1113話 フォロンダ公爵と魔法陣3
1113話 フォロンダ公爵と魔法陣3
ーフォロンダ公爵視点ー
「そうそう。その研究員なんだけどねー」
「何かあるのか?」
クースを見ると、眉間に皺を寄せていた。
「オートスと仲がいいんだよ。俺のほうが一緒にいる時間が長いのにー」
あぁ、悔しいのか。
「そうか」
「あっ、そんな事だと思っているだろー」
「……」
「まぁいいけどさー。そうだ。木の魔物が魔法陣を見つける方法だけど」
「わかったのか?」
「うん。オートスに聞いた。土の中に流れる魔力というのは静かで歪みがないらしい。でも魔法陣が発動すると、周囲の魔力を勢いよく吸収するから、魔力の流れが歪むそうなんだ。木の魔物はその歪みを根で感じて、魔法陣の場所がわかるみたいだね」
魔力を奪われるから流れが歪むんだろうな。
「あと、魔法陣は発動する前に、準備段階のようなものがあって。その準備段階から周りの魔力を吸収していて、ある程度魔力が溜まると魔法陣が発動段階に入るみたい」
魔法陣には準備段階があるのか。
知らなかったな。
「それもオートスから聞いたのか?」
「うん。魔法陣が近くにある場合、準備段階で無効化出来ると言っていたよ」
「木の魔物は、なぜ魔法陣を無効化して回ってくれているのか、それをオートスに聞いた事はあるか?」
「うん、俺も気になっていたから聞いたよー。オートスの答えは『お願いされたから』だった」
クースの言葉に、俺は首を傾げる。
「お願い?」
誰が木の魔物にそんな願いを伝えたんだ?
それに、1体や2体の木の魔物ではなく、もっと多くの木の魔物が魔法陣を無効化してくれている。
どうやって木の魔物全体に願いを伝えたんだ?
「それは、わからない。俺はオートスに『魔法陣を無効化するのは使命なのか』と聞いたんだ。木の魔物が森を守っているように感じたから」
「あぁ、それで」
「根を左右に振って、違うと教えてくれた。あとは、黒のスライムには魔法陣に込められた魔力が『ごはん』だから、木の魔物にとっても『ごはん』なのかと。まぁ、あとで考えたら愚かな質問だよね。魔法陣を無効化すると、黒くなって最後は死んでしまうのに『ごはん』って……」
「ごはんではなかったんだな」
「うん。あとは成長に必要だとか、他の木の魔物と無効化出来る数を競っているとか……本当にありえない質問だよねー」
聞く事がなくなってきたんだろうな。
「で、何を聞いても『違う』だったから疲れてしまって……最後に『誰かにお願いされたとか』って聞いたら、肯定したものだから驚いたよー」
「そうか」
「誰かについても聞いたんだけど、今もわからないままなんだよねー」
クースは少し悔しそうに呟くと、小さく溜め息を吐く。
「あと少しでわかりそうなのにねー」
「魔法陣の見つけ方、そして無効化するのが誰かの願いだという事がわかったのも、凄い事だ」
「あとさー。オートスというか、木の魔物は知っていたよ」
クースが下を向くと、小さな声で呟く。
「何を?」
「魔法陣を無効化すると死ぬ事を」
「そうか、知っているのか……」
木の魔物は、それを知りながら無効化してくれていたのか。
「うん。……木の魔物は誰の願いを叶えているんだろうねー」
クースの呟きに、木の魔物が大切にしているのが誰なのかを考えてみるが、木の魔物について知っている事が少なく、誰も思い浮かばなかった。
「アマリ」
「はい」
後ろに控えているアマリを見る。
「誰か想像出来るか?」
俺の問いに、アマリは首を横に振る。
それに俺は頷くと、視線を魔法陣に向けた。
「あれ?」
「どうしたのー」
俺の声が聞こえたのか、クースが不思議そうに俺を見る。
「木の魔物が魔法陣を無効化しているとわかったのは、いつごろからだった?」
「ちゃんとわかったのは最近だね。でも、過去の資料や報告書を読むと『もしかして』といった記述が見つかっているから、昔からだと思うよー」
「つまり木の魔物達は、昔の誰かの願いを、今も続けているという事にならないか?」
俺の問いに、クースはハッとした表情になった。
「そう、なるね……」
過去の人物か。
キーラの残した日記をもう一度読み返してみよう。
少しだけど、木の魔物についても書いてあった筈だ。
「しゅ~に~ん」
クースを呼ぶ声に、彼は研究所のほうへ視線を向ける。
「誰だ?」
俺も気になったので見ると、肩までの真っ赤な髪を持つ、背の高い女性がクースに向かって手を振っていた。
「研究員のアーシャです」
「実験は、全て成功です! あの本にあった通り、魔法陣は安全に使えます」
アーシャの言葉に、俺はクースを見る。
「魔法陣は、戦時中に大切な家族を守りたいという思いで作られた物なんですよー。ジナルさんが持ってきてくれた魔法陣について書かれた本に、書いてありました」
ジナルが持ってきた本か。
あれには、魔法陣の基礎が載っていると聞いたが、作られた経緯も載っていたのか。
「魔法陣が負の遺産になったのは、魔法陣を最悪な形で利用した奴らのせいだ」
トースを見ると、真剣な表情で庭に描かれた魔法陣を見つめていた。
「魔法陣は悪くない」
「そうだな」
「失礼します」
先ほどトースを大声で呼んだアーシャが、我々の傍に駆けてくる。
そして、傍まで来ると一枚の紙を俺たちの前に広げた。
「これが魔法陣を安全に使うための基本形ですか?」
トースの問いに、アーシャが嬉しそうに笑って頷く。
「はい、そうです。この形が、魔法陣を安全に使うための基本形です。実験はすべて問題なしという結果が出ました」
アーシャが広げた紙には、丸ではなく、四角い形の魔法陣が描かれていた。
「四角の隅に魔石を組み込みます。その魔石の魔力を使って魔法陣を発動させる仕組みです。それほど大きな魔法は使えませんが、防御にかなり役立つと思います」
「防御に? どれくらいの力があるんだ?」
アーシャの説明が気になり、俺は思わずアーシャに聞いてしまった。
「レア以外の上位魔物の1回か2回の攻撃なら完全に防げる筈です」
「そんなに?」
森の中で運悪く上位魔物と遭遇してしまい、逃げ切れずに亡くなる下位冒険者や中位冒険者を減らせるかもしれない。
「はい」
アーシャの自信満々の返答に、四角い魔法陣を見つめる。
「この魔法陣はこの大きさが必要なのか?」
「いいえ、道具に仕込むのでもっと小さく描けますよ。魔石も、それほど大きなものを必要としません。ただ、魔石のレベルですが4は欲しいところです」
レベル4の魔石か。
魔法陣に組み込むなら大きさも重要になってくるだろうな。
でもレベル4の魔石なら、それほど高くはなかった筈だ。
「レアな上位魔物の攻撃は全く防御出来なかったのか?」
「いえ、そうではなくて……」
俺の問いに、アーシャが困った表情をする。
「フォロンダ公爵」
トースに呼ばれ視線を向けると、なぜか呆れた表情を浮かべていた。
「なんだ?」
「実験に協力してくれるレアな上位魔物なんて、いないからね」
「んっ? イッカクギやバスカに協力をお願いしたらどうだ?」
俺の言葉に、トースが肩を竦める。
「彼らって、もの凄く忙しいんだよねー。実験は、数時間で終われるものではないし。時間の調整が難しいんだよ。最近は、捨てられた大地の事もあって、忙しさに拍車がかかっているからねー」
「あ~、そうだったな」
捨てられた大地の魔法陣が動き出し、魔物が影響を受けて暴走するので、レアな上位魔物をテイムしているテイマー達には対応をお願いしていたんだったな。