1104話 家族の自慢がしたい!
1104話 家族の自慢がしたい!
冒険者達が集まっている場所へ向かっていると、どよめきや歓声がはっきりと聞こえてきた。
「バスカだけでこの騒ぎなのかしら?」
ランカさんが不思議そうに呟くと、ラットルアさんも首を傾げる。
「ちょっと変だな」
皆も同じ気持ちなのか、不思議そうな表情を浮かべた。
「ガルガじゃないか。デカいな」
冒険者たちの声がはっきり聞こえてくると、「ガルガ」という魔物の名が聞こえてきた。
確か高さが2m弱で、二本足で飛び跳ね、頭に角がある魔物だったよね。
「バスカ以外の魔物もいるみたいだな」
お父さんの呟きに頷くと、シエルの尻尾が楽しげに揺れている事に気付いた。
「シエル、楽しみ?」
「にゃうん」
シエルのいつもより弾んだ鳴き声に、皆が思わず微笑む。
「おぉ、これは凄いのう」
先頭を歩いていたゴーコスさんが立ち止まって驚いた表情をした。
私はゴーコスさんの隣に並ぶと、冒険者ギルドの内を見渡す。
「うわ~、魔物がいっぱいいる」
さっきまで冒険者達だけだった空間に、さまざまな魔物がいた。
「これは、圧巻だな」
お父さんも驚いた様子で呟き、ギルド内に集まったさまざまな魔物を見つめた。
「あら? バスカがいないわね」
「ランカ、バスカは大きな魔物だ。さすがに中には入れないだろう」
ランカさんの呟きに、シファルさんが呆れた表情をする。
「そうだったわね。待って、ということは、大きな魔物は冒険者ギルドの外に集まっている可能性があるの?」
「まぁ、その可能性はあるな」
シファルさんの返答に、ランカさんの視線が冒険者ギルドの出入り口に向く。
「おぉ~アダンダラだ」
あっ、シエルに気付いたみたい。
「アダンダラがいるぞ」
「本当だ。遠出の依頼を断ってよかった~」
えっ、それは大丈夫なのかな?
シエルの存在に気付いた冒険者達が、私達を見て騒ぎ始める。
その声はどんどん大きくなり、拍手と歓声になった。
「ちょっと恥ずかしいね」
「にゃうん」
私の呟きに、シエルが視線を向ける。
たったそれだけなのに、なぜか拍手と歓声が大きくなった。
「王都に来てくれてありがとう」
「いつか見たいと思っていた魔物が、3種類も見られるなんて。王都に来て良かった~」
あっ、さっきの冒険者、王都の冒険者ではないみたい。
というか、泣いている……。
「想像以上の反応ね。ちょっと怖いわ」
ランカさんの呟きに、シファルさんが困った表情で頷く。
「ギルマス。これ、落ち着かせられるんですか?」
「大丈夫だと思う。信頼している上位冒険者達がほとんど集まっている。問題が起こりそうになったら止めてくれるだろう」
ギルマスさんの視線が、右側の目に大きな傷を持った冒険者に向く。
彼は、ギルマスさんの視線に気付くと、片手を上げた。
そして、彼の周りにいる冒険者達もギルマスさんを見ると、笑って頷いた。
「ギルマス。いったい何人のテイマーに声をかけたんじゃ? これはちょっと集まり過ぎじゃろう」
ゴーコスさんがギルマスさんへ視線を向ける。
「いや、俺は1人にしか言っていないんだ。だから、これは予想外で……」
ゴーコスさんの問いに、ギルマスさんが首を横に振る。
「悪い。俺のせいだ」
不意に聞こえた声に視線を向けると、緑色の長い髪を右側で一つに結んだ、黒い瞳の男性が申し訳なさそうにギルマスさんに頭を下げた。
「ヒス、どういう事だ? あっ、彼がバスカをテイムしたテイマーだ」
ギルマスさんの紹介に、ヒスさんが私達に頭を下げる。
「はじめまして。ヒスです。あとで俺がテイムしているチョンを見てくれ。可愛いから」
チョンがバスカの名前なんだろうな。
でも、本に載っていたバスカは厳つかったけど、本当は可愛いの?
「可愛い、か?」
ギルマスさんが複雑な表情で呟くと、ヒスさんが笑顔で頷く。
「可愛いじゃないか。あっ、コンもいるんだ」
「ウォン」
ヒスさんの紹介で、彼の後ろからオビツネが姿を現す。
「デカいな」
お父さんの呟きにヒスさんが嬉しそうに笑う。
「ちょっと標準より大きいけど、可愛いだろう? この子は子供の頃に出会ったんだ。動きも素早くて、狩りの手伝いもよくしてくれるんだよ。しかも、触り心地が凄くいいんだ」
ヒスさんがオビツネのコンの自慢話を始めると、なぜかコンが溜め息を吐いたように見えた。
「ヒス、落ち着け。お前の自慢話は長いんだよ。それより、こんなに魔物が集まった原因はヒスなのか?」
「うん。冒険者ギルドに来る途中で、知り合いのテイマーに会ったんだ。その時に、大切な仲間をお披露目して、皆に自慢して来るって言ったら、自分も自慢したいと言って来ちゃったんだ」
「ははっ、なるほどな。皆、自分の仲間を自慢しに来たのか」
「たぶん、そうだと思う」
ギルマスさんとヒスさんの会話を聞きながら、魔物の傍にいる冒険者達に視線を向ける。
確かに、周りの冒険者にテイムした魔物について話しているみたい。
「ウォン」
すぐ傍で聞こえた鳴き声に視線を向けると、ヒスさんのテイムしているコンがいた。
「どうしたの?」
「ウォン」
コンが私に向かって頭を向ける。
「撫でて良いの?」
「ウォン」
コンの頭をそっと撫でると、コンが気持ちよさそうに目を細めた。
「えっ」
ヒスさんの驚いた声に視線を向けると、私とコンを見て固まっていた。
どうしたんだろう?
「にゃうん」
シエルの鳴き声に、コンが視線を向ける。
「ウォン」
「にゃうん」
「ウォン」
「にゃうん」
会話をしているように鳴く2匹に、思わず微笑んでいると、ヒスさんが私の傍に来た。
「仲良くなっているみたいだね。コンは、人にも魔物にもなかなか慣れてくれないのに」
ヒスさんの説明に首を傾げる。
「そうなんですか? すぐに傍まで来てくれて、頭を撫でさせてくれたけど」
「あれには驚き過ぎて固まっちゃったよ」
ヒスさんが笑って言うと、コンの頭を撫でる。
「アイビーさんの事を気に入ったのか?」
「ウォン」
そうか、コンは私を気に入ってくれたのか。
「ヒスさん、お願い」
ランカさんが、ヒスさんの傍に来る。
「はい、なんですか?」
「バスカを撫でさせて!」
ランカさんのお願いに、ヒスさんが笑って頷く。
「いいですよ、外に待機してもらっています。行きましょうか」
ヒスさんの返答に、ランカさんが嬉しそうに笑って頷く。
冒険者達の間を通って冒険者ギルドの外に向かっていると、冒険者達から拍手や「ありがとう」と感謝の言葉をかけられる。
中にはなぜか、シエルに向かって頭を下げたり、泣いている冒険者までいた。
「本当に凄い反響ね。それに、上位冒険者達がしっかり制御してくれたみたいで安心だわ」
ランカさんがある方を見て呟く。
そちらを見ると、冒険者達が複数人集まっていた。
「きゃぁ~、すっごい~」
冒険者ギルドの外に出ると、ランカさんが興奮した様子で叫んだ。
私もさすがに、予想外の光景に呆然とした。
「イッカクギまでいるぞ」
お父さんの視線を追うと、額に大きな角を持つイッカクギが見えた。
尻尾までの大きさは4mくらいあり、尻尾の先には鋭い角が見えた。
「まさか、レアのイッカクギまでいるとはな」
シファルさんの呟きに、ヌーガさんが無言で頷いた。