1124話 上位冒険者の役目
1124話 上位冒険者の役目
「中を確かめたほうがいいのか?」
お父さんがジースさんを見ると、彼は首を横に振る。
「いいえ、必要ありません。今は、すぐに無効化する事が最優先です」
「わかった。ソル、食べていいぞ」
「ぺふっ!」
ソルが、冒険者が持っている板ごと手を包み込むと、彼は目を大きく見開いた。
「あぁの~」
手をソルに包み込まれた冒険者が声を震わせながらお父さんを見る。
「問題を処理しているだけだから、そのままでいて欲しい」
「はい」
「ぺふっ」
ソルが、満足そうな鳴き声を上げて、冒険者の手と板から離れる。
「まずは1個目ね。これがあと91個……先は長いわね~」
ランカさんが少し疲れた表情で呟くと、シファルさんが彼女の肩をポンと叩いた。
「嘆いていても終わらないぞ」
「わかっているわよ」
「あれ?」
ドサッ。
道具を持っていた冒険者が戸惑った声を上げ、その場に倒れ込む。
「えっ、大丈夫?」
ランカさんとヌーガさんがすぐに駆け寄り、冒険者の状態を見る。
仲間の冒険者達は、倒れた冒険者の手を取り、声を掛けた。
「ルズ、ルズ。どうした?」
「落ち着いて。息はあるわね。でもかなり浅いわ」
「魔力切れを起こしたんじゃないか?」
ヌーガさんの呟きに、ランカさんが驚いた表情をする。
「でも話している様子から、そんな風には見えなかったわ」
「そうだが。魔力切れを起こして亡くなった者もいるから、調べてみたほうがいいと思う」
ヌーガさんの言葉に、ランカさんがルズさんの手をつかむ。
「本当だわ。ほとんど魔力が感じられない」
「ぷっぷぷ~?」
「えっ、ソラ?」
ソラはルズさんの傍に行くと、じっと見つめ、なぜか彼を包み込んだ。
「ランカ、手を放せ。お前達もだ」
ソラの様子を見たお父さんが、ルズさんの手を持っているランカさんと彼の仲間に声を掛ける。
ランカさん達は慌てて手を離すと、ルズさんの様子を見守った。
「ソラが治療するって事はどこかを怪我しているって事だよな?」
シファルさんが私を見て聞く。
「はい。そうだと思います」
ジースさんは、ジッと魔法陣を無効化した板に視線を向ける。
そしてソルに包み込まれているルズさんを見る。
「この道具に組み込まれたあれは、魔力を奪うために、魔力が溜まっている場所を傷つけたのかもしれません」
ジースさんの小さな呟きに、ランカさんが視線を向ける。
「あれ」って、魔法陣の事だよね。
外だから、魔法陣とは言わないのかな?
「もしそうだとしても、さっきまで彼は普通に見えたわ」
「あれには、まだ解明されていない文字があります。もしかしたら、それが関係しているかもしれません」
「ぷっぷぷ~」
ソラの鳴き声に視線を向けると、ソラがルズさんの胸元で彼の顔を見つめていた。
「調べるわ」
ランカさんがルズさんの手をつかむとホッとした表情をした。
「はぁ、魔力がさっきより感じられるようになったわ。もう大丈夫ね」
「「ありがとうございます」」
ルズさんの仲間の冒険者たちが、ランカさんとソラに向かって頭を下げる。
「どういたしまして。それより彼を医者に診せたほうがいいわ。ソラが治療したから大丈夫だと思うけど、魔力切れによる後遺症があるかもしれないから」
「わかりました。すぐに連れて行きます」
ランカさんの言葉に、2人の冒険者は頭を下げると、仲間を背負って急いで冒険者ギルドの中に入っていった。
「お父さん、冒険者ギルドに医者がいるの?」
「あぁ、魔力関係なら冒険者ギルドが抱え込んでいる医者に診てもらうのが一番だ」
そうなんだ、知らなかったな。
「はぁ、無効化したら魔力切れで倒れるなんて……」
「無効化しないほうがいいって事なのかな?」
ランカさんの言葉に、私は小さく呟く。
「違います。急がないと駄目だという事です」
ジースさんが私を見る。
「さっきの彼の様子から、魔力が減っている事に気付いていなかったと思います。彼の傍にいる仲間も、そして魔力に関して鋭いあなた方ですら。間違いなくあれのせいです。急がないと、死者が増えるかもしれません」
ジースさんの説明に、ランカさんが嫌そうな表情をする。
「これは時間との勝負ね」
「問題になっているのは『フーファ道具店』で買った道具だけかしら」
どこか甘い印象を受ける声が聞こえ視線を向けると、見惚れてしまいそうな美しい女性がいた。
「キルス、久しぶりね」
ランカさんが少し驚いた表情でキルスさんを見た。
「長期依頼で王都を離れていたからね。それで、答えは?」
「そうよ。問題になっているのは『フーファ道具店』で売っていた道具よ」
「黒のスライム……はぁ、あれの問題なのね」
キルスさんが、なんとも言えない表情で溜め息を吐く。
「そうよ、正解」
「持っている奴がいたら冒険者ギルドに行かせたらいいか?」
男性の声に視線を向けると、小柄な男性がキルスさんの隣に立つ。
「えぇ、もし持っている者がいたら、命の危険があるから冒険者ギルドに行くように伝えて。冒険者ギルドで、対応してもらえるわよね?」
冒険者ギルドから顔を出していた職員が、ランカさんの言葉を聞いて腕で大きな丸を作る。
それを見たキルスさん達は頷いた。
「期間は?」
「えっ?」
男性の問いに、ランカさんが首を傾げる。
「『フーファ道具店』での購入期間だ。1月以内なのか半年以内なのか」
「3週間以内です」
男性に向かってジースさんが声を出す。
それを聞いた男性は頷いた。
「わかった。3週間以内に『フーファ道具店』で道具を買った者を探せばいいんだな」
男性はそう言いながら、周りを見渡す。
男性の視線を受けた冒険者達は頷くと、それぞれ移動を始めた。
「ありがとう。助かるわ」
ランカさんがキルスさんと男性にお礼を言うと、キルスさんはランカさんに向かって微笑む。
「若い冒険者を守るのは、私達のような上位冒険者の役目よ。だから気にしないで」
「そうだぞ、気にするな。さて、一昨日、新しい道具を買ったと喜んでいた弟子のところにでも行くか。どこで買ったのか聞いていなかったからな」
キルスさんと男性は、ランカさんに挨拶をすると、私達に向かって手を振って離れて行った。
「これである程度の数は冒険者ギルドに集まるでしょうね。私達も次へ行きましょうか」
ランカさんの言葉に頷くと、下位冒険者達が集まる店があるらしいので、行く事にした。
店に付くと、中を覗き込む。
「かなり混んでいるな。試してみるか」
お父さんがジースさんを見ると、彼は頷きボタンを押した。
「ぺふっ! ぺふっ! ぺふっ!」
ソルは店の中に入ると、少し困った様子を見せた。
「誰が持っているかわからないの?」
私の問いに、ソルは体を左右に振る。
「もしかして1個じゃないのか?」
お父さんの問いに、ソルが飛び跳ねながら鳴く。
「ぺふっ」
えっ、この店の中に複数あるの?
「いらっしゃいませ。えっと……お客さまですか?」
店員さんが傍に来ると、私達を見て戸惑った表情をした。
お店で飲んでいる人達も私達に気付くと、ちらちらとこちらに視線を向ける。
「あれって……」
「本物だ」
「こんな近くで見られるなんて」
「うわ、スライムもいるぞ」
小さな呟きが聞こえると、ソラとフレムがシエルの傍による。
ソルは、落ち着きなくプルプルと揺れ出した。
「ごめんね。『フーファ道具店』で3週間以内に買い物をした冒険者達を探しているの、お店の中を見て回っていいかしら。命に関わるのよ」
「はい。どうぞ。ご自由に!」
命に関わると聞いた瞬間、店員さんが大声で許可を出した。
「ぺふっ」
店員さんの許可が聞こえた瞬間、ソルがある男性に向かって飛び跳ねる。
「ひっ」
コップを持ってこちらを見ていた男性は、ソルが迫っているのを見て悲鳴を上げた。
「動かないで!」
ランカさんの大声に、店の中にいた全員が動きを止める。
「ぺふっ、ぺふっ」
ソルがうれしそうに、男性の頭の上から私に向かって鳴く。
「2個目発見ね」
店の中の、なんとも言えない雰囲気を全く気にせず、ランカさんがソルに近付く。
「ソル。ありがとう」
ランカさんはソルをほめると、事情を話すために男性に視線を向けた。