1105話 可愛いですよ
1105話 可愛いですよ
「ちょっとギルマス! ヒスに声を掛けて、私に声を掛けないなんてありえないでしょ!」
一緒に外に出てきたギルマスさんに、ヌーガさんに匹敵する体格の女性が声を掛けた。
「悪い。王都に、戻って来ていると知らなかったんだ」
「まぁ、そうでしょうね。帰ってきたのは1時間くらい前だから」
女性の言葉を聞いて、ギルマスさんは少し不貞腐れた表情を浮かべた。
「だったら怒られる理由はないだろう?」
「ルールの変更を知らせなかったのも駄目ね」
「いや、それは周りを説得するのに時間が掛かったからだ。前に会った時は、いつルールの変更ができるか不透明だったからな」
ギルマスさんの話に、女性が首を傾げる。
「誰か反対したの?」
「商業ギルドに所属している連中だ。大通りを巨大な魔物が歩き回ったら、人が逃げるとか言い出してな」
ギルマスさんがそう言いながら、周りを見る。
「奴らの予想は外れたな。バスカとイッカクギが、人寄せになっているみたいだ」
ギルマスさんの言う通り、バスカとイッカクギを見るためだろう。
かなりの人が大通りに集まって来ていた。
「やっだ~、それが王都を守ってくれたアダンダラね。それにスライム達もいたのね。皆、レアスライムって凄いわね~」
女性の視線が、私の傍にいるシエルとソラ達に向く。
「あなたがテイマーかしら?」
女性が傍に来て、私を見る。
「はい。テイマーのアイビーです。この子はシエルです。青い子はソラ。赤い子がフレム。黒い子がソルです」
ギルマスさんと親しい人なら問題ない人だと思う。
ソラの様子を見ても、興味津々に女性を見ているし。
「私はミミーナよ。イッカクギはデズというの、よろしくね」
ミミーナさんが私に手を差し出す。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ミミーナさんの手を握ると、剣を扱うお父さんの手のように硬かった。
「ふふふっ。私は剣も使うの。けっこう強いのよ」
ミミーナさんの手の硬さに少し驚いたのがわかったのか、彼女が笑って教えてくれた。
「アダンダラだ。ここで見られるなんて……」
「バスカとイッカクギと比べると小さいんだな」
「でも、あの中ではアダンダラが一番強いんだろう?」
集まってきた人達もシエルに気付いたのか、話題に上がり出した。
その中で聞こえた言葉に、私はバスカとイッカクギを見る。
「お父さん、バスカとイッカクギよりシエルの方が本当に強いの?」
見た目からはバスカとイッカクギの方が強そうに見える。
「にゃ!」
お父さんが答える前に、シエルから不満そうな鳴き声が聞こえた。
シエルを見ると、不満げにジッと私を見つめている。
「ごめん。でも、大きさもバスカとイッカクギの方が大きいでしょ? それにバスカは魔法が得意で凄く強いみたいだし、イッカクギは巨体なのに俊敏に動いて、尻尾の角での攻撃も凄いと本に書いてあったから」
私の説明に、シエルはバスカとイッカクギを見る。
そしてフンと鼻息を荒くすると、バスカとイッカクギに近付いた。
「シエル、どうしたの?」
私の呼びかけに、シエルは尻尾を少し激しく左右に揺らす。
「あ~、あれはデズ達を威嚇しに行ったのかしら」
ミミーナさんの言葉に、私は驚いて彼女を見る。
「威嚇ですか? どうしよう。ごめんなさい。こんなに怒るとは思わなくて」
「にゃうん」
シエルは、バスカとイッカクギの傍で立ち止まると、2匹に向かって少し低めの鳴き声を上げた。
バスカとイッカクギは、シエルを見ると、少しだけ後ろに下がり頭を低くした。
「うわ~、これは凄いわね」
ミミーナさんが面白そうな表情で呟くと、ヒスさんも興味深げに3匹の様子を見ている。
「にゃうん」
シエルが私を見て自慢げに鳴く姿に、私はどうしたらいいのか迷い、お父さんを見る。
「シエルは、自分の強さをアイビーに証明したんだと思う、だから褒めてあげたらいい」
「そうよ、褒めてあげて。たぶん『どう? 強いでしょ?』と言っているんだから」
お父さんの言葉に、ミミーナさんも笑って言う。
「強さの証明……そっか」
3匹の様子を思い出して頷くと、シエルを見る。
「シエル、強いんだね。疑ってごめんね」
「にゃうん」
満足気に鳴くシエルに、ミミーナさんが両手で顔を覆う。
その行動が不思議で見ていると、ギルマスさんが呆れた表情をした。
「アイビー、これは放置していいぞ」
「ちょっと、放置って何よ。それにこれって言わないで」
ギルマスさんを見て不機嫌な表情をするミミーナさん。
「どうせ『シエルがかっこいいのに可愛い、最高』とか思って悶絶しているんだろう」
ギルマスさんの説明に、ミミーナさんは少し恥ずかしそうな表情をする。
「確かにシエルって、かっこいいのに可愛いよな」
ヒスさんの呟きに、ミミーナさんが何度も頷く。
「本当、シエルは可愛いわよね。でもデズも可愛いと思わない?」
ミミーナさんの言葉に、私はデズを見る。
大きな体に少し威圧を感じる気配がするけど、さっきから心配そうにミミーナさんを見つめている。
「そうですね、デズも可愛いです」
心配そうにミミーナさんを見ているデズは、確かに可愛い。
「チョンも可愛いだろう?」
ヒスさんがバスカのチョンに視線を向けると、嬉しそうに微笑む。
「はい、そうですね」
冒険者ギルドの外に出た時、バスカのチョンとオビツネのコンは鼻先を当てて挨拶のような事をしていた。
その姿はとても可愛かった。
「アイビー」
「はい?」
ギルマスさんの呼びかけに視線を向けると、彼は神妙な表情で私を見ていた。
「どうしたんですか?」
「チョンとデズは可愛いか?」
「はい。可愛いと思います」
ギルマスさんの質問の意図がわからず、首を傾げながら答える。
「……そうか」
ギルマスさんは、チョンとデズを見て小さく頷いた。
「テイマーって、ちょっと変だよな」
ギルマスさんの小さな呟きに、お父さんが笑い出した。
「お父さん、どうしたの?」
「ギルマスは、チョンもデズも可愛いとは思えないんだよ」
「えっ?」
お父さんの説明に、私はもう一度チョンとデズを見る。
2匹は、傍に来たヒスさんとミミーナさんに甘えるようにすり寄っている。
その態度や2匹の出す雰囲気が、本当に2人を大切に思っている事がわかるので、思わず笑ってしまう。
「可愛いじゃないですか」
「にゃうん?」
戻ってきたシエルが私の傍に来る。
「ぷっぷ~?」
「てりゅ?」
「ぺふ?」
皆の視線を受け、私は思わず微笑む。
「もちろん、皆可愛いよ」
シエルから順番に頭を撫でると、皆は満足そうな表情を見せる。
「ドルイドさん。反対側の角にある肉屋を見てみんしゃい。その陰に冒険者が4人ほど隠れておる」
ゴーコスさんが静かにお父さんに声を掛ける。
お父さんはゴーコスさんの様子から、相手にバレないようそっと反対側に視線を向けた。
私はソラ達を撫でながら、チラッと視線を向け、すぐに視線をソラ達に戻した。
「いますね。随分と敵意のある目でこちらを見ていますよ」
「あ奴らが、さっき言っていた奴らじゃ」
「彼らが……」
「冒険者ギルド内で暴れていた魔物。あの魔物、気付いたらいなくなっていたみたいですよ」
お父さんとゴーコスさんの会話に、傍にいた冒険者が加わる。
お父さんが少し驚いた表情をすると、冒険者はお父さんに向かって小さく頭を下げた。
「上位冒険者のドゴアです。驚かせたみたいですみませんね」
ドゴアさんの言葉に、お父さんが首を横に振る。
「今の話は本当かのう?」
ゴーコスさんがドゴアさんを見ると、彼は頷く。
「えぇ、冒険者ギルドを襲った翌日にはいなくなったみたいです。まぁ、自業自得でしょう。嫌がっているのを無理矢理暴れさせたんですから」
ドゴアさんの説明に、私は眉間に皺を寄せる。
「無理矢理だなんて、ありえない」