1108話 テイマー、キャス
1108話 テイマー、キャス
シエルやソラ達をバッグから出し、大通りを歩くと、小さな歓声があちこちで上がる。
それに少し慣れてくると、かわいらしい声が聞こえた。
「きらきら、きれー」
小さな女の子の声に視線を向けると、ソラとフレムを見て嬉しそうに笑っている。
「お母さん、きれいだね」
女の子と手をつないでいる女性が、女の子を抱き上げて笑う。
「そうね、太陽の光できらきらしていて綺麗ね」
「うん」
「ぷぷ」
「てりゅ」
女の子の声が聞こえたのか、ソラとフレムが嬉しそうに鳴きながら大きく飛び跳ねた。
「おお~」
なぜか、女の子の傍にいた男性達から歓声が上がった。
「皆の反応が面白いよな」
ランカさんと一緒に先頭を歩いていたラットルアさんが、私の隣に来る。
「皆、興味津々だね」
「話題のアダンダラだからな」
私の言葉にラットルアさんは笑って頷く。
「ラットルアさん、シファルさんとヌーガさんを待たなくてよかったの?」
シファルさんとヌーガさんは、ギルマスさんを呼びに来た冒険者のところに行ってしまった。
「それは気にしなくても大丈夫。それに、情報を聞いた後で、ほかの情報も集めてくるだろうから。待っていたら、いつ帰れるかわからないよ。そうだ! アイビーは、フォロンダ公爵の屋敷を出たいのか?」
ラットルアさんの問いに、私は少し驚く。
この話をしていた時に、ラットルアさんは傍にいなかったのに。
「うん、いつまでもお世話になりっぱなしはいけないと思って」
綺麗で大きな部屋に無料で泊まれて、しかも食事代だって払っていない。
「気にする必要はないと思うけどな。それに、出ていくと言ったらすっごく悲しむと思うよ」
ラットルアさんの言葉に、お父さんも笑って頷く。
「お父さんも、そう思うの? でも、宿に移る話はしていたよね?」
「あぁ、悲しむと思う。あと、王都の宿に移ろうと言っていたから、戴冠式後にドールさんに相談したんだ。『王都が落ち着いたら宿に移るつもりなので、どこかいいところありますか』と」
「そうなの? 知らなかった」
「お勧めの宿を聞いてからアイビーに言うつもりだったからな。でも『ここよりいい宿はありませんよ。それに、ほかの宿に移りたいと言われると、我々の接客に問題があったのではないかとフォロンダ公爵に怒られてしまいます。もしや、我々に何か問題がありましたか? ないのでしたらこのままでいいですよね?』と聞かれたんだ。その時のドールさんは、有無を言わせない雰囲気があって、思わず『このままでいいです』と答えてしまったんだよ」
お父さんの説明に、ラットルアさんが神妙な表情を浮かべる。
「ドールさんって、時々、従わないといけない雰囲気を出すよな」
「えっ、そう?」
私はそんな風に思った事はないけどな。
「アイビーには、見せていないのか。まっ、王都にいる間はフォロンダ公爵に甘えたらいいよ」
ラットルアさんが私を見て笑う。
「いいのかな?」
なんとなく落ち着かないんだよね。
「あら? あの子達は……」
大通りを抜けたあたりで、先頭を歩いていたランカさんが足を止める。
彼女の視線を追うと、冒険者の格好をした男性が2人と女性が1人いた。
「あっ、ランカさん。連絡をもらっていたのに、遅くなってすみません」
連絡という事は、相談してきたテイマーのキャスさんと親しい人達かな?
「大丈夫よ。ドルイド、一番右側にいる男性が相談してきたキャス、真ん中の女性がテイマーのハース。左にいる男性は冒険者のタンタよ」
ランカさんの説明に頷きながら、お父さんは3人を観察する。
「ランカさん、キャスが変な相談をしたみたいですみません。こいつ、ちょっと……いえ、かなり人見知りで」
タンタさんの説明に、ランカさんがキャスさんを見ると、キャスさんは困った表情で頭を下げた。
「すみません。あの時は、混乱もあって、すごいテイマーと一緒にいたランカさんに相談すればいいんだろうと思って」
凄いテイマーって、ランカさんに相談したって事は、私の事でいいのかな?
キャスさんがチラッと私を見て、傍にいるシエルを見て「本物だ」と小さく呟いた。
「キャス」
ハースさんに名前を呼ばれたキャスさんは、ハッとするとシエルから視線を彼女に向けた。
「聞きたい事があったのでしょう?」
ハースさんの言葉に、キャスさんが頷く。
「あの時、俺、どこまで話しましたか?」
「えっ?」
キャスさんの問いに、ランカさんが首を傾げる。
「ランカさん、ごめんなさい。キャスは初対面の人というか、慣れない人と話すと緊張してしまって、言い方を間違えたり必要な事を話し忘れるみたいなんです。相談した時の事も途中から怖くなって、何を話したのかうろ覚えで……」
「そういえば、依頼を受ける時も話したというより、頷く程度だったわね」
「人見知りで緊張しやすいのか」
ランカさんとハースさんの会話を聞いていたお父さんが小さな声で呟く。
ラットルアさんも同じ感想なのか、頷いている。
「あの時キャスさんは『テイムしている魔物の様子が少しおかしいんです。ランカさん達と一緒に行動しているテイマーがいると思うのですが、何か知りませんか? それと、テイムしているアダンダラに変化はありませんか?』って聞いたのよ」
「そうなんですね」
ランカさんの言葉に、キャスさんが頷く。
「他には何を言いましたか?」
「他に?」
キャスさんの問いに、ランカさんが不思議そうな表情を浮かべる。
「えっ、それだけですか?」
ランカさんの表情を見た、キャスさんが戸惑った表情をする。
「えぇ、そうよ。他にも話があったの?」
「はい。…………」
キャスさんはランカさんの問いに返事をすると、なぜか黙り込んでしまう。
そして困った表情をするとハースさんを見た。
「キャス。頑張って」
ハースさんの応援を受けて、キャスさんは小さく頷くとランカさんを見る。
「依頼の報告があって、商人と商人が話していて、道具でおかしくさせる。ばらまく。えっとあとは、混乱させている時にだったかな? それと、魔物がいい」
んっ?
キャスさんの話にランカさん達が首を傾げる。
ハースさんとタンタさんは、ちょっと困った表情でキャスさんを見ている。
「あのランカさん」
タンタさんがランカさんを見る。
「はい」
「キャスが依頼を終えた報告へ行くと、依頼を出した商人と別の商人との会話を聞いてしまったんです。その会話の中に、『魔物をおかしくさせる道具がある』や『ばらまく』という言葉が聞こえたそうなので、おそらく、魔物をおかしくさせる道具を王都にばらまく、といった意味だと思います。あと、『混乱させる時に』と聞こえたみたいなので、王都を混乱させて何かするつもりなんだと考えられます」
「あぁ、なるほど」
ランカさんがキャスさんを見ると、キャスさんはほっとした表情で頷いていた。
「話すのも苦手なのね」
ランカさんの呟きに、キャスさんが困った表情で頷く。
「すみません」
「別に謝る必要はないわよ。悪い事ではないんだから」
ランカさんがそういうと、キャスさんは少し驚いた表情をした。
「キャスはそれを聞いて、とりあえずアダンダラがおかしくなったら大変だと思ってランカさんに思い切って声をかけたみたいです。でも、話している途中で怖くなって逃げたと言っていました」
ランカさんは、ハースさんの説明に困惑した表情を浮かべる。
「そう。でも、あの相談内容で?」
「たぶん、『テイムしている魔物の様子が少しおかしいんです』は、キャスがテイムしている魔物がおかしい事を伝えようとしたんだと思います。『ランカさん達と一緒に行動しているテイマーがいると思うのですが、何か知りませんか?』は、治療方法を聞こうとしたのかと思います。『それと、テイムしているアダンダラに変化はありませんか?』は、心配して聞いたんだと考えられます。重要な商人については、緊張しすぎて完全に忘れてしまったのかと……」
「そう、なるの……」
ハースさんの説明に、ランカさんがなんとも言えない表情で頷く。
キャスさんは下を向いてしまったけれど、耳が真っ赤だった。