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1123話 研究員と魔法陣

最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。 — ncode.syosetu.com · All chapters

1123話 研究員と魔法陣

「これはどうやって動かすんだ?」

お父さんの問いに、今まで黙っていた白衣を着た40代くらいの男性が手を上げた。

「私が動かします」

「彼は魔法陣研究所の研究員でジースだ。この道具を作った一人だ」

ギルマスさんが、ジースさんを紹介すると、彼は私達に向かって頭を下げた。

「今日はよろしくお願いします。動かし方でしたね」

ジースさんはギルマスさんから白い球を受け取ると、両手で持ち、左右の手を反対方向にひねると、球は半分に割れた。

「これを見てください」

ジースさんが白い球の中を見せると、右側には四角い枠の中に文字や絵が描かれていた。

「それが魔法陣なのか? 今までの魔法陣と形が違うな」

シファルさんの問いに、ジースさんが頷く。

「はい。様々な研究をした結果、魔法陣は形も重要だとわかりました。そしてこの四角い枠が、安全に魔法陣を使うために必要な要素の1つなんです。他にも必要な文字や絵もありますが……詳しく説明したほうがいいですか?」

ジースさんがシファルさんを見ると、彼は首を横に振った。

「いや、必要ない。それとも知っておいたほうがいいのか?」

「えっ、どうでしょうかね?」

シファルさんがジースさんを見ると、彼は困った表情でギルマスさんを見た。

「今は必要ないだろう」

ギルマスさんの返事にジースさんは頷くと、魔法陣が描かれた半球ではなく、残りの半球の中を私達に見せた。

「そしてこっちには、魔石を埋め込んでいます。この魔石は取り外し可能で、魔石の魔力が尽きたら、別の魔石に入れ替えます」

二つに分けた球を元の形に戻すと、くるくると回し、突起を見つけると私達に見せた。

「そして、これがボタンです。このボタンを押すと、魔石が魔法陣のある部分に触れます。そうすると、魔石の中にある魔力が魔法陣に移動して、魔法陣を発動させます。今回使った魔石は奮発してレベル3なので、えっと発動している時間は……2時間くらいだったかな?」

「知らないのか?」

ジースさんの言葉に、ギルマスさんが眉間に皺を寄せる。

「魔石レベルと使用時間の実験には参加していないんですよ。別の実験に参加していたので。でも実験結果の報告書に、レベル3の魔石使用の場合、約2時間と書いてあった筈です」

「そうか。2時間か」

「足りなかったら、替えの魔石を持ってきているので大丈夫ですよ」

「てりゅっ~」

フレムの鳴き声に視線を向けると、いつの間にかジースさんの足元にいた。

そして、興味深げに、彼が持つ白い球を見ている。

「どうしたの?」

ジースさんがフレムを見て首を傾げる。

「フレム」

「てりゅっ!」

私の呼びかけに、なぜか満足げに鳴いて私のところに来るフレム。

その行動の意味がわからず首を傾げると、ジースさんがフレムを興味深げに見ていた。

「スライムって不思議な生き物ですよね。少し前から、魔法陣研究所に黒のスライムが住み着いているんですよ」

「住み着く? 誰かがテイムしているわけではないのか?」

ジースさんの言葉に、ギルマスさんが驚いた様子で尋ねる。

「はい。研究員の中にテイマーはいません。でも、ほらっ、少し前に領主会で配られたテイマーの心得本。あれにテイムしなくても、魔物がこちらに友好的なら問題ないってありましたよね」

フォロンダ公爵が領主だった頃に、領主会で配った本の事かな?

「あぁ、あったな」

「最初に研究所に姿を見せた時は、大混乱が起こりました。でも別に攻撃してこないし、テイマーの本は読んでいたので『大丈夫みたいだな』って誰かが言い出して、それなら自分たちの研究をしようかって事になったんです。最初はちょっと姿を見せるだけだったんですよ。でもそれが2週間もすると数時間過ごすようになって。黒のスライムのために誰かがクッションを置いたら、なぜか黒のスライムが時々2匹に増えて。それで気付いたら、1匹は完全に研究所に住み着いたみたいなんです」

「そうか。問題がなくてよかったな」

「はい。今は、ある研究員の世話をしてくれています」

「……世話?」

ジースさんの話にギルマスさんが不思議そうな表情をする。

「えぇ、仲間の研究員なんですけどね。放っておくと食事は抜くし、寝ない。注意しても聞かない。ちょっと問題児だったんです。でも今は、お昼になったらご飯を食べるまで、黒のスライム達が彼の頭の上で騒ぐんです。さすがの彼もお手上げみたいで、諦めて皆でお昼を食べるようになりました」

「それは、本当に世話をされているな」

「はい。最近では、彼の家にまで付いて行って世話をしてくれていますよ」

ジースさんの説明に、皆がなんとも言えない表情をする。

「スライムにお世話される人って……」

ランカさんの小さな呟きに、ラットルアさんとヌーガさんが頷く。

「まぁ、小さな事は気にしないので」

ジースさんの言葉にギルマスさんが溜め息を吐いた。

「そんな事より、行きましょう。今日の実験結果を皆が待っているので。あっ、違った。早く回収しないと命が危ないので」

絶対に「実験結果」が本心なんだろうな。

「確かに早く回収しないと駄目だな。アイビー、疲れていないか、大丈夫か? ソルも大丈夫か?」

お父さんが心配そうに私とソルを見る。

「私は大丈夫。ソルは大丈夫?」

「ぺふっ」

やる気になってるソルを見て、私は笑ってソルの頭を撫でる。

「ランカ」

「何?」

ギルマスさんに呼ばれたランカさんが、彼に視線を向ける。

「『炎の剣』は『星』の協力と護衛を頼む。これは指名依頼だ」

「わかったわ。皆もいいかしら?」

ランカさんがシファルさん達を見ると、シファルさん達は彼女を見て頷いた。

「問題なしね。指名依頼の書類は?」

ランカさんの言葉に、ギルマスさんが数枚の書類をランカさんとお父さんに渡した。

お父さんとランカさんは、書類を確認するとそれぞれ名前を書き込んだ。

「アイビー、ごめんな。今日の任務と救難信号の件もあって疲れているのに……」

「大丈夫です」

ギルマスさんが申し訳なさそうに私を見て言うので、私は笑って答える。

「ありがとう。そうだ、報酬は弾んでおいたから」

ギルマスさんの言葉にお父さんを見ると、お父さんは満足そうに笑って頷いた。

皆で冒険者ギルドを出ると、お父さんがジースさんに視線を向けた。

「道具を動かしてもらえますか?」

「わかりました」

ジースさんはお父さんの言葉に頷くと、ボタンを押して魔法陣を発動させた。

「ぺふっ! ぺふっ!」

ソルがさっそく楽しそうに鳴くと、冒険者ギルドの前にいる、3人の冒険者に向かって行った。

「えっ、もう見つけたの?」

私は驚いた声を上げると、ソルの後を追いかけた。

ソルは、1人の冒険者に向かって大きく飛び跳ね、彼の頭の上に着地した。

「うわっ。えっ、何?」

「動くな。黒のスライムだ」

仲間の冒険者の言葉に、ソルを頭に乗せた冒険者は動きを止めた。

「すみません。えっと……」

これって、どう言えばいいんだろう?

「失礼。スライムが乗っている君に聞きたい事があるんだけど」

お父さんの問いに、聞かれた冒険者は戸惑った表情をする。

「この状態でですか?」

「うん。『フーファ道具店』で、最近何か購入しなかったか?」

「フーファ道具店? あっ、攻撃力を少しだけ上げられるマジックアイテムを買いました」

「それを見せてくれるかな? 問題があるかもしれないんだ」

「えっ、問題ですか?」

お父さんの説明に、冒険者は驚いた表情をした。

「そう。命に係わる事だから冒険者ギルドから回収の指示が出たんだ」

「い、命ですか?」

「そう」

お父さんの話を聞いた冒険者は、少し顔色が悪くなると、ソルを落とさないようにそっと動き、腰からぶら下げていた縦5㎝、横3㎝程の板を見せた。

「これです」

「ぺふっ!」

ソルの嬉しそうな反応から、1個目を見つけた事がわかった。

それにしても、こんなにすぐに見つける事が出来るなんてすごいな。

と言っても、まだ91個を見つけないといけないんだよね。

がんばろ。