1049話 ちょっと休憩
1049話 ちょっと休憩
「そちらの赤い実は、収穫をしてもいい頃だと思います」
「分かりました」
トンガさんが教えてくれた赤く熟した実を収穫する。
「うわぁ、凄くいい香り」
その赤い実に、傷がないか確かめてからカゴに入れる。
昨日、ドマさんがオトガさんにノースの事を報告すると、慌てた様子でオトガさんが外に飛び出してきた。
そしてマジックバッグの中のノースを確認した後、セイゼルクさんとシファルさんと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
そして今日の朝、セイゼルクさんから「疲れているだろうから今日は休み」という伝言を受け取る。
ただ、私も皆もそれほど疲れていなかったので、何をするか話し合っていると、キャスさんが「収穫を手伝ったら、熟し過ぎた物は無料で貰えるわよ」と言ったので、トンガさんに手伝いたい旨を伝えたら、快く受け入れてくれた。
「ラットルアさん、その辺りの青い実も収穫していいですよ」
「これですか? まだ収穫には早そうだけどいいのかな?」
トンガさんが指した青い実を見て、ラットルアさんが首を傾げる。
「それは収穫後に追熟させる果物なんです。だから、今が丁度いいんですよ」
「そうなんですね。分かりました」
ラットルアさんが楽しそうに青い実を収穫していくと、すぐに小さいカゴがいっぱいになる。
「ラットルア、カゴを変えよう」
お父さんが、青い実で一杯になったカゴと新しいカゴを入れ替える為ラットルアさんの傍に寄る。
「ありがとう。それにしても、このカゴ小さいよな。もっと大きいカゴを使った方が作業効率が良さそうだけど」
新しいカゴを受け取ったラットルアさんが、カゴを見て首を傾げる。
「大きいカゴを使うと底の方にある実が押しつぶされてしまう事があるから、あえて小さいカゴを使うみたいだ」
「あぁ、そういう事か」
お父さんの説明に頷くラットルアさん。
「ラットルアさん、私のカゴの方がもっと小さいよ」
赤い実の収穫が終わったので、2人の傍に寄ってカゴを見せる。
「あっ、本当だ。俺のカゴより小さい」
私が持つカゴを見て驚いた表情をするラットルアさん。
私もトンガさんからカゴを受け取った時は、同じように驚いたからね。
だって、実が1段しか並べられないほど小さなカゴだったから。
「収穫した物を、回収しに来ました」
振り向くと、果樹園で収穫の仕事をしている女性がいた。
「お願いします」
収穫した赤い実が入ったカゴを女性に渡すと、彼女はすぐに実の状態を確認する。
そして私に笑って頷くと、お父さんを見た。
「これは重いので俺が持っていきます」
「ありがとうございます」
女性はお父さんに頭を下げると、収穫した実が入ったカゴが集められている場所に向かった。
その後を、青い実がいっぱい入ったカゴを持ったお父さんが追う。
「そろそろお昼になります。休憩をしましょう」
トンガさんの声に、収穫していた人達が果樹園のあちこちで休憩を始める。
「俺達も休憩しようか」
お父さんの言葉に頷くと、休憩出来る場所を探す為に周りを見渡す。
「ラットルア、ドルイド、アイビー」
ヌーガさんの声に視線を向けると、彼は宿泊施設の方を指した
「セイゼルク達が帰って来た。報告があるから戻って来て欲しいって」
「分かった。俺はトンガに声を掛けてから戻るから、先に行ってくれ」
ラットルアさんはトンガさんを見つけると、彼に向かって走って行った。
「俺達は戻ろうか」
お父さんが私を見る。
「うん」
ヌーガさんと一緒に宿泊施設に戻ると、建物の外にセイゼルクさんとシファルさんがいた。
「お疲れさま」
お父さんの声に2人はこちらを見ると片手を上げた。
「休憩をしていなかったのか?」
セイゼルクさんが私を見る。
「そんなに疲れていなかったから収穫の手伝いをしてたの。熟し過ぎた物は貰えるって聞いたし」
「へぇ、それは魅力的だな」
私の言葉を聞いたシファルさんが、笑いながら言う。
セイゼルクさんも、興味が湧いたのか果樹園の方を見た。
「報告が終わったあとでも間に合うかな?」
「無理だろう」
お父さんの答えに、「無理か」と落ち込むセイゼルクさん。
この果樹園の果物は、森の奥でしか採れない物が多いから、魅力的だもんね。
「ここで報告を聞くのか?」
小さなカゴを持ったラットルアさんが戻って来ると、セイゼルクさん達を見て首を傾げる。
「ラットルアさん報告ありがとう。それは何?」
私がカゴを指すと、彼はニコッと笑う。
「今日の報酬」
つまり、熟し過ぎた果樹園の果物だ。
お父さんがラットルアさんの傍に寄り、カゴの中を覗く。
「熟し過ぎたというより、丁度食べごろって感じに見えるな」
「俺もそう思ってトンガに聞いたら、食べごろが今日だと駄目なんだって、移動する事を考えて2日後ぐらいが一番いいらしい」
あれ?
マジックバッグに入れておいたらいいのでは?
「マジックバッグは使わないのか?」
セイゼルクさんの質問に私も頷く。
「果樹の中には、マジックバッグと相性の悪い果物があるんだって。今回もらってきた果物がその代表で、マジックバッグに入れると甘味が半分くらい落ちて、腐るのも早くなるらしいんだ」
えっ、マジックバッグと果物に相性の悪いのがあるの?
正規版のマジックバッグだったら、食材は取れたてのまま保存できるし、さらに時間停止機能があるから、腐ることはないと思っていた。
「そんな話は聞いた事がないけど、本当なのか?」
シファルさんが驚いた表情でラットルアさんを見る。
「うん。トンガに確認したけど、本当だって言ってた」
私の収穫した実がどれも大丈夫だったのは、運が良かったからか。
「どうしました?」
オトガさんが執務室のある建物から出てきて首を傾げた。
「果物の事でちょっと」
「果物?」
セイゼルクさんの答えに不思議そうな表情をするオトガさんは、ラットルアさんが持っているカゴに視線を向け頷いた。
「あぁ、マジックバッグと相性の悪い果物の事ですか?」
「えぇ。本当なんですか?」
セイゼルクさんがオトガさんを見る。
「本当です。それを知らなかった頃、初めて収穫に成功したのに、マジックバッグに入れたせいで全ての実を駄目にした事があるんです。あの時は、本当に悔しかったですね。何十年もかけてようやく収穫できた実だったので」
それは、本当に悔しかっただろうな。
「あっ、執務室の準備は出来ましたので、ご自由にお使いください」
オトガさんの言葉に首を傾げる。
「報告があるから執務室を借りたんだ。あの部屋は、扉を閉めると外に声が漏れないから」
セイゼルクさんの説明に、皆の表情が引き締まる。
「それで?」
執務室に入り扉を閉めると、ラットルアさんがソファに座りながらセイゼルクさんとシファルさんを見る。
「昨日、ノースの事を冒険者ギルドへ報告したら、フォロンダ公爵に呼ばれた」
セイゼルクさんの話に、皆が集中する。
「前回俺達が報告した巨大化した魔物2匹と今回のノースは関連があった。森の中で見つけた人が手を加えたような洞窟。あれが原因なんだそうだ」
あの黒い壁の洞窟が?
「あれは魔物を強制的に強化するマジックアイテムだそうだ」
「えっ?」
セイゼルクさんの説明に声が漏れる。
「そしてあれは、戦時中に作られた物らしい」
戦時中って事は、昔の戦争の時に作られたって事?
「はっ? そんな昔の物なのか? でも、俺達が見つけた洞窟は、そんな昔の物には見えなかったぞ」
ラットルアさんが不思議そうに言うと、ヌーガさんも頷く。
「その辺りの事は俺に聞かれてもな」
セイゼルクさんが肩を竦めると、ラットルアさんが腑に落ちない表情を見せる。
「聞かなかったのか?」
「聞かなかったのではなく、聞けなかったんだよ。フォロンダ公爵の疲れた顔を見たら」
シファルさんが苦笑して言うと、セイゼルクさんが頷く。
「強大化して暴れている魔物は、他にもいたんだ。その問題の解決の為に、フォロンダ公爵は大変だったみたいだ」
セイゼルクさんの説明に、ラットルアさんが溜め息を吐いた。
「フォロンダ公爵に仕事が集中し過ぎだろ。他に、仕事ができる者はいないのか?」
ラットルアさんの呟きに、セイゼルクさんもシファルさんも肩を竦めた。