にお使い下さい。私は、仕事がありますので、これで失礼します」
オトガさんが宿泊施設の隣にある建物に入って行く。
その建物に、彼の執務室があるそうだ。
「セイゼルクさん」
ガターさんがセイゼルクさんを見る。
「なんでしょうか?」
「中を案内しますね。と言っても、食堂とお風呂の場所だけですが。そうだ、空いている部屋ですが、2階に4部屋。1階は全て空いています。どの部屋を使いますか?」
ガターさんの案内で、食堂とお風呂の場所を確認する。
どちらも広めに作ってあって、居心地が良さそうだな。
「1階の空いている部屋は何部屋ありますか?」
セイゼルクさんはシファルさん達と少し話すとガターさんを見た。
「7部屋……あっ、1部屋は物置になっているから、使えるのは6部屋ですね」
ガターさんの説明に、セイゼルクさんがお父さんを見る。
「俺達は1階の部屋を借りるつもりだけど、ドルイド達も1階でいいか?」
「俺は良いけど、アイビーも1階でいいか?」
セイゼルクさんとお父さんが私を見る。
「うん、いいよ」
私の返事を聞いたガターさんが、セイゼルクさんに複数の鍵を渡す。
「これが1階にある部屋の鍵です。帰る時に返して下さい。あっ、仲間の紹介は夕飯の時でいいですか?」
「はい、いいです。案内をありがとうございました」
鍵を受け取ったセイゼルクさんが、私達を見る。
「部屋に荷物を置いたら、果樹園の周りの様子を見て回ろうか」
彼の質問に頷くと、部屋のある方へ向かう。
「あの!」
ずっと黙っていたキャスさんが急に声を上げる。
それに少し驚いて視線を向けると、彼女はなぜかお父さんをジッと見ていた。
「キャス?」
ガターさんが不思議そうな表情で彼女を呼ぶが、まったく反応しない。
「あの、それ!」
キャスさんに指を向けられたお父さんが首を傾げる。
「何か?」
「その剣です!」
キャスさんの言葉に、ガターさんが「あっ」と声を出す。
皆の視線が、お父さんが腰から下げている剣に向く。
「凄いですね。凄い力を感じます」
「えっ、ありがとうございます?」
キャスさんの勢いに、お父さんが戸惑った表情をする。
「その剣を――」
「キャス、待て。落ち着け」
キャスさんがお父さんに近付こうとすると、ガターさんが止める。
「すみません。キャスは武器、特に剣が大好きなんです。少し異常なほど」
最後に小さく呟いた言葉が気になる。
「お願いします。少しでいいので貸して下さい」
お父さんに向かって手を出すキャスさん。
その表情があまりに真剣なので、ちょっと怖い。
「駄目に決まっているだろう。武器は冒険者にとっては命だぞ」
「分かっているけど、あんな剣は見た事ないんだもの!」
嫌そうな表情でキャスさんを止めるガターさん。
そんな彼を睨みつけるキャスさんに、セイゼルクさん達が苦笑する。
キャスさんは、とても頼りがいのある冒険者に見えたんだけどな……。
「何を騒いでいるんだ?」
背の高い冒険者が2階から下りてくると、不思議そうに私達を見る。
そして、ガターに抑えられているキャスを見て、顔をひきつらせた。
「タタン、キャスを頼む」
「えっ、何があったんだ?」
首を傾げてガターさんとキャスさんを見るタタンさんと言う冒険者。
「キャスの気になる剣を、彼が持っているみたいなんだ」
ガターさんの言葉にタタンさんがお父さんを見て、その腰にある剣を見て溜め息を吐いた。
「俺達のリーダーがすみません。キャス、報告書を書かないと駄目だろう。行くぞ」
タタンさんがお父さんに頭を下げると、キャスさんの腕を掴む。
「え~、お願いします。ちょっとだけ、見るだけ!」
「「はぁ……」」
キャスさんの様子にガターさんとタタンさんが溜め息を吐く。
「まぁ、見るだけでしたら」
お父さんの返事に、キャスさんはパッと笑顔になる。
その傍で、深く頭を下げるガターさんとタタンさん。
「ありがとう」
「すみません。ほらっ、報告書!」
タタンさんに引っ張られるように去って行くキャスさん。
それを見送っているとガターさんがお父さんに視線を向けた。
「あの、本当に申し訳ありません」
「いえ、見せるだけならいいですから」
ガターさんは、お父さんが腰から下げている剣を見る。
それに気付いたお父さんは、良く見えるように剣を彼の前に出した。
「見ますか?」
「すみません。キャスの気になった剣が、どんなものか興味が湧いて。うわぁ、この魔石は……凄いですね」
剣に嵌っている魔石に気付いたのか、ガターさんが目を見開く。
そして、納得した様子で頷いた。
「キャスのあの反応が分かりました。魔石も凄いですが、この剣も素晴らしいですね」
ガターさんの言葉に、頬が緩む。
まるでソラが褒められているみたいで、嬉しいな。
私は、そっとソラ達が入っているバッグを撫でた。